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「さて、第四王子様ですが・・・」
宰相は大きなため息を飲み込んで、決心したように口を開ける。
「現在、行方不明です」
「は?」
さすがにそれは思いもしなかった。あまりにも予想外過ぎて頭がついていかない。
「行方不明って、王子が?」
「はい」
「いつから?」
「一週間くらい前からですね」
「一週間?!」
あまりにもさらりと言われるのに違和が過るどころの話ではない。
「まぁ王宮のどこかにはいると思いますので」
よくあることなんですよと涼しいというかいっそ冷たいくらいの宰相の顔を凝視する。
「王子の扱い、それでいいの?」
さっきの第三王子の扱いも酷かったが、こっちは違うベクトルで酷くはないか?
「そうは仰られましても、捕まらないものは仕方がないと言いますか」
元気なのは良い事だと思いますと言うのに、そうじゃないと背後にテロップが流れる。
「自己紹介が難しいので私の方からお話しますが、第四王子はお名をテトライア・フォス・アルガイア様と仰られまして、特に取柄が無いのが特徴の方です」
「・・・意味わかんない」
あまりにも雑な紹介の仕方に口を開ける。
「第一王子のモノリス様のように剣が上手なわけでなく、第二王子のジークフリード様の様に魔法に才があるわけでもありません。第三王子のトリニーダ様のように奇妙な術に長けているわけでもなく・・・」
本当に普通の平凡な能力の方ですと説明される。
「平凡な能力なのに、お城の方が探しても見つからないのですか?」
それを平凡というのかと疑問を呈するのに宰相は肩を竦める。
「まぁ、見つからないのは本気で探していないから、というのもあります」
「本気で探さないの?!王子なのに?」
王子って彼女らの認識ではもっと大切にされて然るものなのだが。
事情があって平民として育てられた王子とかはあったが、王子と分かっていながらそんなアバウトな扱いの王子はどの物語にもゲームにも出てきたことはない。
「一つ目の理由は王が『好きにさせろ』と仰っていることと、二つ目は第四王子の母君が誰か分からないことにあります」
「はぁ?」
父親が誰か分からないって言うのはたまに聞くが、母親が分からないってのはなかなかに珍しい。だってその腹から生まれてくるのだから。
というか、さすがに王子の母が誰か分からないってのはマズいだろう。
「王子たちの御生まれになった日に、王がどこからか連れてこられて『我が子だ』と宣言されたのです」
母親のことは一切語らず、宰相と重鎮たちがどれほど調べても分からなかったのだという。
「生まれたばかりなのだから母親はまだ動けないはずで、かといってあんな生まれたての幼子を遠い町から運んでくることも現実的にあり得ないので、母は城下にいるだろうと推測されました。王子の母君が不明など、あってはならないことなので、城門を閉ざし城下の隅から隅まで妊婦を調べたのですが・・・」
この日生まれたのは王子たちばかりで、城下では誰一人として子供は生まれていなかった。王都というだけあってかなり大きな都市だ。正確な調査は行ったことはないが、人口は100万越えともいわれている。それなのに、この日に限って子供が城下で一人も生まれていないなどと。
このことは5人もの王子の同時誕生という奇跡に加えて、予言には語られてはいない、隠れた神秘の一つとして囁かれている。
「・・・人間、よね?」
「見た目は」
「見た目って・・・」
「この世界にいるのは『ヒト族』だけではありませんから」
その言葉にハッとする。
そうだ、先ほど第三王子が言っていた。この世界には妖精や獣人のような異種族がいると。
この世界では異種族の間の子をハーフと言い、異国間で肌の色や服装風習などが違えども、ヒト族同士である以上第三王子トリニーダはハーフではないと。
自分たちの知るハーフという言葉の使い方と違うのだと、教えてもらったばかりだ。
「第四王子は羽根も生えておりませんし、角も牙もありません。見た目はヒト族の特徴をとらえております。そしてその能力も」
むしろヒト族の平均値過ぎて困るのですとため息をつく。
まぁ確かに王子様だから、色々期待されるんだろうなと思う。
王子とてヒト。王子だからと必ずしも特別な能力を持って生まれてくるわけではないだろうに、勝手に期待されて勝手に落胆されるのは確かに可哀想だなと勝手に同情する。
「でもさ、生まれてるからには母親はいるのよね?」
「まぁ・・・そうでしょうが」
「王様は知ってるのよね?」
「・・・多分」
いくら問い詰めてもこの件については王は何も喋らない。だが王自身は全て分かっているからこそ「我が子」と言っているのだろう。
だが王である以上、母がないから不憫と特別扱いするわけにもいかず、十分なフォローはできなかったし、今もできていない。
「王子は何より自由を好まれる方で、捕まえてお部屋に閉じ込めてもすぐに逃げ出されてしまうのです」
幼い頃はまだしも、10歳を過ぎたら城の衛兵や近衛兵、騎士団総動員でも捕まらなくなった。最初は大規模な捜索もしていたが、あまりにもその回数が多くなってきたので。
「王命で『ほっておく』ことになったのです」
「・・・王子様って」
最初は母がいないからって本気で探してあげないなんて酷い!と思ったけれど、今となってはこっちに同情が傾く。
「・・・取柄、あるじゃない」
「そうですね。でもその特技、王族として必要かどうかと言いますと」
「要らないわね」
王族として以前の問題な気はするが、そこまでは突っ込まない。
「運が良ければ、会えると思います。この城のどこかにはいますので」
「四葉のクローバー扱い?」
見つけたら幸運になれる幸せの王子様ですと言うのに、誰が上手い事言えと?と顔を引き攣らせる。
「まぁ、王がお帰りになられれば、お会いできると思いますよ」
言いながら宰相は歩き出した。第四王子の紹介はこれで終わり。
次の王子の所へ行くようだ。
「その第四王子も王様には素直なのね」
王様が帰ってきたら出てくるなんて可愛いところあるじゃない、と言うのに宰相はきょとんと目を瞬かせた。
「いえ違います。そんな可愛らしさ、どの王子にもないですよ」
ウチの王子をなめてもらっては困りますと胸を張るのに目を下げる。
「じゃあなんで?」
「王がお帰りになれば貴女様方の歓迎会が行われるからです」
それには喜んで参加なさるでしょうからとの言葉が通過する。
「歓迎会って・・・宴?」
「舞踏会です」
「ぶと?!」
そんなの聞いてないわよと咲が叫ぶのに、宰相は少し顔を顰める。
「何を仰います。貴女様方は国賓でいらっしゃいますから」
王侯貴族に紹介する場は必要ですと力説されては返す言葉を失う。
「でも私たち、舞踏会なんて・・・経験ないし」
「そうですか、それは良い事を伺いました」
明日から訓練ですねと眼鏡を光らせるのに、頭の中で警笛が鳴る。
「第四王子様は舞踏会がお好きでいらっしゃるのですか?」
「そうですね。派手なことがお好きな方です」
「・・・パリピ?」
「咲ちゃん!」
パリピとはパーリーピーポーの略で、パーティ大好きなお祭り騒ぎ大好き人間のことである。が、流石に王子様には失礼だろう。
幸いにして宰相には分からなかったようだ。この世界にはない単語で良かった。
「第四王子様って・・・」
色々話を聞いているうちに分からなくなってくる。平凡で取柄が無くて、なのに脱走得意で騎士団でも捕まえられなくて、派手好きでパリピ。この情報で人物像を想像しろと言うのが不可能である。
最初にヨハンが第一王子を「王子らしい王子」と称したが、なるほど分かった。他の王子にはあまりにも王子らしくないのがいるということだったのかと。
確かにモノリスは王子らしい王子だった。物語に出てくるそのまま。その威圧的な口調も偉そうな態度も込みで。思い返すだけで咲のはらわたが煮えくり返るが。
会う前から決めつけるのは問題かもしれないが、この様子では第四王子とだけはなさそうだと咲は深く息をついて、空を見上げた。
所用の為少し投稿あきました、すみません。
二次とかもやってますんで。どこかで見つけたらよろしくお願いします。
読んでいただければ嬉しいな。