あのころの彼女とあのころの俺〈イラストあり〉
喜多方みりな、という女の子を、俺は小学生の頃から知っていたが、みりなは、そりゃあもう…小汚いガキだった。
髪はとかしてきてるのかきてないのか、すっげーボサボサ頭で登校してくるし、ガリガリ痩せてて目だけ大きくて、服はほとんど毎日同じのを着て来るし、それも洗濯してあるのかしてないのか…ってありさまで、不潔この上ない印象だった。
あと…給食の食べ方が汚かった。
ガツガツとムシャムシャと食べる様子は、その頃うちで飼ってた犬の食べ方に似てて…
犬食いって、まさにああいうのを言うんだと思ってた。
そんなふうだから、みりなはクラスの大半からは嫌われていた。
かといって、みりなはいじめられっ子だったわけじゃない。
いじめようとするほど、みりなと関わりを持つことすら、みんな嫌がっていた。
今となっては恥ずかしい話だが、俺もそのみんなの中の一員だった。
きったねー女子。
それくらいしか感想がなかったし、関心も持たなかった。
公立の中学校へは、小学校の顔ぶれがほぼそのまま進んだ。
俺と喜多方みりなはたまたま同じクラスになった。
ここで、俺のことについてもちょっと話しておこうと思う。
俺は、佐藤健。
タケルじゃないぜ、ケンと読むんだ。同じ漢字で読み方が違う俳優がいるせいで、自己紹介のときにはいつもからかわれる。
他人よりちょっと秀でてるとこと言えば身長くらい。
中学校入学時点で170はあったから、なんだお前、バスケかバレー部に入れって、周りもすすめるし、その頃の俺もそんな雰囲気に流されて、なんとなくバスケ部に入っちまった。
そして、中学の一年目は、部活の中で、一年ボーズあれやれーこれやれーで、あっという間に流れていった。
ああ、そうだ、みりなの話をするんだった。
みりなは、中学校の制服をだぼっと着て、それも洗っているのかいないのかの制服を着ているという点で…
そこは、他のクラスメイトもどっこいどっこいになってしまった。
みんなダボついた制服を大して洗い替えもせずに着るようになったもんな。実際。
これは仕方ないだろう?みんな、実際。
みんなと同じような身なりになったことで、みりなはますます存在感がかすれて行った。
…あの、給食の食べ方が汚いことを除けばだが。
二年に進級するころには、俺の制服はもうきっつきつになってしまい、
母親から、
『あんたそうツンツルテンだと恥ずかしいわ、制服新しくしなきゃダメね!』
と言われ、俺は初めてツンツルテンという単語をググッたのだった。服の丈が身の丈に対して短くてみっともない様…
ひでぇ。
そうして俺は、動きやすい新しい制服を手に入れることができて…
そうだな、この頃からだ。このころから、喜多方みりなは、少しずつ、すこしずつ変わって行ったんだ…。