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 シャルルは死んだよ。

 そしてオレはどういうわけか、今もこうしてここにいる。

 オレはここで止まっちまってるが、それでもなくなりもせずここでこうして存在してる。

 はっ、なんでだろうな?

 なぁ、どうだったよ。オレの話はよぉ。

 笑っちまうだろう? 可笑しかっただろう? とんだ喜劇だっただろう?

 オレは悪魔だぜ? 悪魔が人間の、しかも男の悪魔が男の人間に恋をしちまっただなんて……、笑っちまうだろう……。なぁ、笑っちまうだろう……。

 話はこれで終わりだ。聞いてくれてありがとよ。

 最後に一つ、アンタに言いてぇことがあるんだ。

 オレはな、オレは悪魔だ。だからな、アンタの幸せなんかこれっぽっちも願っちゃいない。むしろ、アンタの不幸で腹がよじれるほど笑えるのがオレだ。

 でもな、シャルルは違う。シャルルは優しい男だった。他人の不幸に涙して、他人の幸せを本気で願えるような、そんな優しい男だった。世界が優しくあることを願い、世界のすべてを愛するような男だった。

 オレが愛する人間はシャルルだけだ。でもな。いや、だからこそ、オレはシャルルの願いまで願う。オレの中で、シャルルの思いが生き続けるように。それが今もこうしてここにいるオレの、残っちまったオレに唯一やれることだと思ってるんだ。

 だからオレは願うんだよ。世界が優しくあるように。

 まあ、シャルルがそう願ったところで、オレがそう願ったところで、世界は優しくねぇだろうなぁ?

 アンタの人生だって、そうだろう。色々あるだろう? 今だってそうだろう? 色々あって、こんなとこにまで迷い込んできちまった。

 なぁ、オレはここで止まっちまったよ。延々と永遠に、ここでオレの時間は、オレのすべては止まっちまってる。

 だがよぉ。アンタは、アンタは止まるんじゃねぇぞ。色々あるだろうがな。色んなことがあるだろうがな。アンタは止まるんじゃねぇぞ。

 なぁ、知ってるか? 悪魔ってぇのはな、人の心の中にいるんだぜ? アンタの心の中にもな、悪魔はいつも潜んでいてよ、今か今かと隙を待ってやがるのさ。アンタの心の中にもな、いつでも悪魔はいるんだよ。

 なあ、コイツは礼だ。話を聞いて貰った分の、オレなりの礼だ。いらねぇかもしれねぇが、一つ受け取ってくてよ。なぁ、いらなきゃ後で適当に捨ててくれりゃいいからよ。

 だから。だからな。アンタにはこれから先も、色々あるだろうよ。今までだって、色々あったろうよ。辛いことも、苦しいことも、色んなことがあるだろうよ。でもなぁ、でも、それで立ち止まっちまいそうになった時は。それで人生を止めちまいそうになった時は。そんときは、今度はオレが話を聞いてやる。返事も相槌もしやしねぇが、それでも聞くだけ話を聞いてやるよ。だからよぉ。だから、止まるんじゃねぇぞ。

 悪魔はいつもアンタの心の中にいる。心の中にいるぜ。忘れるなよ。

 それでなぁ、それでだ。

 それで――。

 オレは悪魔だぜ。

二〇二〇年 二月 九日  着想

二〇二〇年 三月一一日  脱稿

二〇二〇年 三月二五日  最終加筆修正

二〇二〇年 三月二七日  匿名公開(削除済)

 





あとづけ

 私のミューズ、私のではないあなたに捧ぐ。

 そして、貴方に捧ぐ。

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