お人好し 【月夜譚No.151】
駆けつけたピンチヒッターの顔を見て、頭を抱えた。そんな彼にはお構いなしに、緩い笑顔を浮かべた先輩は他のメンバーに挨拶をして回る。
先輩は、決して悪い人間ではない。人当たりは良いし、雰囲気も柔らかく、接し易いのは事実である。
が、付き合ってみれば判るのだが、先輩は悪気なく色々なことをやらかすのだ。水筒を手に歩けば、躓いて目の前の人物に中身をぶちまけるし、バス停で待っている人物に声をかけようと背を叩いたら力が入り過ぎて道路に押し出し、危うく殺人犯になるところだったこともある。
しかも、それは全部後輩である自分が被害に遭ったものだ。
本人に悪気はない。それは解っているのだが、今にも何かしでかすのではないかと、ハラハラ落ち着かないのだ。
全員に挨拶を終えた先輩が、最後に目の前で手を差し出す。いつも通りの締まりのない表情を見上げて、後輩は今日も何も言えずにワンテンポ遅れてその手を握り返した。