第四話 暗がりの中で燻る煙
ビッツのアノーは遅くなった昼食を町の酒場で二人食べながら声を小さくしながら相談している。
「というわけで、金を稼ぎつつ、院長の仇を討つ事になったわけだが」
アノーはそう言って頭の後ろで手を組んで椅子に寄りかかる。
「手掛かりが全くないな」
アノーは口をへの字に曲げながら上の空を見上げる。
「古来より、被害者が被害を被ることで利がある人間が犯人であることが多い。」
ビッツは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でつぶやいた。
「しかし、このスラムではその論理は当てはまらない上、ささいな動機から見ると
院長先生はある意味、院の設立から考えると敵が多い。金目的としたら院に物取りに行く馬鹿は居ないし、実際に被害はない。考えるに、消去法で言うと、何らかの殺したい動機があるはずだ。従って犯人は院長先生が死ぬことで何か得になることがある人間が可能性に挙がる。動機があるとしたら、間接的か直接的かどちらか。また物的証拠でもある、この剣で真昼間に後ろから気づかれずに突き刺して殺している以上、そこそこの剣の腕前で隠密か暗殺に向いた人間である可能性がある。孤児院の関係者の可能性もあるが、身びいきで個人的な推測だが可能性としては低いから除外する。わざと証拠を残したのは残しても問題ない数打ちの剣であろうから剣からは出元は遡れない。逆に貴族の紋章でもあればそれは罠か何かあるはず。恐らく単純に警告的な意味の象徴として残してあるのだろう。次もあるぞ、と。」
ビッツはスラスラと言うとアノーは不思議な生物を見つけたかのように目を見開いた。
「気持ち悪いなお前・・・」
「ひどい言い草だな・・・状況から推測しただけだ。それに図書館で本を読んでいれば身に付く。アノーだって本を読んでいれば身に付く」
「いーや、俺にゃ無理だ。そもそも、こうズバーンと悪いやつがいてそいつをぶっ殺すほうが性に合ってる。」
「まるで疑わしいやつは殺してくみたいな話だな」
「まぁ、そうだな。否定はしない。そっちのほうが早く、楽に片付きそうだからな」
アノーはケラケラ笑うが目は全く笑ってない。今すぐ飛び出して行きそうな眼をぎらつかせている。
明るく振舞ってはいるが、腹の中はビッツと同じどす黒い憎しみが渦巻いている。
「まぁ、どちらにせよ血を見るほか、選択肢はないけどね」
「動機が分からない以上、逆に犯人を絞った方が楽そうだな。今言った暗殺系だったら、情報屋にリストアップしてもらってさ」
「まぁ実行犯は消されているか、または安全な場所にいるか、または次の為にどこかに潜伏しているか。またはこの町を出ているか。一番最後の逃げられていると厄介だな」
「火つけ野郎のように現場に犯人または首謀者が戻ってるってもあるな」
「お、アノーにしてはいいね。
「“しては”はよけーだ!」
「あはは!悪い悪い!でも、ウェルフ女史に暫く様子見がてらちょくちょく行こうか」
ビッツはひとしきり笑った後は姿勢を正し、両手を組み口元を抑える肘をテーブルにつけ、不機嫌そうなアノーの目を見つめてる。アノーはビッツの雰囲気を感じ、姿勢を正し眉間に力を入れる。
「頼みごとがある。さっきの話の続きだがアノーは情報屋に行って、ピックアップの件を頼む。俺だと自分で言うのなんだが、優男で要らぬ厄介を引くかもしれないから。」
「わかった。誰か指名はあるか?」
「そうだな、ビンゴとロイスあたりがいいかな。今まであまり詳しく院長のこと知らないようにしていたけどそうもいかなくなったから、その辺の背景とこの件に関係していそうな背景を調べてくれ。余裕があれば、町から急に消えた人間が分かれば最上だ。」
「生きていると手掛かりがないからか」
「そういうこと」
「わかった。今から行ってくる」
「場合によってはある程度暴れていいよ。ただし憲兵には注意して」
「わぁーってるよ、ガキ扱いすんな」
「どうせ暴れるなって言っても暴れるからだ」
「申し訳ございませんね、信用がございませんで」
アノーは馬鹿にした変顔で答える。
「その馬鹿面は良いからさっさと行った行った」
ビッツは追い出すようにアノーを手をヒラヒラと振った。
ビッツはアノーが見えなくなったところで立ち上がりフードを被った。
「さてと。俺は俺で犯人を捜しますか、と」
首を横にコキコキと骨を鳴らす。
「検索」
誰にも聞こえないように周りの気配を気にしながらそっと呟いた。
ビッツの目に町全体の地図が映り、次々に青い点と赤い点がついていく。
そして、ビッツは孤児院の位置を見やると地図は拡大する。点は青いのが多いが赤い点が10個ほど映っていた。
「これはこれは・・・急展開だな。アノーが言ったことがまさか起きるとは」
くすりと笑い、ビッツは酒場を後にした。