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前回までのあらすじ


『勇者の母』となるため現代日本から異世界に召喚された双子の咲と幸。

混乱の中、宰相のヨハンシュトラウスに現状の説明を受ける。

『勇者の父』候補として予言に記された同じ日に生まれた五人の王子にとりあえず会いに行くことになる。

まずは第一王子と第二王子に会いに来たが威圧的な第一王子とやる気のない第二王子に唖然とする。

「私の二番目と三番目の妻になれ」という第一王子の偉そうな態度に反発を覚える咲。

そんな喧々囂々とした会話の中『勇者の父』となったものが王位を継ぐと知ってしまい・・・




その言葉は二人に更なる衝撃を与えた。

「は?!何それ!聞いてないわよ!」

「そうですね、言ってませんから」

「何よそれ!」

ふざけるんじゃないわよと吠える姉を諫めるのも忘れて幸も呆としている。

「冗談じゃないわよ!勇者を生む女をゲットしたら王様になれるなんて!」

私たちは景品じゃないのよ!と叫ぶが、宰相の真剣な目に気圧される。

「そのくらいのことは必要なんですよ。今後の勇者様の活躍を考えるなら」

先程までと打って変わって冷えた圧を放つ。これが宰相としての真の姿なのか。

「貴女様方は何の後ろ盾もない、地位も身分も力もない異界の女性です。世界には必要でも個人的に勇者様を邪魔に思う者が権力を握った場合、大変なことになります。勇者様を蔑ろにされては世界を救っていただけません。しかし父が最高権威の王であれば、せめてもの抑止力になるでしょうから」

それほどにこの世界の、この国の権力圧力というものは恐ろしいのだと、その低い声に改めてここは自分の知らない世界で知らない国なのだと、思い知る。

「待ってください。その、私たちがそれぞれ別の方と結婚したら、どうなさるのですか?」

その問いはもっともだ。母候補は二人いる。どちらが勇者を産むのか現状分かってはいないのだから。

「・・・それは大丈夫です」

いずれ分かりますからと宰相は言った。

「どうやって分かるの?」

「それは申し上げられません。しかし、いずれ分かるのです」

「だからなんで?」

「申し上げられません」

押し問答が続く。しかし、いくら食い下がっても口を割りそうにない圧を感じた。

「まぁ、ヨハンから引き出そうなどと考えない方が良い。いずれ分かるのだろう。ならばやはり、そなたらは私の妻になるのが一番だ」

「何言って・・・」

「私なら、守ってやれる」

突っぱねようとしたが真剣な王子の瞳に射竦められる。それは自信にあふれていると言うより確証があると、そんな感じに聞こえた。

「確かにモノリス様が仰ることも間違いではございません。モノリス様は母君の身分も申し分なく、後ろ盾もしっかりされています。また今回の王の選定はイレギュラー故関係ありませんが、通常の慣例に倣えば第一王子は王位継承権第一位で、古い慣習にうるさい者達も文句はありますまい。加えて、頭脳も明晰で剣の腕においては右に出るものはいません」

見た目だけではなく、現実的に一番臣民が納得する王に近い方なのは確かですと淡々と述べる。

「そうだ。そして次世代まで揺るぎない権力を維持するために、更なる後ろ盾として相応の身分の者を正妃、側妃にしなければならないのは仕方がない。だからそなたらは二番目三番目の側妃にするしかないのだ」

なるほど、宰相が「一番王子らしい王子」と称した理由が分かった気がする。

彼は幼い頃から王位を視野に入れて生きている。きちんと王位に就くために必要なことを考え、そのために努力し、根回しをしてきた。そして、その為なら・・・利になる妻を何人でも娶るつもりだろう。

王になる自覚が、意思が、一番強いのは恐らく彼だ。

だが、それで納得できるはずもない。

「お断りだわ。私は自分の身は自分で守る。もちろん、妹のことも私が守る!」

アンタになんて頼らないと言い放つのに、第一王子は目を剥く。

「強がるな。異界から来て右も左も分からぬそなたらは、縋らねば生きられぬ」

ならば一番安心できる者を選ぶべきだろうというのに、咲は舌を出す。

「私だって腕に覚えはあるわよ。アンタ達の権力争いなんて知ったこっちゃないわ!」

正確には争いと言えるほどのものが起こっているわけではないのだが。それを言うなら現状第一王子の一人勝ち感は否めない。

突然異界で勇者の母となれと言われている理不尽に晒されているのだ。その上、権力争いなんて巻き込まれたくない。

「そなたがいかに強かろうが、千も万もの軍に勝てるわけではなかろうが」

それが正攻法であればまだいい。闇討ち、密殺、暗殺、誅殺、毒殺、呪殺・・・もっと酷ければ誘拐、拷問、強姦、冤罪。死んだ方がマシだとさえ思うほどのものだってあるだろう。

その全てが腕の覚えだけで排除できるわけではない。

「ましてそなた一人ならまだしも、戦闘力のない妹までとは不可能に近い。人質に取られて利用されるのが関の山だろうな」

「・・・っ」

第一王子の言うことは理性では理解できた。しかし感情はついていかない。

こんな奴の言う通りになりたくないとその感情ばかりが先に立つ。

「私たちは勇者の母になる為に呼ばれたのよ!その私たちを傷つけるなんて、しないはずで・・・」

「そうかな?子供さえ産めるなら手や足など不要とも考える輩もいるだろう」

手や足だけじゃない、目も鼻も口も、極端な話まともな意識すら要らないと考える可能性もあると言われて背を凍らせる。

それは平和ボケした現代日本の18歳には辛すぎる現実だ。

「誰もが勇者を必要としているわけではない。混沌を望む者たちにはむしろそなたらなど邪魔なだけだ」

言い放たれて次ぐ言葉を失う。

厳しくてもそれが現実で、自分たちなどこの異世界では力なき存在なのだと、突きつけられる。

だが、それでも・・・

「でも、アンタだけは絶対にイヤ!」

叫んで、部屋を飛び出した。

「咲ちゃん!」

慌てて追いかける。しかし、出口でちゃんと会釈をして出ていくのを忘れないのに宰相は目を細める。

「やれやれ、女性の扱いはもう少し優しくしていただかないと」

それが貴方の取柄でしょう?との言葉に、第一王子は眉間に盛大な皺を寄せる。

「・・・私は何も間違ったことは言ってないはずだ」

「間違っているかいないかだけで論じるなら確かに間違ってはいませんけれど」

表現に難がありましたねと言われるのに、口を歪める。

「彼女たちはただでさえ召喚されたばかりで、不安と混乱に揺れているのですよ。もう少し上手く丸め込んで下さらないと・・・」

「言われなくても分かっている!」

ぐちぐちと幽霊の恨み言のように低音で零されるのに思わず声を荒げた。第一王子の珍しい態度に宰相は細い目を見開く。

「分かってはいるが・・・つい、言いすぎてしまった」

あの者らには嘘や謀をしたくなかったと呟く。

少し話しただけだが、分かってしまった。恐らく彼女らはとても平和な所から来たのだろう。18にもなって結婚ごときであんな反応を示すところを見るとそう推測される。

それがいきなり別の世界に無理矢理連れてこられて、右も左もわからない状況で子供を産めと押し付けられるなど。女心は分からないが、その混乱と衝撃は察して余りある。

「どうにも、あの現実を受け入れようとしない、緊迫感の薄い感情的な様子を見ているとイライラしてしまってな」

「ああ・・・まぁお気持ちは分かりますが」

男であるヨハンからすれば、同性の王子の気持ちの方が理解に易い。

「私は私にできる最善の方法を示しただけだ」

それなのにと唇を尖らせた。これも完璧な貴公子の呼び声高い第一王子には珍しい仕草だ。

「現状、私以上に安全と安心を与えてやれる者など、おらぬだろうに」

その為に幼い頃からずっと準備をしてきたのだ。いつか召喚されるだろう勇者の母を守るべきは王族の務めとして。弟の様に「知ったことか」と放り出すこともできたのに、それをしなかったのは彼が第一王子であるが故。けして彼女たちだけの為でもなければ、まして自分のためでなどない。

彼女らと同じく5人の王子もまた勇者の為の生贄である。

「ゆっくり時間をかければ、サキ様もきっと貴方の仰ることを理解しますよ」

だが、納得するのはまた別の話だと言うのに、ぶっきらぼうに分かっていると返した。

その時、大きな音が外から響いた。何かが壊れ、倒れるような音に耳を疑う。

「何事だ?!」

窓に駆け寄ると、また一つバキバキミシミシという音が空間を劈いた。

「・・・どうやら、サキ様のようですね」

窓の外、王宮の庭に倒木が1、2、3、4・・・更に5つ目が目の前で倒れる。

「まさか・・・素手であの木を倒したのか?」

「相当にお怒りのようですね」

「あれが異世界の女の『腕に覚え』のレベルなのか?」

腕に覚えのレベルが王子の予想の三段階上を行っていたらしく、頬をヒクつかせる。一見普通の小娘に見えたが、どこにそんな力があったのかと、あの細い肩を思い出して首を捻る。

「・・・さすがは勇者の母、ということですかな?」

さてと呟いて宰相は椅子から立ち上がった。

「鎮めに行って参ります」

このままでは庭が丸裸になりかねませんからと全く臆することなく軽い調子で紡ぐのに、第一王子は目を伏せた。

「迷惑をかける・・・」

「仕事ですから」

ヨハンは頭を軽く下げて、部屋を後にする。

第一王子は窓の外を見ながら、その綺麗な金の髪を乱し、大きく息をついた。眼下に見える黒と茶の乙女を見つめるその胸中はいかばかりだろうか。

いつの間にか第二王子の寝息が止まっていたことにも、気づいてはいなかった。




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