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迫り来る脅威




 マリアンヌの言葉を聞いたサタンは、さも愉快そうに目を細め「ほう、聞かせろ」と言って口角を上げる。

 それに軽く頷いたマリアンヌが事の発端であるセオとノアの企みを話すと、サタンはくつくつと笑い出した。


「ククッ⋯⋯そんじょそこらの有象無象の悪魔などよりもアイツらの方が余程それらしいではないか。自らの目的のために邪魔者を排除するその心意気は実に見事だ。魔界へスカウトしたいくらいだな」


 サタンは未だ笑いの余韻が残る表情でマリアンヌに言った。

 他人事だと面白がっているサタンの姿を見たマリアンヌは深くため息を吐き、彼を咎める為に口を開く。


「サタン様⋯⋯笑い事じゃないわよ⋯⋯! また、オリヴァーが危険な目に遭ってしまうかもしれないのよ!? せっかく、しばらくは静かに暮らせると思った矢先にこんなことになるなんて⋯⋯ 呪われているとしか思えないわ⋯⋯!」

「ふん⋯⋯お前の息子なら問題無いだろう。お前に似て図太そうだしな」

「⋯⋯っそんなわけないでしょう! オリヴァーはあんなにも幼くてか弱い子どもなのよ!?」


 マリアンヌは思わず、オリヴァーがセオとノアに誘拐される光景を想像してしまいサァッと青ざめた。未だ起こっていない出来事とはいえ、余りの衝撃に耐え切れなかったマリアンヌの身体は力無くよろめく。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 そんなマリアンヌのようすを、サタンは呆れ顔で見ていたのだった。



✳︎✳︎✳︎



「————それで、どうやって殺すかは決めているのか?」

「⋯⋯まだよ。だからサタン様を呼んだんじゃない。私は、貴方に出会うまでは真っ当に生きてきたんですもの。そう直ぐには思いつかないわ」

「ハッ⋯⋯! 曲がりなりにも神を信仰するお前が悪魔に頼りきりとは⋯⋯とんだ笑い種だな」

「⋯⋯⋯⋯仕方ないじゃない。私が頼れるのは貴方しかいないんだもの」


 マリアンヌのその言葉を聞いたサタンは、ピクリと僅かに肩を揺らした後、喉を鳴らして笑い出す。彼は見るからに上機嫌なようすだった。


「⋯⋯ふん、仕方ないな。偉大な王である俺様が、無知で愚かな人間であるお前に今回も力を貸してやっても良い」

「ありがとう。さすがサタン様だわ!」


 マリアンヌは「俺は慈悲深く、優しい悪魔の王だからな」と過剰なまでに自らを褒め称えるサタンの姿をそこまで言ってないと思いつつ、苦々しい笑みを浮かべて眺めていた。


(⋯⋯やっぱり、サタン様って案外チョロいのよね)


 気が緩んだマリアンヌは心の中とはいえ、思わず本音を漏らしてしまう。

 しかし、その事に気付いた時には既に手遅れであった。再び肩を揺らして反応したサタンは眉間に深くシワを刻んでおり、マリアンヌの本心を見逃すことは無かった。


「⋯⋯⋯⋯おい」

「なにかしら⋯⋯? 私は今、サタン様って頼りがいのある素晴らしい王様だわって考えていたのよ?」

「シラを切るつもりか? ⋯⋯お前の思考は全て俺様に筒抜けだということを努努忘れるなよ」


 そう言って、サタンは深い闇色の瞳でマリアンヌを睨み付けた。

 じとりと怒気をはらんだ表情で自分を見つめるサタンから逃れるように、マリアンヌは話題を戻す。


「⋯⋯そ、そんなことより、サタン様。出来ることならセオとノアを2人同時に始末してしまいたいの。あの2人は普段、大学の寮に住んでいるからこんな機会でもない限りそうそう会えないわ」

「⋯⋯⋯⋯」


 これ以上何を言っても無駄だと悟ったサタンは、渋々ながらもマリアンヌの話を聞くことにしたようだ。不機嫌そうな面持ちながらも、マリアンヌの話に耳を傾ける。


「なにか良い方法は無いかしら?」

「あるぞ」


 マリアンヌの問いにサタンは意外にもあっさりと答えた。


「本当!? きかせて頂戴!」


 期待に碧の瞳を煌めかせるマリアンヌを見たサタンは、悪戯を企む子どものようにニヤリと笑う。そして、ゆっくりと口を開いた。


「俺様のこの上なく素晴らしい策⋯⋯それは————色仕掛けだ」

「⋯⋯っ!?」


 思ってもいなかったサタンの提案に、マリアンヌは声を荒げる。


「⋯⋯サタン様、冗談でしょう!?」

「いいや、俺は本気だぞ。セオと⋯⋯ノアだったか? あの義弟2人はお前に気があるのが見え見えだよなァ? だったら、それを利用しない手は無いだろう?」

「っ⋯⋯そんなの、絶対にイヤよっ! 色仕掛けなんて⋯⋯そんなこと、私に出来るとは思えないもの⋯⋯! それに私は、仮にも夫がいる身なのよ!?」

「出来るさ、お前なら。それに、こういった男女の色恋沙汰には適任のヤツがいる」

「⋯⋯⋯⋯」


 サタンの突拍子の無い提案を受けたマリアンヌは視線をウロウロと彷徨わせ、困惑していた。しかし、そんなことはお構いなしに尚もサタンは話を続ける。


「俺の力を使えば人間の魂を刈り取るなど容易いが、それでは不自然極まりない。お前はあくまでも自然に、誰に気付かれることなく殺人を完遂させたいのだろう?」

「え、ええ⋯⋯⋯⋯」


(私が居なくなった後でも、残されたオリヴァーがこの国で生きていく為には、母親である私が人を殺めたなんて噂を立てられる訳にはいかないもの⋯⋯)


「ならば今回は、お前が文字通り身体を張るしかないな。⋯⋯ふむ。そうだな⋯⋯痴情のもつれの末の相討ち、というシナリオが妥当だろう」

「⋯⋯⋯⋯」

「なんだ、今更怖気付いたのか? 人間一人を手にかけた今、お前はもう後戻り出来ないのだぞ」


 サタンは挑発するように口角を上げてマリアンヌを見やる。

 その挑発に乗せられるかのようにして覚悟を決めたマリアンヌはゴクリと息を呑み、サタンを真っ直ぐに見据えて言った。


「わ、わかったわ。⋯⋯何だってやってやろうじゃないの⋯⋯! オリヴァーの為なら怖いことなんて何もないわ!!」







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