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第3話 獅子の目覚め

 フォルスター村は、四方を深い森と険しい山々に囲まれた小さな集落だった。村人たちは、この 広大な森と共存しながら生きていた 。


 森は 狩りの場であり、木材や薬草を得る恵みの場 でもあるが、一方で 危険も潜んでいる場所 だった。村の年長者たちは 「奥深くには決して入るな」 と昔から言い伝えていた。


「この森には、人間の手に負えない何かが眠っている。」


 長老オルドがそう語るのを、アルカも何度か聞いたことがある。


 だが、日常的な狩りや採取は村の生活に欠かせない。ダリオやアルカも、村の男たちとともに狩りをすることがあった。


 朝早く、アルカ、ダリオ、カイネの三人は森へ向かって歩いていた。


「今日は、鹿を仕留められるかな?」


 アルカが期待に胸を膨らませながら、ダリオに尋ねた。


「鹿がいればいいがな。最近、獲物が減ってるって村の連中も言ってた。」


「たしかに……いつもなら、この辺りで兎ぐらいは見かけるのに。」


 カイネが辺りを見渡しながら呟く。


「ま、俺たちが狩りを失敗するなんてことはないだろう。」


 ダリオが軽く笑いながら、背負った弓を調整する。


「兄さんは剣があるけど、僕は弓の腕をもっと磨かないとね。」


「弓だけじゃなく、獲物の動きを読むのも大事だぞ。今日の狩りでしっかり学べ。」


 ダリオがアルカの頭をくしゃくしゃと撫でると、アルカは少しむくれた顔をした。


「もう、子供扱いしないでよ!」


「じゃあ、そろそろ本気で獲物を探すか。」


 ダリオが周囲を見渡し、狩りの準備を整える。


 太陽の光が森の隙間から降り注ぎ、木々の葉が風に揺れる音がかすかに響いていた。普段なら小鳥のさえずりや、小動物の足音が聞こえるはずだった。しかし、今日は異様な静けさが森を支配していた。


 アルカは息を潜め、慎重に獲物の気配を探る。


「アルカ、そっちへ回れ。カイネは後ろを見ておいてくれ。」


 ダリオの低く落ち着いた声が響く。アルカは頷き、ゆっくりと移動した。だが、その間も 森の静寂がどこか不気味に感じられた 。


(何か……おかしい。)


 カイネは身震いした。まるで森全体が 息を潜め、何かを待ち構えている ような違和感があった。


「……やめよう。」


 不意にカイネが小さな声で囁いた。


「何かが変だ。今日は戻ったほうがいい。」


 アルカは驚いたように振り向いたが、ダリオもまた周囲を警戒していた。


「……確かに、妙だな。」


 その瞬間―― 森の奥から異様な咆哮が響いた。


 それは、獣の鳴き声とは違う、 何かがねじれ、歪み、苦しんでいるような音 だった。


 次の瞬間、木々が揺れ、大地が震えた。


 木々の奥から、 焦げ付いたような黒い毛並みを持つ巨大な狼 が姿を現した。その背後には、鋭い爪を持つ熊、血走った眼の猪、そして無数の小動物たちが続いていた。


 しかし、彼らはただの野生の獣ではなかった。


 その身体は どこか腐敗し、皮膚は異常に硬化し、眼には狂気の光が宿っていた。


 獣たちは迷うことなく 人間を狙って襲いかかってきた。


「な……!」


 アルカは息を飲んだ。


「アルカ! カイネ! 逃げろ!」


 ダリオが剣を抜き、獣たちと対峙する。しかし、その数は多く、動きは獣本来のものとは異なっていた。


  まるで、何かに操られているかのように……。


 ダリオの剣が狼の牙を受け止め、鋭い金属音が響く。彼の動きは鋭く、村の剣士として鍛え上げた技で次々と獣を斬り伏せた。


 だが――


「……硬い!」


 剣が熊の皮膚を切り裂こうとしても、表面に弾かれるような感触があった。


「兄さん!」


 アルカも必死に剣を振るうが、まともにダメージを与えられない。


  次第に獣たちが彼らを包囲し、逃げ道を塞いでいった。


「くそ……数が多すぎる……!」


 ダリオが歯を食いしばる。


  その時――異形の狼がカイネに向かって跳んだ。


「カイネ!!」


 アルカが叫ぶ。しかし、カイネの足は恐怖で固まっていた。


 狼の牙が彼女に届こうとした瞬間――


  ダリオがその間に飛び込み、カイネを庇った。


 獣の爪がダリオの背中を抉り、彼の身体が地面に叩きつけられた。


「兄さん!!」


 アルカが駆け寄るが、次の瞬間、 ダリオが動けない状態で、異形の獣が二人に向かって牙を剥いた。


  このままでは、アルカとカイネの命が消える――。


  金色の光が爆発した。


 その光はまるで、 天を揺るがす獅子の咆哮のように轟いた。


「――――はぁぁッ!!」


 ダリオの剣が、一閃。


  斬撃がまるで光の波となって獣たちを薙ぎ払う。


 倒れた獣たちは 金の光の粒となり、塵へと消えていく。


 残った獣たちは、本能的に恐怖を感じたのか、一斉に後退し、森の奥へと逃げていった。


 ダリオの体から立ち昇る 金色のオーラ が、ゆっくりと消えていく。


  彼は荒い息を吐き、その場に崩れるように倒れた。


「兄さん!!」


 アルカとカイネが駆け寄る。


  ダリオは、気を失っていた。

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