4.スザンナの相談
動物とモンスターの境はやや曖昧な所もあるけれど、基本的には人間に対して積極的な攻撃性を持っているかで大別される。無論例外もあるけれど、大多数のモンスターは凶暴で危険なものである。
冒険者は基本的にモンスター退治を旨としているが、素材などを得る為にはモンスターではない動物を狙って狩る事もある。
トーリは装備を携えて、シノヅキの背にまたがっていた。長剣を腰に差し、背中には大きな籠を背負っている。籠には皮手袋に解体用のナイフ数本、丈夫なロープひと巻、それとスコップが入っていた。
「シノさん、川がどこかわかんの?」
『当たり前じゃい、わしを誰だと思っとるんじゃ!』
シノヅキは大きな足でしっかと地面を蹴って、風の如き速さで駆けて行く。周囲の景色が後ろにすっ飛んで行く様だ。しかしスバルの様に高い所を行くわけではないから、トーリも周囲を見回す余裕がある。
ここいらはアズラク周辺の荒れ地である。荒れ地とはいえ季節が季節だから、そこいらじゅうに青々とした灌木や夏草の茂みが散見される。小さな森や林の様になっている所もあって、そういう場所に鹿や猪といった動物が住んでいる。
今日は肉を得る為にやって来た。
シノヅキがいるものだから、毎食の肉の消費量は大きい。肉は毎回町の肉屋で買っているが、狩りで手に入れる事ができるならば、大幅に食費が浮く。
ユーフェミアの収入であれば節約なぞあまり考えなくとも何とかなるのだが、『泥濘の四本角』時代は節約を基本としていたトーリは、やはり金を使わずに済む方法があるならば、そちらを選択したいと思うのだ。買えば済むのに畑をやったり、鶏やアヒルを育てたりするのもその一環である。
やがて、川の流れる辺りに来た。周囲には木も生えている。
『ここでよかろ』
「木もあるし、水量も十分だな……」
トーリはシノヅキから降りて、荷物を下ろした。シノヅキは鼻をひくつかした。
『うむ、獲物は近いぞ。狩って来てええんか?』
「おう、頼む」
トーリは木の根元に穴を掘りながら答えた。シノヅキは矢の様にすっ飛んで行った。そうしてトーリが穴を掘り終える頃に、大きな鹿を咥えて戻って来た。
「うわ、早いな」
『ふふん、余裕じゃ、よゆー』
トーリはナイフを取り出し、まず腹を裂く。心臓やレバーなど、あまり処理せずに食える内臓は取り分けて、掃除の手間がかかる消化器官などはそのまま穴に落とした。それから後肢にロープを巻き付ける。
「よし、川に浸けるぞ」
『おう』
ロープを手近な木に結びつけて、鹿を川の中に放り込む。血が川面を赤く染めたが、次第にそれも薄まって透明な流れが戻って来た。
トーリは自分も靴を脱いで川に入り、鹿の腹の中を綺麗に洗った。レバーと心臓も水で洗って綺麗にし、丁寧に水分を拭ってから油紙で包み、布でくるんでしまい込む。
『どれくらい血抜きするんじゃ?』
「長くやった方がいいけど、あんま時間かけてらんないからな。もう上げちまおう」
それでトーリはロープを引っ張って鹿を引き上げると、ロープの端を太い枝の上に通した。
「シノさん、そっち引っ張って」
『よかろう』
それでぐいと引っ張ると、鹿の体が持ち上げられ、丁度頭が下になる様にぶら下がる。真下にはさっき堀った穴があって、鹿から垂れる血混じりの水が穴の中に落ちた。
皮剥ぎナイフで皮を剥ぎ、骨切りナイフで背骨と肋骨を切り離し、ろっ骨を一本一本肉からはがして行く。シノヅキが感心した様に言った。
『んな細かい事、ようできるのう』
「俺もちょっと驚いてるよ。意外に覚えてるもんだな」
何だかこういうのも久しぶりだな、とトーリは思った。昔はこうやって獲物を解体する機会も多かった様に思う。しばらくやっていなくても、何度もやった事は意外と体が覚えているものだとトーリは少し安心した。
それで鹿をすっかり肉にしてしまってから穴を埋め戻し、籠に肉を満載にした。籠に入りきらなかった分はロープでくくってトーリの腰などに結わえ付け、何とか全部持って帰れる様にした。
一頭分の肉というのは矢張り多い。肉屋で買えば結構な値段だろう。家畜とは味わいも料理の仕方も変わって来るが、鹿などは癖がなく食べやすいから、何の苦にもなるまい。
『中々いい手際じゃったのう』
「まあ、昔はやってた事だからな……よし、帰ろうぜ。昼飯の支度して、皮の処理をせにゃ」
『ぬはは、血の滴る肉じゃ! うまい飯を期待しとるぞ!』
シノヅキは来る時に増して速く走った。トーリは振り落とされまいとしがみついたが、腰から下げた肉が思ったよりも重かったので、ちょっとはらはらした。
それでも無事に家に辿り着いた。もう太陽は天頂に近かった。
「おかえりー」
庭先で遊んでいたらしいスバルが駆け寄って来た。
「わ、肉がいっぱいだー」
「台所に持ってってくれ……頭がくらくらする」
シノヅキがあんまり速かったので、トーリはちょっと頭がぐらぐらしていた。肉塊をスバルとシノヅキに預け、納屋に皮を持って行く。
鳥小屋ではセニノマが作業を始めていた。鶏小屋は増築し、アヒル小屋は新しく池のほとりに新築する予定である。
元々同じ小屋を区切って鶏とアヒルを飼っていたのだが、手狭になった事もあるし、アヒルと鶏は住環境が違う。地面を引っ掻き続けて乾燥気味になる鶏と、水で餌を流し込む為フンが水っぽく、いつも床が湿っているアヒルとはきちんと分けねばなるまい。
いずれいずれと先延ばしにして来たが、次の雛が孵りそうな気配もあるし、セニノマもいるし、やってもらう事にした。
トーリは鹿皮を台に載せて、裏側に残った脂や汚れをナイフで綺麗にこそげ取った。
納屋には大鍋をかけられる炉も据えてある。トーリはここで火を起こし、鍋に水を張って、沸騰する直前くらいで火を抜き、そこに皮を放り込んであちあち言いながら洗う。大変くさいので閉口していると、人間姿のシノヅキが鼻をひくつかしてやって来た。
「肉のにおいがするのう」
「シノさん、肉ならなんでもいいのかよ……」
熱湯で洗う事で残った脂も溶けて落ちるし、引っ付いていたダニなども死ぬ。それで毛皮を綺麗にしてから、石灰を溶かした水に浸ける。
「よし……」
トーリは道具を片付けて手を洗った。まだ休んでいる場合ではない。肉の方も処理しておかねばなるまい。
改めて見ると一頭分の肉はやっぱり多い。今日使う分は今日使って、後は塩漬けにしたり干したり燻製にしたり、ともかく保存できる様に加工しなくてはならないだろう。トーリの後について歩くシノヅキがわんわんとまくし立てた。
「トーリ、腹が減ったぞ。もうお昼じゃぞ」
「今から支度するよ」
家の中にはシシリアがいて、食卓に座って何か書き物をしていた。
「あら、トーリちゃん。おかえりぃ」
「ただいま。ユーフェは? 昼寝?」
「ううん、出かけてるわよぉ」
「マジか。仕事かな?」
「スザンナちゃんに呼ばれたって言ってたわよ。お手紙が来たの」
「スザンナに? なんだろうな」
トーリは首を傾げた。仕事の依頼ではなく、スザンナ個人の相談事なのだろうか。だとすれば、弟のシリルに関係する事なのかも知れない。ユーフェミアも不思議とシリルの事が気にかかっていた様であるし、その可能性は高いだろう。
「昼飯には戻って来るかねぇ?」
「どうかしらねぇ。それはお姉さんにはわかんないわぁ」
それもそうだな、とトーリは胸から下げた通信装置のスイッチを入れた。
「おーい、聞こえるか?」
少しして返事があった。
『トーリだ。どうしたの?』
いつものユーフェミアの声だ。“白の魔女”ガートルードの声ではない。変身する必要のない場所にいるらしい。
「スザンナの所か?」
『うん』
「昼飯はどうする?」
『今その事考えてた。あとちょっとしたら帰るけど、スザンナとシリルも連れてっていい?』
「あん? そうか、まだ話が済んでないのか」
『というより、シシリアにも相談したいから』
「ふぅん? まあ、いいよ。多めに作っとくから」
二人分多く作るのは別段苦ではない。鹿肉もたっぷりあるから、量には事欠かないだろう。トーリは通信を切って台所に入った。
大鍋に野菜のスープが入っている。朝食の支度のついでに、昼食の仕込みもしておいた。このスープを基本に使いつつ、獲って来た鹿肉を使って仕上げれば問題ない。
大きいままの肉を切り分ける。油とスパイスと塩、香草をすり込んで置いておき、解体の際に細切れになってしまった肉を、さらに包丁で細かくして、ニンニクや香草と一緒に炒めて、そこに野菜のスープを注ぐ。
「ねえ、何するの? それ何? スープ?」
後ろでうろちょろしているスバルが、トーリの手元を覗き込みながら言った。
「いや、パスタのソース。こっちの塊は丸焼きだな」
「にくー、にくにく、にく、わははー」
「お腹の虫が鳴いちゃうのじゃ……はよせい、はよ!」
「うるせーな、そう急かされても困るっつーの」
騒ぐ使い魔どもにうんざりしつつ、トーリは棚の缶を出してシノヅキに手渡した。おやつ用にとまとめて焼いておいたクッキーが入っている。
「それでも食って待ってろ」
「わーい」
ようやく静かになった。
トーリは温まったオーブンに塊肉を入れた。ソースを煮込んでいる間に、朝練って寝かしておいた生地を出して、麺に仕立てた。スープに茸と肉を足して仕上げ、買い置きしておいたパンは霧吹きで濡らして食べる前にオーブンで焼けば柔らかくなる。作り置きのジャムを添えればそれだけでご馳走だ。
「よし、あとは酢漬けの野菜と……そうだ、レバーなんかは早めに食っちまわないとな……パテにするか、焼くか……」
とトーリが呟きながら手を動かしていると、居間の方からユーフェミアがひょっこり顔を出した。三角帽子をかぶっている。
「ただいま」
「おう、おかえり……」
と皿を持ちながら振り返ると、ユーフェミアの横からスザンナが顔を出した。
「やっほー、トーリ。お邪魔します」
「おう、いらっしゃい。元気か?」
「元気元気。ごめんね、急に押しかけちゃって」
「いいよ。丁度いいや、これ持ってって」
「おっとっと」
それでユーフェミアやスザンナに料理を運んでもらい、トーリもスープの鍋をかかえて居間に出た。食卓は既に料理が並んで賑やかである。馴染みの顔ぶれの中に、見た事のない少年が一人いた。
スザンナが押し出す様に少年の背を叩く。
「こっちがね、弟のシリルだよ! シリル、この人がトーリ。ほら、お菓子とかおもちゃとかくれた……」
シリルはぺこりと頭を下げた。
「初めまして、シリルです。姉さんから話は聞いています。色々ありがとうございます、トーリさん」
「おう、初めまして。元気そうで何より」
知っているのに初めて会うというのは不思議な感じがする。
死蟲に冒されていた少年は、まだまだ線は細いもののすっかり元気な様子だった。しかし口調に子供っぽさはなく、思ったよりもしっかりしている。話に聞いていた世間知らずの無邪気なだけの少年という風ではなかった。
「まあ、座って座って。冷める前に食っちまおう。俺他の料理仕上げるから、先に食ってて」
とトーリが促し、それで騒がしい昼餉となった。スザンナが嘆声を漏らす。
「相変わらず豪華だなあ。ユーフェ、いつもこうなの?」
「うん。トーリのご飯、おいしいよ」
とユーフェミアは温かいパンにジャムをたっぷり塗った。
シノヅキとスバルは新鮮な鹿肉に大はしゃぎで、セニノマは幸せそうにパスタを頬張っている。シシリアはシリルに寄り添っていた。
「うふふ、シリル君。こっちのがおいしいわよぉ。はい、どーぞ」
「ありがとうございます」
シリルは特に狼狽える事もなく恬然としている。シシリアの事を普通に親切なお姉さんだと思っているらしく、受け答えが実に自然である。それが却ってシシリアのお気に召している様だ。
「やーん、もう可愛いー。ね、ね、お姉さんが食べさせてあげるわぁ。あーんてしてみて?」
「え? こうですか?」
「おいコラ、シシリアさん。実の姉が見ている前で弟にそういう事をするんじゃねえ」
トーリは眉を吊り上げて、炙り肉の皿をでんと置いた。
「うひょひょ、たっぷりじゃのう! こりゃ食い甲斐があるわい!」
「シノには負けないぞー!」
「独占するんじゃねえぞ? セニノマさん、まだパスタ食う?」
「えっ、食べていいだか?」
「いいよ、そりゃ。皿貸して」
どうにもこの家の食卓が静かになる時はないな、とトーリは合間合間に自分も食いながら、料理を取り分けた。
それで食後のお茶を淹れる頃には、シノヅキもスバルもすっかり満足してソファにもたれて呆然としていた。
「おい、お茶が入るぞ」
「わしゃ要らん。眠い」
「ボクも」
と言ってくったりとソファに体を預けて、完全に脱力している。暴食の果てに惰眠をむさぼろうという魂胆らしい。
「だらしねえ奴らだな……」
「おらも満腹ぷくぷくだで、ちょっとお昼寝さしてもらうだよ。リフレッシュして午後の仕事するだ」
そう言ってセニノマもうんと伸びをする。スザンナが首を傾げた。
「セニノマさんは、今はここで何をしてるの? 職人なんだよね?」
「そうですだよ。今は鶏小屋の改築とアヒル小屋の新築を請け負ってますだ」
「一人で? 凄いなあ、キュクロプス族だったっけ? 器用なんだねえ」
「ふへへ、おらの一族は器用さが自慢なんだべさ。ふあ……ちょいと失礼するだよ」
と、セニノマは揺り椅子に腰かけて、すぐにぐうぐう寝息を立て始めた。揺り椅子自体はこの家にもあったが、セニノマが座っているのには見覚えがない。随分座り心地がよさそうだ。
トーリは首を傾げた。
「あれ……あんな揺り椅子なんかあったっけ?」
「セニノマが自分で作ったやつだって。魔界から持って来たみたいだよ」
とユーフェミアが言った。
私物を持ち込む当たり、セニノマもすっかりここに順応しているなとトーリは思った。
「それで、スザンナはユーフェに何を相談してるんだ? シリルの事なんだろ?」
椅子に腰かけながらトーリは行った。スザンナは頷く。
「うん、そうなんだ。それでユーフェがシシリアさんにも相談しようって言って……」
「じゃあ魔法関係って事?」
とトーリは、シシリアにしなだれかかられているシリルを見た。ユーフェミアが頷いた。
「そう。シリル。シシリアの事、どういう風に見える?」
シリルは目をぱちくりさせた。
「えっと……ちょっと顔色が悪い? あと、目が不思議だね。白目が黒くて瞳が白い……?」
トーリはぽかんとしてシシリアを見た。血色のよい肌の色は人間のそれである。目も白目は白く、黒目は白い。
「……シシリアさん、変装してるよね?」
「うふふ、なーるほど、そういう事。シリル君、これならどうかしらぁ?」
とシシリアは笑いながら小さく指を振った。トーリの目には何も変わった様には見えなかったが、シリルは驚いた様にシシリアをまじまじと見た。
「わ、肌の色が変わった! 目も普通になった!」
「魔眼でしょ」
とユーフェミアが言った。シシリアが頷く。
「それもかなり精度の高い魔眼ねえ」
トーリは困惑しながらユーフェミアに話しかけた。
「魔眼って?」
「力のある目。魔法による擬態を見破ったり、視線で魔法をかけたり、あと、修業を積んだ魔眼持ちは、見ただけで魔法を無効化したりもするの。魔法使いの天敵みたいな感じ」
「マジか……じゃあお前とは相性悪いんじゃないのか?」
「そうでもないよ。それにちゃんと制御できる人なら問題ないし、今みたいにシシリアが魔法の精度を上げれば、魔眼でも見破れなくなるし」
「わたし、全然知らなくてさ……ユーフェ、魔眼って制御できないと危なかったりする?」
とスザンナが言った。ユーフェミアは考える様に視線を泳がす。
「物凄く強い魔眼だったら、確かに制御できないと大変かも。トラブル起こすかもだし」
「でも、今まで特にトラブルはなかったんだろ?」
とトーリが言うと、スザンナは苦笑した。
「それがそうでもなくてね……やっぱり見えないものが見えるっていうのは大変なんだよ。買い物とか行っても、誰もいない所に挨拶したり、シリルの周りでだけ魔道具が変な風に作動したり逆に止まっちゃったり、最近になってそういう事が何回かあってね。それでユーフェに相談したんだ」
「なるほど……」
つまり、シリルは能動的に制御を試みなければいけないくらい強力な魔眼を持っているという事になる。
「死蟲の次は魔眼とは、随分大変だな……」
「でもぼく、この目は嫌いじゃないですよ、トーリさん」
シリルはあっけらかんと言った。シシリアがシリルの手を握った。
「うふふ、素敵ねシリル君。でもね、そういうものを見続ける事で魔眼は力を増して行くの。早いうちに制御できる方法を学んだ方がいいわ。お姉さんが手取り足取り教えてあげるから、安心してねぇ」
「本当ですか? いいのかな、姉さん?」
とシリルは嬉しい様な、しかし状況が呑み込めていない様な曖昧な表情をしている。スザンナは頷いた。
「ユーフェとシシリアさんに教えてもらえるのは、確かにいいかも……シリルは教えて欲しい?」
「えっと、よくわからないけど、教えてもらえるなら、ぼくは嬉しいよ」
「うふふ、楽しみだわぁ。無垢な子を自分色に染めるのってわくわくするわよねぇ」
「ちょっと待て。ユーフェはともかくシシリアさんの教導は不安過ぎる」
「なんでよう、トーリちゃん。失礼しちゃうわねぇ」
とシシリアは頬を膨らました。トーリはふんと鼻で笑った。
「何が失礼しちゃうだよ。信用して欲しかったら無暗にべたべたすんのをやめろ」
「えー、こんなのただのスキンシップじゃないのぉ。トーリちゃんってばケッペキなんだからぁ」
「ケッペキどころの話じゃねえだろ。スザンナ、姉としてどうなんだよ」
「え……いや、あの……と、当人同士がよければ、いいかな……」
「おい?」
「やーん、スザンナちゃん、流石わかってるぅ」
「ちょ、ちょっと待て。大体シシリアさんにはジャンがいるだろうが、あいつはどうすんだよ」
「わあ、トーリちゃん、ジャン君との仲を認めてくれるのぉ? うふふ、それじゃあお姉さん、今度ジャン君と結婚しーようっと。ねえ、ユーフェちゃん、いいでしょぉ?」
「いいよ」
「い、いや、待て待て待て。今のは間違いだ。というか、俺はジャンの保護者でも何でもねえぞ、俺の許可とか一切関係ないだろ!」
「あら、それならトーリちゃんの許可なしでもジャン君と結婚しちゃえるのねぇ」
「そうじゃなくて!」
形勢がすっかり不利になり、トーリはうろたえて、シシリアはにやにや笑っている。
のほほんとお茶を飲んでいたユーフェミアが、スザンナに顔を寄せてささやいた。
「トーリって割とお馬鹿さんだよね」
「あはは……」
スザンナは苦笑いを浮かべて、お茶のカップを口に運んだ。