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作戦開始





「アスモデウス、昨日は部屋に戻ってこなかったけれど、何をしていたの?」


 マリアンヌは何となしにアスモデウスに質問を投げかける。


「⋯⋯それはもちろん、も〜っとご主人さまのお役に立つために、セオとノアの監視をしてたんだよっ!」

「ハッ⋯⋯嘘つけ。どうせコイツのことだ、ここぞとばかりに好みの人間を漁りに行っていたのだろう」

「あ、あさっ⋯⋯漁りに⋯⋯!?」


 想像もしなかったサタンの言葉に、マリアンヌは唖然とする。

 しかし、彼の言ったことは図星だったようで、アスモデウスはぷうっと頬を膨らませてサタンに抗議をしていた。


「もうっ! サタンさま、なんで本当の事言っちゃうのーっ!!」

「冗談じゃないのね⋯⋯⋯⋯。アスモデウス⋯⋯お願いだから、問題は起こさないで頂戴ね⋯⋯」

「それはもちろんだよご主人さまっ! ちゃーんとうまくやってるからっ」

「上手く⋯⋯? よく分からないけれど、信じてるわよ⋯⋯」

「ふん⋯⋯バカめ」


 サタンは軽く鼻で笑う。彼はというと、アスモデウスを見ながら薄ら笑いを浮かべていた。


(サタン様って本当、人をおちょくるのが大好きね⋯⋯⋯⋯困った王様だわ⋯⋯)



✳︎✳︎✳︎



 オリヴァーを家庭教師の元まで送り届けたら、いよいよ本格的に作戦開始である。


「じゃあ、恋愛初心者のご主人さまにはまず、比較的チョロそうなセオから攻略してもらおうかなっ」

「そ、そうね⋯⋯いかにも遊び慣れているノアよりは、セオの方が難易度が低そうだもの⋯⋯」

「うんうんっ、セオはきっと今日も書庫に入り浸っているだろうから、今からそこに向かうけど、その前におさらいだよっ。まず、彼の意見には共感すること! 絶〜ッ対に否定しちゃダメだからねっ! 従順な女性を演じることで、きっと彼との距離が縮まるはずっ」

「ええ、分かったわ⋯⋯! とりあえずやってみるわね」

「僕もご主人さまのそばでサポートするから安心してっ!」

「ありがとう、アスモデウス。⋯⋯とっても心強いわ!!」


 マリアンヌはほんの少しの不安と期待に胸を躍らせ、書庫に向かって歩き出した。



✳︎✳︎✳︎



「やっぱりココにいたねっ!」


 アスモデウスの言葉に、本棚の陰からこっそりと様子を窺っていたマリアンヌはコクリと頷く。

 

「じゃあ、ご主人さまっ! 早速ターゲットに接触しよ!」


 マリアンヌは短く息を吐き、ドキドキと跳ねる心臓を落ち着けてから一歩踏み出した。



「あら、セオ。またここで会うなんて奇遇ね」


 努めて自然に声を掛ける。

 マリアンヌの声に、それまで窓際に置いてある椅子に腰掛けて本を読んでいたセオがおもむろに顔を上げる。


「ああ、義姉さん⋯⋯」

「何を読んでいるの? 私もお隣、いいかしら?」


 マリアンヌはセオの隣を指して聞いた。彼はブラウンの瞳をうろうろと彷徨わせ戸惑うようすを見せた後、小さな声で「どうぞ」と了承する。


 マリアンヌはお礼を言った後、少し間を空けてセオの隣に腰を下ろした。

 マリアンヌが座ったことを確認したセオは先ほどの質問に答えるために口を開く。


「今日はシェイクスピアの戯曲、マクベスを読み返してたんだ」

「⋯⋯確か、四大悲劇と呼ばれる作品の一つよね?」

「ああ。魔女の予言によって翻弄されたマクベスが、王を暗殺し、最後には自らが殺されてしまう物語なんだ」


 またもや饒舌に話し始めるセオ。マリアンヌは笑顔を作って静かに聴く。

 話も一区切りというところで、そばに控えるアスモデウスから「ご主人さまも読んでみたいって興味を示して」というアドバイスを貰う。


「面白そうな話ね。私も読んでみたいわ!」

「⋯⋯義姉さんは悲劇は苦手なんじゃ⋯⋯?」

「そうだったんだけど、楽しそうに話す貴方を見ていたら興味が湧いてきたの。セオが読み終わってからで良いから貸してもらえないかしら?」


 するとセオは、それまで読んでいたマクベスの本をパタンと閉じて、マリアンヌに差し出す。頑なに目を合わせようとしない彼の頬はうっすらと赤く染まっていた。


「俺ならそらんじれるくらい何度も読んでいるから義姉さんに貸すよ」

「⋯⋯いいの?」

「ああ。自分の好きなものに興味を持ってくれて嬉しかったから、ぜひ義姉さんに読んでほしいんだ」

「ありがとう⋯⋯! セオ!」


 マリアンヌは笑顔で差し出された本を受け取り、胸元でギュッと大切そうに抱える。

 マリアンヌの笑顔を見たセオは僅かに言いづらそうに口を開いた。


「⋯⋯⋯⋯その、出来れば、マクベスを読み終わったら感想を教えてほしい⋯⋯」

「もちろんよ! セオは毎日ここにいるの?」

「一日の大半はここで過ごしているな」

「そうなのね! じゃあ読み終わったらまたここに来るわね」

「⋯⋯ああ。楽しみにしてる」


 そう言ってセオはふわりと微笑んだ。

 それまで表情の起伏が殆ど無かったセオの変化に、マリアンヌは静かに驚愕する。



 無事に本日のノルマをクリアしたマリアンヌは書庫に残るというセオに別れを告げて、その場を後にした。

 書庫を出るなり、楽しそうに鼻歌を口ずさむアスモデウスがマリアンヌに声をかける。


「ご主人さま、好感触だったね!!」

「ありがとう、アスモデウスのおかげよ」


 マリアンヌは好調な出だしに心を躍らせ、軽い足取りで自室への帰り道を歩いていくのだった。





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