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12.雨の魔法


 七尖塔は高さに違いはあるものの、そのすべてが天を突く槍の如く尖って屹立していた。

 その足元には廃墟の様な灰色の都市が広がっている。空には暗雲が立ち込め、それが地鳴りの様な低い音を立てながら都市の上で大きく渦を巻いている様に見えた。この雲は都市にかかって以来晴れた事がない。

 動くものは見えない。ただの死んだ都市と言ってしまえばそれだけなのだが、強者の感覚を以てして身震いさせるだけの奇妙な気配がそこには満ち満ちていた。


 “白の魔女”の転移魔法によって移動して来た『蒼の懐剣』の面々は、その圧倒される気配に息を呑んでいた。強力なモンスターと日々向き合い、命のやり取りに慣れた彼らをして思わず身をすくませるだけのものがあった。


『第四塔を目指す』


 と“白の魔女”が言って、一本の塔を杖で指し示した。


『あの塔は魔力場が不安定で、不規則にアストラルゲートが開閉する。ゆえに魔界のモンスターが現れ、住処としているのだ。そのモンスターを討伐する事を目標とする』


 アンドレアが口を開いた。


「……どの様な作戦で行く?」

『我が前に出てはすべて解決してしまう。ゆえに我は一歩引いてうぬらの援護に徹する』

「わしらもそうするつもりじゃ。安心せい! やばそうなら助けに入ってやるからのう!」

「訓練の成果を見せてよね、おにいちゃんたち!」

「期待してるわよぉ、うふふ」


 美女からの激励で発奮しているわかりやすい連中もいるが、やはり緊張気味に廃都市の方を見ている者もいる。


「アンドレア、どうする?」


 とスザンナが言った。アンドレアはふうと息をついて顔を上げた。


「下手に工夫しても混乱するだろうし、いつもの様に班を分けよう。互いの死角を補完できる様動く。いいな?」

「了解っと、んじゃ、二班、俺んトコ集まれー」


 と剣士ジェフリーがメンバーを集める。

 『蒼の懐剣』は前衛中心の班が二つ、後衛中心の班が一つで、それぞれ臨機応変に動きながら戦う。後衛班を挟む様な陣形を取る事もあれば、後衛を下げて援護させつつ、前衛班二つで前に押す事もある。この縦横無尽さと、メンバーそれぞれの高い実力が、『蒼の懐剣』の持ち味なのだ。

 そうして陣形を整えた『蒼の懐剣』は、恐る恐るという様に都市へと踏み込んだ。前衛班にそれぞれシノヅキとスバル、後衛班にシシリアが付き、“白の魔女”は殿にいる。


 遠目に見ていた時から感じていた気配が、踏み込んだ途端に濃くなった様に思われた。じりじりと周囲から押して来る様な視線があり、また魔力の気配も濃い。肌にぴりぴりと刺して来る様だ。

 メンバーは誰もが冷や汗を掻いたが、“白の魔女”とその仲間たちは平然としていた。

 都市内部は灰色で、生き物の気配はなかった。しかし建物は崩れたりはしていなかった。

 まるで時間が止まった様に静まり返り、生き物だけが綺麗さっぱり消えてしまった様な雰囲気だ。それが却って不気味で、一足ごとに奇妙な違和感を覚えるくらいだった。


 所々から、大きな青い水晶が飛び出していた。何かしらの魔力の作用なのか、水晶はそれ自体が淡く光を放って明滅していた。その光が都市全体を淡く照らしており、日が差さないにもかかわらず、歩くのに支障がないくらいの明るさが保たれていた。

 ジャンが呟いた。


「……奇妙な所ですね」

「ああ。モンスターの姿もないが、ずっと嫌な感じがする」


 とメンバーが相槌を打つ。隣を歩いていたシシリアがくすくす笑う。


「そりゃそうよぉ、ずーっと見られてるものねぇ」


 後衛班のメンバーはギョッとした様に辺りを見回す。


「ど、どこから?」

「あちこちから。うふふ、お姉さん、見られるのは嫌いじゃないけどねぇ」


 と言ってシシリアはなぜか扇情的なポーズを取る。うおおっ、と盛り上がる連中を傍目に、ジャンが口を開いた。


「シシリアさん、月輪の宝玉というアーティファクトをご存知ですか?」

「ええ、知ってるわよぉ」


 月輪の宝玉は、かつて魔界の宝石工が研磨したと言われるアーティファクトだ。

 名の如く、透明な石の中で月輪の如き輪っかがきらめいており、角度を変えても常に同じ様に見える。そうして月の光の様に淡い青い光を放っているのである。対になっている日輪の宝玉が力強い赤い光を放つのと対照的だ。


 どちらも強力な魔力を宿しており、武器の装飾、魔道具の核など、歴史の中で様々に形を変えながら姿を現している。

 現在は所持していた過去の冒険者がこの七尖塔で死に、それ以来ここに放置されていると言われていた。


「お姉さん、昔ちょーっとだけ見た事あるわぁ。中々綺麗な宝石だったわねえ」

「昔……? シシリアさん、おいくつで……」


 と言いかけたジャンの口に、シシリアの指が当てられた。


「うふふ、女の歳を聞くのはマナー違反よぉ、ジャンくぅん?」

「し、失礼しました」


 ジャンは頭を掻いた。自分も魔法の影響で少年のままだ。シシリアも同じ様なものだろう、と理解した。まさかアークリッチだなどとは思ってもいない。

 シシリアは面白そうな顔をしながらジャンを見た。


「でも、その月輪の宝玉で何をしたいのぉ?」

「ええと……僕は師匠と魔法を一つ開発していたんです。その余波でこうやって成長も止まってしまったんですが……」

「あら、そういえばトーリちゃんがそんな事言ってたわねぇ」


 その言葉にジャンは驚いて顔を上げた。


「トーリ君が?」

「ええ。ジャンはお師匠様との約束を守って頑張ってるんだから、からかうんじゃない! ってお姉さん説教されちゃったわぁ。最近扱いが雑なのよねえ」


 とシシリアはわざとらしく拗ねた様な顔をする。ジャンは思わず笑ってしまった。


(トーリ君が……やっぱり彼の縁故でここに来る事が出来ているのかも知れないな……というかトーリ君、シシリアさんを怒れるのか……凄いな)


 『蒼の懐剣』の魔法使いたちは全員が一流どころだが、それでもシシリアの魔法防御壁を突破する事はついにできなかった。魔法を生業とする者ならばその規格外さが理解できる。そのシシリアに説教するなぞ想像もつかない。しかしトーリはそれが出来るという。

 やっぱり凄い人だったんだな、とジャンは肩をすくめた。


「それで、どういう魔法を作ってるのぉ?」


 とシシリアが言った。ジャンは口ごもったが、やがて喋り出した。


「一種の天候操作の魔法です。僕と師匠の故郷はプデモットという国なのですが、過去にモンスターとの戦いで魔力場が狂ってしまって……そのせいで降雨量が極端に減ってしまい、慢性的に旱魃が続いている状態なんです。ですから土地がすっかり痩せてしまいまして」

「ふぅん。それで食糧不足になってるのねえ」

「はい。単に雨を降らせるだけならば大魔法でもいいですが……一度に大量に降らせても大水になって流れてしまうばかりで、却って環境を悪くするとわかりまして。だから疑似的にでも、きちんとした天候が戻る様に術式を整えて……それを維持する為の触媒として、日輪の宝玉と月輪の宝玉がどうしても必要なんです」


 地域丸々一つの天候を管理するとなると、必要になる魔力量も膨大である。日輪月輪の宝玉は、それをまかなえるだけの魔力量を持ち、さらに二つを揃える事で半永久的に魔力を産出するとも伝えられていた。

 シシリアはくすくすと頷いてジャンを撫でた。


「本当に真面目な理由なのねえ。偉いわぁ、よしよぉし」

「あ、あの、僕もう三十近いのですが……」

「あらー、若いわねぇ」


 とシシリアは笑っている。本当に何歳なんだろう、とジャンは思ったが、口には出さなかった。


 その時、建物の陰で何かが動いた。水晶が人間の形をした様なものが出て来た。顔にあたる部分に目の様な光が灯っている。モンスターだ。


「来たか! 戦闘陣形!」


 『蒼の懐剣』はたちまち陣形を整えてモンスターと向かい合う。その戦闘を皮切りに、周囲の建物から続々とモンスターが姿を現し始めた。


「行くぞ! 訓練の成果を見せる時だ!」

「応!」


 冒険者たちは武器を振り上げ、モンスターにかかって行った。



  〇



 一方その頃、トーリは庭先の畑で魔界の植物と向き合っていた。急成長したこの草が急に葉っぱを伸ばして振り回し始めたのである。

 悠長に草取りをしていたトーリは背中をしたたかに打たれ、顔をしかめて距離を取っていた。


「何なんだよ、こいつは……」


 先端に付いた実が顔の様だ。振り回している二枚の長い葉はさながら両腕といった所だろう。葉には細かな棘が付いているから、危なっかしくて近づけない。

 薬の原料になるとはいえ、こんなものを放置していては色々な事に差し支える。ここからさらに成長するとなれば、洗濯を干すのにも支障が出そうだ。ユーフェミアには悪いが、何とかしなくてはならない。

 トーリはひとまず家から自分の剣を持って来たが、さてどう戦ったものか迷う。植物系のモンスターとの戦闘経験はない事はないが、魔界の植物を同じと考えていいものかわからない。


 ひとまず葉だけでも切り落とせば沈静化するだろうか、とトーリは剣を構えて前に出た。

 びゅんびゅん振るわれている葉っぱに向かって剣を振る。流石に剣と葉では勝負にならず、葉の先端が切られて落ちた。何度か剣を打ち合う様にやり合うと、葉が細かく刻まれてばらばらと落ちる。


「おっ、やれそうだな」


 それで自信を付けたトーリは、思い切ってさらに前に出て、葉を一枚、根元から寸断した。落ちた葉は少し動いたが、すぐに静かになる。そのまま二枚目も切り落とし、草はただ茎をくねくねさせるだけになった。


「やれやれ、これでいいかな……」


 トーリは落ちた葉を見た。この葉も薬の原料になるのだろうか。だとすればこのまま放っておくのもいけないだろう。

 棘が多いので、トーリは皮手袋を手にはめ、葉を家の入り口の脇に置いておいた。

 魔界の植物は相変わらずくねくねしている。踊りでも踊っている様な具合である。何だか愉快な奴だな、と妙に可愛く見えてしまった。


 いつの間にか夕方である。トーリはヒヨコたちを小屋に入れて餌をやった。

 今夜はユーフェミアたちは帰って来ないとは言っていたものの、そう言って帰って来た事もないわけではないので、一応準備だけはしておこう、とトーリは家に入った。


 結局ユーフェミアたちは、その日の夜は宣言通り帰って来ず、久しぶりにのんびりと夜を過ごしたトーリは、朝早く目を覚ました。

 ユーフェミアと従魔たちは皆して寝室の巨大なベッドに詰まって眠っているが、トーリは居間に寝床を置いて一人で寝ている。

 結局トーリが最初に起きるのであるし、起きてあれこれするのにも一々寝室を出入りして他の連中の安眠を妨げる必要もないだろう、と一緒に寝たがって渋るユーフェミアを説得したのだが、まあ、それは理屈の上での話であって、本当の所はトーリ自身が乙女の柔肌に囲まれて寝る事が嫌だったという事に過ぎない。それも別に柔肌が嫌というわけではなく、その柔肌に欲望が刺激されて間違いを起こす事を恐れてがゆえである。

 前に一度、起きて来ないユーフェミアたちに業を煮やし、扉を開けて呼ばわった所、ベッドの上で肌色多めの四人がもそもそしているのを見てくらっと来た。以来、トーリは断じて朝の寝室に入ろうとしない。


 ともかくそれで起きて、ヒヨコに餌をやろうと外に出ると、畑で魔界の植物が葉を振り回していた。しかも昨日より大きくなっている。比較的に近くに植えられていた茄子の苗が殴られてしょんぼりしていた。


「なんでや……」


 トーリはげんなりした。もう切ってしまうかと思ったが、大きさも勢いも増しているし、苦労して切っても復活されては面白くない。やっぱり魔界のものはちょっとよくわからない。畑作業は中断して、ユーフェミアが帰って来るのを待つ事にした。

 ヒヨコに餌をやり、家に入って掃除を始める。今日は朝から寝室が掃除できる。

 脱ぎ捨てられたままの服を集めて、飲み物の空き瓶やお菓子の袋や紙屑をまとめ、床を綺麗に掃き清める。天気もよさそうだし、ベッドの布団も干してしまおうと思う。


 葉を振り回す魔界の植物から距離を取って、布団を物干し竿にぶら下げた。この草は暴れているのか踊っているのか、イマイチ判然としない。

 どちらにも見えるが、野菜を殴るのは止めてもらいたものだ、とトーリがやきもきしていると、庭先に魔法陣が広がって、ユーフェミアたちが帰って来た。巨大な“白の魔女”の姿がほどけて、たちまちユーフェミアの姿に戻り、ぽてぽてと駆けて来て、ぶつかる様にトーリに抱き付いた。


「うにゅ」

「お帰り。帰って早速で悪いんだけど、あれ何とかしてくれない?」

「あらあら、随分早く育ったのねえ。元気だわぁ」


 とシシリアが言った。


「元気だわぁ、じゃないよ。薬の原料だっけ? 収穫するなら早くして欲しいんだけど」

「これ使わない。切っちゃってよかったのに」

「うそぉ!? いやでも、葉っぱ切ったら一日で生えたんだけど!?」

「茎を切れば枯れるよ。葉っぱ切ったら逆に大きくなる」


 先に言えよ、とトーリは肩を落とした。無駄にくたびれた様な気がする。シノヅキが両腕を振り上げてがうがうと騒いだ。


「トーリ! 腹減った、飯じゃ飯!」

「シノさん最近それしか言わねえな……朝飯食ってないのか?」

「ちょうどダンジョン攻略が終わったんだよー。だからそのまま帰って来たの! お腹すいたー!」


 とスバルも騒いでいる。トーリは肩をすくめた。


「今から支度するからちょっと待って」


 引っ付いて来るユーフェミアと一緒に、トーリは家に入った。台所に行ってキッチンストーブに火を移す。


「あー、くそ、生地練ってない……芋と……パンケーキでいいか」


 予想以上に帰って来るのが早かったから、ちっとも支度ができていない。トーリは粉と水、砂糖と塩で緩めの生地を作っておき、少しばかり置いておく。

 その間に鍋で玉ねぎ、根菜、豆でスープをこしらえ、フライパンで卵と燻製肉とを焼いた。

 芋は分厚い鉄鍋に少しの水と一緒に入れて暖炉に置き、蒸し焼きにする。


 さっきからユーフェミアが後ろでちょろちょろしている。


「お前、何か今日は落ち着きないな。何やってんだ?」

「あのね」

「うん」

「ダンジョンに行ったよ」

「それは知ってるよ」


 とトーリは焼いた卵と燻製肉を皿にあけた。それからフライパンを綺麗にして、生地を流し込み、パンケーキを焼く。

 ユーフェミアはそわそわしながら上目使いでトーリを見た。


「七尖塔っていう所」

「ああ……超高難易度って言われてる?」

「うん。『蒼の懐剣』と一緒に行ったの」

「え?」

「でね、月輪の宝玉を手に入れたの。で、ジャンにあげた」

「ちょ、ちょっと待て、話が見えん。どういう事?」

「それでね、ジャンも魔法を完成させられるって。トーリにありがとうって言ってたよ」

「えっ、なんで俺に……? いや、そもそもなんでお前あいつらとダンジョンアタックしてんの?」

「一緒にレーナルドやっつけよう、って最近一緒に色々やってるから」

「なんだそれ……レーナルド? 大悪魔の? それってアンドレアの……」


 困惑するトーリに、居間の方から「飯はまだかー!」と騒ぐ声がする。


「はいはいはい、ちょっと待ってってば! うわっ、やばい!」


 パンケーキを焼いていたのを思い出して慌てて引き上げ皿に盛る。バターと蜂蜜をかけて、それをユーフェミアに渡した。


「持ってって。俺まだパンケーキ焼くから、暖炉のスープよそって先食ってろ」

「うん」


 ユーフェミアは皿を持って台所から出て行った。

 何だか頭が追い付かないが、どうやらジャンもずっと追い続けていた目標を達する事ができるらしい、という事が何とか理解できた。


「……よかったなあ」


 トーリは素直にそう思った。



  〇



 プデモット国の荒れた大地に雨が降り注いでいる。

 激しく地面を叩くのではなく、柔らかく地面を潤していく雨だ。

 その下で人々が喜び叫んでいる。もう過去数十年の間、まともに雨が降る事はなかった。降る時はバケツをひっくり返した様な雨ばかりで、その度に洪水が起こり、家や畑、人々が流された。


「……師匠、やりましたよ」


 その様子を眺めていたジャンは感極まった様に呟いた。


 プデモットで生まれ、志半ばでモンスターの牙に倒れた魔法使いシグネは、プデモットに豊穣の雨が降る事を夢見続けていた。弟子であるジャンもこの国の出身であるから、その思いは十分に理解した。長い研究と冒険の末、こうしてプデモットには恵みの雨がもたらされたのである。


 ジャンは後ろを見た。設えた魔法装置に二つの宝玉が光っている。複雑な魔術式が幾重にもなった機械には、強い結界が張り巡らされ、宝玉を盗む事はできぬ様になっている。

 ここはプデモットの王宮である。

 王であるグーチガン四世がジャンに歩み寄って来た。数年前に王位を継いだばかりの若い王で、聡明で知られている。グーチガン四世はジャンの手を取り、頭を下げた。


「ジャン殿。此度の偉業、まことに感謝する。シグネ師もきっと喜ばれている事だろう」

「ええ、僕も師匠の願いを叶える事が出来て嬉しく思います、陛下」


 グーチガン四世はぐっとジャンの手を握りしめた。


「どれだけ礼を言っても言い尽くせまい。どうだろう、ジャン殿。このまま国に留まり、顧問魔法使いとして力を尽くしてはくれまいか? このグーチガン四世の名に懸けて、貴殿に不自由はさせぬと誓おう。我らが国は貧しい。この先も困難が立ちはだかるだろう。どうかプデモットを豊かな国にする手伝いをしてくれ」


 ジャンははにかんだ。


「嬉しい申し出です、陛下」

「では、受けてもらえるのだな?」


 ジャンは困った様に微笑み、小さく首を横に振った。


「……僕にはまだやらねばならない事があります。ここまで手助けしてくれた仲間の思いを遂げる手伝いをしなければならないのです。どうかご容赦ください陛下。しかし、すべてが片付いた時、僕は襟を正してここに参上すると約束します」

「そうか……うむ、相わかった。その時を楽しみに待つとしよう。それまで、この宝玉は我らが総力を上げて守り抜こう」


 と王は快活に笑った。ジャンはにっこりと笑い、再び窓の外へと目をやった。

 柔らかな雨が降り注いで、乾いた大地にゆっくりと沁み込んで行く。

 さながら、プデモットの国土が嬉し涙を流している様であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何がいいって…トーリさんがパーティーメンバーの悲願が叶って『よかったなぁ…』って…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) [一言] なんていうか正しく尊い…感じがする…語弊を恐れず…
[良い点] 連日の投稿、ありがとうございます! 毎日18:00が至福! [一言] むすえすでもでしたが、仲間の因縁が1つ1つ解決していくのは見ていてい嬉しい
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