第24話 双子の告白と、最弱の盾の選び方
【翌日・事務所】
「うぅ……机が……椅子が……予算が……」
寒風吹きすさぶ事務所で、ルインがガムテープ片手に割れた窓を補修しながら、壊れたラジオのように念仏を唱えている。
事務所は半壊状態だ。壁には芸術的なヒビが入り、床板はめくれ上がり、天井からは配線がダラリと垂れ下がっている。昨日の「室内ピンボール」の爪痕は、あまりに深かった。
「元気出せよルイン。風通しが良くなっていいじゃん。換気バッチリだぞ」
「冬になったら凍死しますよ!アリス、君は少しは反省しろ!」
アタシは瓦礫の山の上に王様のように座り、鮭おにぎりを齧っていた。海苔がパリパリで美味い。
その時、蝶番が壊れて斜めになったドアが、ギイィ……と不吉な音を立てて開いた。
「ただいま戻ったよ。……ん?」
入ってきたのは、予算会議から帰還したヒルダ団長だった。彼女は入り口で立ち止まり、まるで爆撃を受けたかのような室内と、そして瓦礫の上で飯を食うアタシをゆっくりと見回した。そして、紫煙をふぅーっと吐き出しながら言った。
「おお……派手にやってるねぇ」
「団長ぉぉぉ!!」
ルインが泣きながら駆け寄った。
「帰ってきて早々、その他人事みたいな感想は何ですか!不在中に大変だったんですから!鉄壁伯爵家の執事が攻めてきて、アリスが暴れて、事務所が更地に……!」
「まあまあ。怪我がなくて何よりじゃないか」
「心の怪我が致命傷ですよ!」
団長は瓦礫をヒョイヒョイと避け、奇跡的に無事だったソファにドカッと腰を下ろした。
「で、どうなったんだい?相手は」
「撃退しました。……でも、宣戦布告されたけどな」
アタシがおにぎりを飲み込みながら答えると、団長は「ふーん」と面白そうに笑った。
「大貴族相手に喧嘩売るとは、いい度胸だ。……ま、とりあえず私は二日酔いで頭が痛いから寝るよ。起こさないでおくれ」
「この状況で寝るんですか!?」
ルインの絶叫を無視して、団長はアイマスクを装着し、瞬時に寝息を立て始めた。この人の肝っ玉も、ある意味「鉄壁」かもしれない。
さて。
あの双子の姿が見えない。
「……あいつら、また引きこもってんのか?」
アタシが立ち上がった時、部屋の隅に置かれた「みかん」と書かれた大きめの段ボール箱(簡易シェルター)がモゾモゾと動いた。
「……アリスさん」
箱の蓋が少しだけ開き、中からチコとリコがおずおずと顔を出した。捨て猫のような、湿った目をしている。
いつもなら「近寄るな菌が移る」「視界に入るなゴリラ」と毒づくリコも、今日ばかりは神妙な顔をしている。
二人の手には、パンパンに膨らんだ小さなボストンバッグが握られていた。
「……出ていきます」
「は?」
チコが泣きそうな、震える声で続ける。
「私たちがここにいると、迷惑がかかります。あのお父様は……本気です。次は私兵じゃなくて、本物の軍隊を寄越します。ここが戦場になっちゃう」
「第四救護団ごと潰される前に、私たちが出頭すれば済みますから」
二人は段ボールから這い出し、立ち上がって出口へと向かおうとした。
その足取りは重く、生まれたての子鹿のように震えている。恐怖で逃げ出したいのに、仲間のために犠牲になろうとしている。
……いじらしいねぇ。そういう自己犠牲(お涙頂戴)、アタシは一番嫌いなんだよ。アタシは食べかけの2個目のおにぎりを瓦礫の上に置き、立ち上がった。
「誰が出て行っていいと言った?」
「えっ……」
アタシは白衣のポケットに手を突っ込み、出口へ向かう二人の前に立ちはだかった。
「お前ら、実家じゃなんて呼ばれてた?」
双子は顔を見合わせ、唇を噛んで俯いた。
「「……『失敗作』です」」
「鉄壁伯爵家の人間は、敵を恐れてはいけない。常に最前線で、無表情で攻撃を受け止める『鋼の精神』を持てと教えられました」
「でも、私たちは怖がりで、泣き虫で……。訓練でも敵前逃亡ばかりして……『家の恥晒し』だって」
なるほど。
あのクソ執事が言っていた「資材」とは、そういうことか。感情を持たない、恐怖を感じない、ただ命令通りに動く便利な鉄板。それが伯爵家の望む「盾」の理想形らしい。
「だから、戻って『再教育』を受けるんです。……感情を殺す手術をされれば、恐怖も感じない、立派な盾になれるから……」
チコの目から大粒の涙がこぼれた。
リコがスカートの裾を握りしめ、睨むようにアタシを見る。その目は「止めるな」と訴えていた。
「……どいてください。これ以上、あなたたちに迷惑は……」
パチィン。
乾いた音が響いた。
「いったぁっ!?」
アタシはリコの広い額に、渾身のデコピンを叩き込んだ。リコが涙目で額を押さえてうずくまる。
「バカかお前ら。感情殺したら、バリア張れなくなるだろ」
アタシは呆れて、大きくため息をついた。
「お前らのバリアの強度は『恐怖心』に比例してるんだろ?『怖い! 死にたくない! 近寄るな!』って本気で思うから、ドラゴンブレスも弾く最強の盾になるんじゃねぇのか?」
アタシはしゃがみ込み、二人の華奢な肩をガシッと掴んだ。逃さないように。
「その情けない『ビビリ根性』こそが、アタシには必要なんだよ」
「「……え?」」
二人がキョトンとして顔を上げる。
「恐怖を感じない盾なんて、ただの鉄板だ。そんなもん、そこら辺の武器屋にいくらでも転がってる。金出せば買えるんだよ。でもな、『死ぬほど怖がりだから、絶対に攻撃を通さない盾』ってのは、世界中探してもお前らしかいねぇ」
アタシはニカっと、悪戯っぽく笑った。
「アタシはな、お前らが鼻水垂らしてギャーギャー泣き叫びながら張る、あの必死で無様なバリアが気に入ってんだよ。……誰が何と言おうと、アタシがお前らを肯定してやる。だから『再教育』なんてクソくらえだ」
双子がポカンとして、言葉を失っている。
アタシは二人の手からボストンバッグをひったくると、部屋の隅へ向かって豪快に放り投げた。
「帰る場所なんてねぇぞ。お前らの就職先はここだ」
そして、アタシは究極の二択を突きつけた。
「実家に帰って心を殺されて『ただの道具』になるか。ここに残って、アタシに文句言われながら投げ飛ばされて、『人間らしく』ギャーギャー生きるか。……どっちがいい?」
しばらくの沈黙。
風が吹き込み、瓦礫がカサカサと音を立てる。
やがて、チコが涙を袖で乱暴に拭い、リコがズズッと鼻をすすった。
「……アリスさんに投げられる方が、マシです。再教育よりは痛くないし……」
「……ここなら、ボーグさんのご飯が食べられるし。あっちの保存食はもう嫌……」
二人は顔を見合わせ、そして堰を切ったようにアタシに飛びついてきた。いや、正確にはアタシの純白の白衣に、弾丸のようなタックルをかましてきた。
「うあぁぁあん!怖かったぁ……怖かったよぉぉ……っ!手術やだぁ……感情なくなるのやだぁ……っ!ずっとここにいるぅぅ!」
チコが子供のように泣きじゃくり、アタシの腰にしがみつく。その涙と鼻水が、高級シルクのように滑らかな白衣に容赦なく擦り付けられる。
「うぅ……ぐすっ……勘違いするなよバカゴリラァ!礼なんて言わないからな!お前が引き留めたんだ、絶対責任取れよな!一生寄生してやる!お前のすねをかじり倒して、食費で破産させてやるから覚悟しとけぇえええ!」」
リコも反対側からしがみつき、アタシの腹に顔を埋めながら悪態をつく。
「ぐえっ……重い!締め付けるな!鼻水をなすりつけるな!」
アタシが二人の頭を押さえつけて喚いていると、背後からパチパチパチと温かい拍手が聞こえた。振り返ると、ボーグがエプロンで目元を拭いながら涙ぐんでいる。
「あらあら、良かったわねぇ。家族会議終了ね♡今日はお赤飯よぉ!」
「団長!これで伯爵家との対立は決定的ですよ!どうするんですか!僕の胃はもう限界です!」
ルインが頭を抱えて悲鳴を上げている。
ソファで高いびきをかいていたヒルダ団長が、騒ぎに片目だけ開けて言った。
「んぁ? ……やるしかないねぇ。……アリス、作戦はあるのかい?相手はプロの軍隊だよ」
「あるよ」
アタシは双子の頭をグリグリと力任せに撫で回しながら、不敵に笑った。
「向こうが『軍隊』で来るなら、こっちは『地の利』で迎え撃つ。……ここは第四救護団のシマだ。土足で踏み込む奴には、高い授業料を払ってもらう」
アタシは拳をボキボキと鳴らした。
「総員、戦闘準備!明日は事務所の大掃除(防衛戦)だ!」
こうして、アタシたちは、王国防衛の要・鉄壁伯爵家の私設軍隊を迎え撃つための準備を始めた。
『面白い!』
『続きが気になるな』
そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。
あとブックマークもよろしければお願いします(。・_・。)ノ




