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お年頃の女の子

 裕子(ゆうこ)さんと共に、女の子とその執事を先導しながら屋敷の中を歩く。

 俺は淡々と前を歩く裕子さんに早足で近づくと、後ろの二人には聞こえない程度のボリュームを意識して裕子さんに話しかけた。


「お客様って、一体何のお客様なんですか? 見たところお嬢様と同い年くらいの女の子に見えますけど」


「クリスマスパーティーの招待客よ。このお屋敷では毎年、クリスマスイブに各社の経営者や投資家、その家族を招いて盛大なパーティーが開かれるの。後ろにいる女の子は広幡(ひろはた)穂波(ほなみ)お嬢様。(みお)お嬢様と同い年で、西之園(にしのその)家と関係の深い広幡家のご息女よ」


「なるほど……」


 クリスマスに客を招待してパーティーを開くなんて、なんともお金持ちらしい催しだ。庶民の俺からすればきっと想像もつかないほどに豪勢なイベントなのであろう。


 そしてこの女の子はお嬢様と同い年。ということは、お嬢様のご友人ということになるのだろうか。

 年の近い子で友達がいるのか心配していたのだが、そういうことならば安心だ。


 それから少しして、裕子さんが足を止めた。

 傍に居た二人のメイドさんが、立派な装飾が施された大きな木製の扉を開けると、そこには煌びやかで広々とした空間が広がっていた。


「こちらがパーティー会場です。どうぞ中にお入りください」


 裕子さんが掌でそっと誘導する。穂波ちゃんと増住(ますずみ)と呼ばれていた執事が部屋に入る。


「うわあっ……! きれい……!」


 穂波ちゃんは部屋に入るなり感嘆の声を上げた。


 天井には大きなシャンデリアがいくつもあり、重厚感のある柱が厳かなデザインにより芸術品へと昇華されている。壁には宝石をあしらった上品なガーランドが等間隔に配置され、クリスマスムードを演出していた。


 会場の奥には大きなクリスマスツリーがあり、数人のメイドさんたちがオーナメントの飾りつけをしている。


 部屋の面積はホテルのパーティー会場程はあるだろうか、楽に五十人以上は入れそうだ。これが自宅パーティーの規模だというのだから全く恐れ多いことである。


「すみませんね、うちのお嬢様がはしゃいでしまって。初めての参加を楽しみにしていたみたいなんですよ」


「いえ。楽しんでいただけそうで何よりでございます」


 増住さんと裕子さんの会話。その後打ち合わせのような話を始める。


 すっかり手持ち無沙汰になってしまった俺は、何の気は無しにその話を聞いていたのであるが、そんな俺のもとに穂波ちゃんが近づいて来た。


「ねえ、そこの執事。澪は一体どこにいるのかしら? その……穂波が来たというのに、一向に姿を見せないんだけど」


「へ? ああ、澪お嬢様なら家庭教師の先生とお勉強をしていらっしゃいますよ」


「え……そ、そうなんだ……ふーん……」


 髪の毛をくるくると指で巻き取りながら、明らかに残念そうな声を漏らす。


「……もしかして、お嬢様に会いたいんですか?」


「なっ! 別にそんなんじゃないわよ! ただ、あの子さびしがり屋だから穂波に会いたがってるんじゃないかって、そう思っただけで……」


 穂波ちゃんはごにょごにょと言葉尻を濁らせた。

 その様子に思わず笑みが零れる。


「な、なによ! 失礼な執事!」


「すみません、なんだか、嬉しくって」


「う、うれしい?」


 穂波ちゃんは訝し気に俺を見た。


「はい。澪お嬢様に、ちゃんとこんなに想ってくれるお友達が居ることが嬉しいんですよ。ありがとうございますね、穂波ちゃん」


 微笑みながら、ぽんぽんと穂波ちゃんの頭を撫でる。

 すると、穂波ちゃんはみるみる顔を赤くして硬直。

 少しして、「や、やめなさい!」と声を荒らげながら俺の手を振り払った。


「なななな何をしているのかしら!? 子ども扱いはやめてっ!」


「す、すみません……」


 少々馴れ馴れしくし過ぎてしまったようだ。穂波ちゃんは腕を組んでそっぽを向いてしまった。

 お嬢様とはまた違ったタイプの女の子だな。自尊心が高いのかもしれない。

 

 自分の失態に落ち込んでいると、穂波ちゃんがちらりと俺に視線を向けて来た。目が合うと、慌てて背中を向ける。


「……なさいよ」


「へ?」


「撫でなさいよ」


「……は?」


 意味が分からずに間抜けな声を漏らしてしまう。

 そんな俺の反応に痺れを切らしたのか、穂波ちゃんは顔を真っ赤にして俺の方を向いた。


「頭を撫でなさいって言ってるの!」


 部屋中に響き渡る声。裕子さんや増住さん、他のメイドさんたちまで何事かとこちらを振り返る。

 穂波ちゃんはその視線に気が付いたのか、慌てて口を手で押さえた。


「あのー、お嬢様? ちょっと静かにしてもらえる?」


 増住さんが呆れたように言う。その言葉を背に受けながら、恥ずかしさからか、穂波ちゃんは涙目になっている。


「……っもう!」


「あ、ちょっと、どこ行くんですかっ」

 

 穂波ちゃんはバツが悪そうな顔で部屋を出て行ってしまった。増住さんの方を振り返り、どうするべきかと視線を送る。

 増住さんは一度肩を上下させると、仕方ないとでも言いたげに頭を掻いた。


「お嬢様、なかなかに難しい年頃なんだわ。こっちはまだ話の途中だから、申し訳ないけど、お嬢様のこと頼めますかね。なんかあんた、真面目そうな顔してるし、信頼できる」


「え、ええ……」


 適当過ぎるその物言いに、俺は呆れてしまう。裕子さんに目をやると、「絶対に問題は起こすなよ」と明らかに言っている目で俺を睨んでいた。


 仕方ないか。俺が頭を撫でてしまったことがそもそもの事の発端でもあるみたいだしな。


「わかりました、探してきます……」


 そう言って、俺は部屋を出た。既に見える範囲の廊下には穂波ちゃんは居ない。一体どこに向かったのであろうか。

 呆れ半分、心配半分で俺は廊下を歩き始めた。

澪とは違うタイプの穂波ちゃんは書いてて新鮮で楽しいですね。

ちなみに穂波ちゃんは澪よりも勉強がやたらと出来るので、難しい漢字を知っていたり、言葉遣いもませています。

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