10.エルネスティーネ
サモトックから買って来た新鮮な魚介の数々を目の前に、トーリはさて何を作ろうかと思案した。
新鮮さは時間と共に失われる。ひとまず魚の内臓や鰓、鱗を取ってしまおうと買って来た魚を並べた。
海とは縁なく育って来たトーリだが、川魚は何度も扱っている。だから魚をさばくのも不慣れではない。イカは少々やりづらくはあったが、それでも何とかさばいた。
「えーと、墨袋を潰すとまずいんだっけ……」
内臓は別にして、身と足は綺麗に拭いて冷蔵魔法庫にしまっておく。夕食の時にフリットにしようという計画だ。あの露店で買った魚介のフリットが、トーリには忘れられなかった。
大きめの魚は身とアラとに分けて、アラは野菜くずや香草と一緒に煮込んでスープを取る。身の方は軽く塩をして冷蔵魔法庫に仕舞い込んだ。
「へぇー、手際いいわねえ」
声がしたので振り向くと、いつの間にかエルネスティーネが椅子に腰かけて面白そうな顔をしていた。手に持ったコップからブランデーをちびちび舐めている。
「いたんですか、エルネスティーネさん」
「もう、そんな他人行儀な呼び方じゃなくて気軽にお義母さんって呼んでくれていいのよ?」
「いや、まだ俺とユーフェはそういう関係じゃないんで……」
「なによそれ。あなた、遊びで付き合ってるつもりなの?」
「い、いやいや、そういうわけじゃ……元々家事をするのに雇われたんですよ、俺は」
「ははーん、それであの子に惚れたってわけね」
「いや、どっちかっていうと、俺からというよりユーフェから……」
「ふぅん? でも好きなんでしょ?」
「まあ、そりゃ……はい」
エルネスティーネはにやにやしながらブランデーを舐めた。
「なんか、あなたいいわねえ。あんまり擦れてないところが」
「どうも……」
何となくやりづらい。エルネスティーネがユーフェミアの母親だというのが、トーリにとっては距離感を掴みあぐねる要因の一つであった。そういう関係の相手でなければ、もう少し雑に扱いそうなものだが、仮にも未来の嫁の母親である。どうしてもおっかなびっくりといった対応になってしまう。
尤も、エルネスティーネの方はちっとも意に介していない様で、淡々と料理の下ごしらえをしているトーリを面白そうな顔で眺めている。
「ユーフェはどうしてます? 寝ました?」
「うん、寝ちゃった。あの子よく寝るのよね、本当に」
「ですよね。サモトックでもずっと寝てたもんな……」
「あら、サモトックに行ってたの」
「ああ、はい。ユーフェが行きたいって言って」
「懐かしいわねー。昔家族で遊びに行ったわ」
とエルネスティーネは遠い目をした。トーリは肩をすくめ、下ごしらえした食材を冷蔵魔法庫にしまった。エルネスティーネは手でぱたぱたと顔を仰いだ。
「にしても、台所暑いわねー。居間は温度調節されてるのに」
「あー、前にユーフェに頼んでみたんですけど無理らしくて」
「ふぅん? まあ、確かにこれだけ狭い上に熱源が多いんじゃ難しいか……あら、もう終わり?」
「まだ他にする事があるんですよ。本調理はまだ後です」
「ふーん? 料理っていっぺんにがーってするもんじゃないのね」
エルネスティーネはよくわかっていないらしい。そういえば、この人も家事全般を夫にやらせていたんだっけと思った。
「一応言っときますけど、つまみ食いとかしないでくださいよ?」
「しませんよーだ!」
エルネスティーネはあっかんべえと舌を出した。見た目だけではなくノリも妙に若い。
居間に行くと、ソファではシノヅキとスバルがダレていた。シシリアは相変わらず本を読んでおり、セニノマは細工物を黙々とやっている。午前中まではサモトックにいたのが信じられないくらい即座に日常に戻ってしまった。
もう日は傾いて、そこいらにかかる影が長くなった。重い日差しがでじわじわと汗がにじむ。
(洗濯は明日だな……)
思ったよりも魚介の処理に手間取ったので洗濯はできていない。明日もいい天気だといいけれど、と思いながら、トーリは再び畑に水をまき、鶏とアヒルに餌をやった。畑から野菜を収穫し、鶏やアヒルの卵も回収しておく。
エルネスティーネもいるし、夕飯はいつもより多めに作った方がいいだろう。
魚の焼き物とフリット、オムレツにピクルス、あとは練った生地で麺を作って、適当にソースを絡めればよさそうだ。
トーリは頭の中で献立を考えながら家に入った。
食卓ではエルネスティーネとシシリアが向き合って、チェス盤を広げていた。駒を漫然と動かしながら雑談に興じている。
「でねぇ、結局術式演算の第四定理を当てはめるのがそもそも間違いだったわけ。魔法陣の立体性が大事だと思い込んでたけど、そうじゃなかったのよ」
「ふぅん。それで思い切って平面陣の構成にしてみたってわけぇ?」
「そうなのよ。そしたら思ったよりそれがカチッとはまってね、これはと思って螺旋構築の式を入れてみたの。そしたら魔力の伸びと空間穿孔の効率がぐっと上がったのよ」
「ああ、術式じゃなくて魔力の方を螺旋式にして上昇させるって事ねぇ」
「そうそう。魔法陣の構造じゃなくて、魔力の指向性と変換効率を重視した方がよかったってわけ。今までは立体魔法陣至上主義的な所があったから頭コチコチだったわ。反省反省」
何だか物凄く高度な話をしている様な気がする。トーリにはちんぷんかんぷんである。
シシリアが駒を動かして言った。
「でも定点転移の演算はまだ不完全みたいじゃない」
「そうなのよー。地上まで来たのはいいけど全然別の所に出ちゃって。人はいないし、何かモンスターはいるし。まあ、ちょいちょいっと倒したけどね」
「引きこもってた癖に腕は衰えてないみたいねぇ。相変わらず魔法使いの癖に剣を使ってるのぉ?」
「おほほほ、“赤剣の魔女”の名は伊達じゃありません事よ。ちまちま遠くから魔法を撃つより、近づいて炎の剣でスパーンっといった方が気持ちいいじゃない」
魔女なのに剣士みたいな戦い方をするのか、とトーリは何だか面白い気持ちになった。冒険者時代、前衛と後衛とはきっちり役割が分担されていた。魔法使いは後衛で、前に出る事はほとんどない。
エルネスティーネがコップを持った手を上げてにゃははと笑った。
「おっ、トーリ君お帰り! あら、野菜に卵に……どうしたの、それ?」
「ああ、うちで育ててるんですよ」
「あれまあ。はー、ユーフェったらホントにいい男捕まえたわね」
「うふふ。トーリちゃんのおかげでいつもご飯がおいしいのよぉ?」
「うちの旦那とどっちが上手かしらね。あー、でも食材の質は地上の方がいいからなあ」
「アーヴァルは味付けが濃いじゃないの」
「塩っけがあった方がお酒には合うじゃない」
とエルネスティーネはコップに口をつけた。
お父さんはアーヴァルっていうのか、とトーリは思った。
そういえば前にユーフェミアは父親の料理はそれほど好きではないと言っていた。酒飲みの舌に合わせた味付けでは、確かに飲まない人間には少し味わいが違うかも知れない。結局は好みの問題なのだろうが。
トーリは食材を置くと、風呂釜に水を溜めた。そして外の焚口に薪を突っ込んで火を点ける。家に入って、ソファでグダグダしているシノヅキとスバルに声をかけた。
「今さ、風呂焚いてるから後で様子見といて。俺晩飯作るから」
「あーん? めんどっちいのう……」
「トーリがやれよー」
「いいだろ、それくらい手伝ってくれても。たまにお湯の温度見るだけでいいからさ」
使い魔二匹はもごもごと要領を得ない事を言っていたが、トーリは無視して踵を返した。
もう辺りは薄暗い。ひとまず台所に入り、夕飯の本調理を始めた。
スープストックに具材の野菜や魚を入れて煮込みつつ、生地を麺に仕立てて茹で、炉に火を入れて、フライパンで魚を焼く。皮目がバリっとなるまで焼いたら、茹で上がった麺を添えて、別に取っておいたスープストックに香辛料や乳を足してソースにしたものをかける。ピクルスは別皿に盛った。
ぺろりと味を見て、トーリは頷いた。
「うん、よし。おーい、飯だぞ。持ってってー」
と言いながら卵を割る。たちまちシノヅキとスバルが現れた。
「おお、今日はお魚じゃの。あの市場で買って来たんか?」
「そうそう。どれも新鮮だからうまいぞ」
「わーい、これ持ってく?」
「うん、そっちの皿は持ってっちゃっていいや。あと煮込みの鍋もね」
「まだ何か作るの?」
「おう、だから先に食ってろ。えー、と、油、油……」
硬くなったパンをすりおろして粉にし、ひと口大に切った魚やイカにまぶして熱い油でからりと揚げる。揚げ立てに塩を振り、レモンを絞って食べる。一つつまんだトーリは、満足げに頷いた。
「うめえ。やっぱ素材だなあ」
アズラクで手に入る食材では、こういった素材に依存する料理は難しそうだ。川魚も揚げればうまいけれど、やはり海の魚介類というのは味わいが少し違う様に思われる。
フリットを出し、オムレツを焼いて、ひとまず料理がひと段落した。サモトックで手に入れた香辛料なども使ったから、普段とは少し味わいが違うかも知れないが、皆うまそうに食べている。
しかしエルネスティーネだけは何だか不満そうだった。
「……駄目だわ」
「味薄かったですか」
「ううん、超おいしい。うちの旦那と遜色なしっていうか、もしかしたら上かも。でも……」
「でも?」
「麦酒がないなんて……」
エルネスティーネは恨めしそうな顔をしてユーフェミアを見た。
「ユーフェ、母様麦酒飲みたい。よく冷えた白ワインでもいいわ」
「ない」
「もう!」
「大体アポなしで急に来たのはそっちじゃろ。自分で買って来りゃいいものを」
とシノヅキが言った。エルネスティーネは口を尖らした。
「ずっと魔界にいたから地上のお金なんか持ってないのよ」
「やっぱダメダメじゃーん」
「くそっ、味方がいない……」
エルネスティーネは悔しそうに手に持ったコップにブランデーの瓶を傾け、そうして顔をしかめた。
「トーリ君、ブランデーなくなっちゃった」
「え? あの量をもう飲んじゃったんですか?」
まだ3分の2は残っていた筈である。蒸留酒は醸造酒と違ってそうぐびぐび飲めるものではない筈なのだが。
ユーフェミアが呆れた様に首を振った。
「母様、そんなに飲むとまた二日酔いになるよ」
「なりませんー」
「なる。いっつも飲んでる時は平気なのに、翌朝ひどいもん」
そうらしい。そういえば、最初にユーフェミアから母親の話を聞いたのは、エルネスティ―ネが二日酔いだった時の事だった気がする。
「……そういえば、寝床どうする? お前のベッド、もう四人で詰め詰めだろ?」
「……どうにかする」
「床に転がしとけばいいよ」とスバルが言った。
「どうせ寝相が悪いんじゃ。ただでさえスバルが邪魔っけなんじゃから、エルネスティーネまで来られちゃ迷惑じゃい」
「うっさいわよ、あんたたち。使い魔なんだから用がないなら魔界に帰りなさいよ」
「あら、用ならあるわよぉ? トーリちゃんのご飯を食べなくちゃ」
「それ用事か?」とトーリが言った。
「トーリ、シチューおかわり」
「ボクも!」
とユーフェミアとスバルが皿を突き出した。ずっと喋らずこそこそと食べていたセニノマも、遠慮がちに皿を差し出した。
「ああ、はいはい……エルネスティーネさん、ワインは飲んじゃ駄目ですよ、約束したでしょ」
こそこそと台所に行こうとしていたエルネスティーネは、不満そうに頬を膨らました。
「なんでよう! このフリットにお酒を合わせられないなんて、むしろ料理が可哀想じゃないの!」
それはそうかも知れないが無い袖は振れぬ。この上料理用のワインまで飲み干されては大変である。しかしそんな事をしている隙に、シノヅキやスバルがフリットをぱくぱく食べていた。
どたばたと夕飯を終えて、また銘々の夜の時間がやって来た。
セニノマは早々に帰り、シシリアは本の続きを開き、シノヅキとスバルはカードを出した。
酒がなくて不機嫌らしいエルネスティーネは、鬱憤を晴らすつもりなのか、寝室に逃げようとじたばたするユーフェミアをひっ捕まえて風呂場に入って行った。
「こら、逃げるな! いつもちゃんと髪の毛洗ってるの!?」
「トーリに洗ってもらうもん……」
「そういう所まで母様の真似しないでいいの!」
じゃぶじゃぶという水音と一緒に騒がしい声が聞こえている。母娘水入らずだが、ちっとも落ち着いた風ではない。
(……ブランデーあれだけ飲んで風呂なんか入って平気なのか?)
トーリは少し不安だったが、もう入ってしまったものは仕方がない。
食後のお茶をすすっていたシノヅキが、満足げに息をついた。
「はー、やっぱりトーリの飯がうまいわい。宿の飯も悪くなかったがのう」
「食べててホッとするよね」
とスバルも言った。トーリは何となくむず痒い気分で頬を掻いた。
「でも、今日は香辛料とか材料とか、色々変えてみたんだけど……同じだった?」
「いや、違ったぞ。まあ、そういう細かいところはそうじゃが、基本の味は変わらんじゃろ」
「わたしたちって地上にいる様になってから基本的にトーリちゃんのご飯しか食べてないものねぇ。そりゃ舌が馴染んじゃうわよぉ」
とシシリアが笑った。
確かに、トーリがここに来るまでは使い魔たちも仕事が終わり次第に魔界に帰っていて、地上で食事などとっていなかった。ある意味、使い魔たちにとって地上の味というのはトーリの味付けなのである。
それも妙な話だなあと思いつつ、トーリは食器を洗い、翌朝の仕込みをした。
その間にユーフェミアたちも風呂から出て来たらしい。
ほこほこと湯気を立てながらユーフェミアがやって来て、パン生地をこねていたトーリの後ろから抱き付いた。
「なんだなんだ」
「ん」
ユーフェミアはトーリの背中に顔を埋めてふがふが言った。洗ったらしい髪の毛を結い上げてタオルを巻いている。風呂ですっかりぬくまっているから、何だか背中の方がほこほこと温かい。
「母様に全身洗われた……」
「よかったじゃねえか、綺麗になって」
「トーリに洗って欲しかった」
「いや、自分で洗えよ普段から……」
ユーフェミアはむうと頬を膨らまして、もそもそとトーリに抱き付き直した。
「……父様に連絡して引き取ってもらわないと」
「連絡できるのか?」
「うん。普段は閉じてるけど。父様うるさいんだもん」
どうやらユーフェミアはあまり父親の事は好きではないらしい。トーリは苦笑しながらパン生地を丸めた。だが、母親の事は決して嫌いではなさそうだ。ちょっとずれているけれど言われた事をちゃんと守っているし、急に押しかけて来ても、扱いこそ雑だけれども受け入れている。
「お母さんの事は好きなんだろ?」
「うん。でもお酒飲んでる時の母様は嫌い。お酒飲んでない時の母様は可愛いから好き」
え? 可愛い? とトーリは首を傾げたが、酔っていないエルネスティーネの事は知らない。案外素面の時はまともな人なのかも知れない。
パン生地の仕込みを終えたトーリは、ユーフェミアをぽんぽんと撫でた。
「湯冷めするぞ。布団に入っちゃえよ」
「んー」
便便としているが眠い事は眠いらしく、ユーフェミアは抱き付いたままもそもそと身じろぎした。トーリは肩をすくめ、ユーフェミアを支える様にして居間に戻った。
風呂はシシリアが入っているらしい。シノヅキとスバルは何度目かのカードを配っていた。
エルネスティーネが食卓に突っ伏している。相変わらずの下着姿である。似た者母娘め、とトーリは額に手をやった。
「エルネスティーネさん、何か着ないと風邪引きますよ」
「うぐ……まずいわ、のぼせかけた……くらくらする」
「あれだけ飲んでから風呂入ったらそうなりますよ」
「麦酒飲めば復活するのに……」
「うちにはありませんし、それは復活とは言いません。ほら、ここで寝ちゃ駄目ですって」
片側に娘、片側に母親を支えた。何だこの状況、とトーリはやや困惑しつつも寝室に行き、母娘をベッドに放り込んだ。ユーフェミアはむぐむぐ言いながらもそもそと服を脱ぎ出す。エルネスティーネは仰向けになって目元を腕で隠す様にして唸っている。トーリはさっさと寝室を出た。
「……二日酔いか」
ユーフェミア曰く、エルネスティーネは飲んでいる時はいつまでも元気に飲んでいるらしいが、一度寝て起きると二日酔いになってひどいらしい。
「麦粥でも作る様かな」
一応気にしておいて悪い事はないだろう。下手したら汚れた寝床を片付ける事態になるかも知れないが、それはそうなった時の話で、今は考えないでおく。
ひとまず朝食の仕込みはしたし、パン用に窯の中も予熱した。片付けも終わったし、もう自由時間である。お茶でも飲むかとトーリはポットの茶葉を取り替えた。
「トーリ、おぬしもやらんか」
「遊ぼうぜ、お兄ちゃーん」
とシノヅキとスバルが手招きした。
「いいぞ。今お茶新しく淹れるからちょっと待って」
「お菓子はねえんか?」
「あるけど、この時間にはやめとけって」
「いいじゃん、ちょっとだけ。お願い、お兄ちゃーん」
スバルがわざとらしく媚びを作って手を合わせる。トーリは肩をすくめて、皿にクッキーを幾つか載せて来た。トーリは暇な時にこういう焼き菓子をこしらえて、湿気取りの石と一緒に缶に密閉している。なんだかんだいって割と甘いところのある男である。
カードを配りながらシノヅキが言った。
「なんか旅行に行ったのが嘘みたいな気分じゃわい」
「シノさんもか。俺もだよ」
「一応、午前中はあっちにいたのにねー」
と言いながらスバルはクッキーを頬張っている。
「結局ユーフェはずっと寝てたしな」
「じゃの。あいつは寝る事が人生の楽しみじゃと思うとるところがあるわい」
「ボクはあんなに沢山寝れないなー。逆に頭痛くなりそうじゃん?」
「だよなぁ? 魔女って頭使うからよく寝る、とか?」
「別にユーフェは普段は頭なんぞ使っとらんじゃろ」
「そうかな? 割と魔導書読んだり何か書いたりしてる事も多そうだけど……」
魔法に関する事についてはユーフェミアは真面目である。魔法薬もまだ改良をしているらしいし、何か難しい術式の下書きを何枚もしたためている事もあった。まあ、ユーフェミアがよく寝るのは今に始まった話ではないから、今更どうこう言う事ではない。
「そういや、寝床どうするんだ? 流石にエルネスティーネさんも一緒ってのは狭いだろ」
「わし、別にソファでええわ」
「ああ、そう……でもずっとソファじゃきついだろ。セニノマさんに寝床作ってもらおうかなぁ」
「しかし、エルネスティーネの奴はいつまで居座るつもりなんじゃろうなあ」
「長くいるんじゃない? エセルバート、焦ってるだろーね」
「まあ、あいつが困ろうがわしの知ったこっちゃねえわい」
「だよね。でもそろそろ通信くらいは繋げてあげた方がいいかな? 流石にずっと拒否してたら後がうるさそうだし」
「そうじゃのう……ま、旅行も行ったし、ユーフェもしばらく仕事は休むっちゅうし、久々に魔界の様子でも聞いてやるかの。ほいっと」
「それ、上がり」
トーリはシノヅキの捨てたカードを取ってひょいと手札を場に置いた。
「なんじゃと! も、もう一回じゃ!」