36話 到着
「さぁ。これで護衛はお終い。これを持ってギルドに報告に行ってちょうだい」
王都に到着後積み荷を降ろしている間にルクシアはレルムに一枚の紙を渡した。
これはギルドに護衛依頼をした際報告をするために必要となる物だ。
「ルクシア様。馬車の準備が完了しました」
「それじゃ私は城に戻るから。あとはジェシカが案内するからよろしく。出して」
ルクシアはもう一つの馬車に乗り込み城へ出発した。
「えっと。ギルドへの報告は明日でもいいのでまずは皆様の宿泊場所に案内させていただきます」
「あ、はい。お願いします」
乗ってきた馬車で王都の内部に向かう事20分ほど。向かった先にはそれはそれは大きな屋敷があった。
ちなみに乗ってきた馬車のうち一台は国の物、もう一台はルクシアさん個人の所有になっているそうだ。
「ここはルクシア様の所有する屋敷です。皆様の人数が多いということで宿を探すのにも時間がかかる可能性があるとのことでこちらに宿泊していただくことになりました」
「泊めていただけるのならそれでいいんですがいいんですか?冒険者、それも平民を入れたりしても。他の貴族がこのことを知れば不都合があると思うのですが」
「客人という扱いにするそうなので大丈夫だそうです。王族の客人という事にすれば大抵の貴族は黙ってくれますので。黙らない貴族も存在しますがルクシア様と敵対関係にあるので別に問題ないかと」
王族に表立って逆らうようなバカは居ませんよねぇ。滅多に。
「皆様には十日後の会議およびパーティの警備をお願いしました。警備場所につきましては調整中ですので日程だけでもここで伝えさせていただきます」
屋敷の応接室でジェシカさんと対面で座る。他のメンバーは屋敷の探索や街の観光だ。自由でいいですね。
「五日間の予定になっています。会議を三日間、一日空けてパーティーという予定になっています。会議の内容については最近増加傾向にある魔物の対策会議、それの原因となる魔王への対策についてになります。その間城の会議室に陛下や宰相、そして他国の代表が集まります。もちろんルクシア様もこれに出席します。そしてパーティー。これは国同士の親睦を深めるための物と考えてください」
王族ですし出ない訳にもいかないんでしょうねぇ。本人は嫌がってる気もしますが。口より剣で語る派の人な気がしますし。パーティーについても同様でタイプが違うでしょう。
「次に会議室での武器の所持は護衛以外認められておりません。武器を所持していなくてもルクシアは戦えますがそれでも不利には違いないので皆様のうち誰かに会議室での護衛をお願いしたいのですが」
「護衛の人数を聞いても?」
とりあえず必要な人員の数を聞くことに。予定では私含め十二人動かせる。分身やその下も動かせばもっと動かせますが他の仕事もさせたいので護衛だけに人数を割くわけにもいかない。
「二人でお願いします。私も参加しますが有事の際私だけでは対処しきれるかわかりませんので」
二人・・・騎士組の二人に任せてしまいましょう。すでに王都にいるみたいですし。護衛についていても違和感ないでしょう。武器に関しては取り出しも可能ですし。
「わかりました。こっちで選出しておきます。それと有事の際ということはひょっとして何か起こると考えていますか?」
会議室自体警備は厳重なハズ。何か起こるにしても起きないにしても側に置くのは我々より国の騎士を置いた方が良い気がしますが。
まぁこの機に始末して他所に責任でも押し付けようとする勢力でもいるんでしょう。やましい事をしている貴族を潰しているみたいですし。敵は多いんでしょうねぇ。
「はい。すでに刺客も放たれています。それにルックルへの道中の襲撃犯がこれを所持していました」
ジェシカはテーブルに紋章付きの短剣を置いた。
「確認しても?」
「どうぞ」
どこかで見た気がしたと思えば初日の盗賊騎士の持ち物にありましたね。提出のタイミングをうかがってましたがここで出してしまいましょう。
「私もこれを盗賊から回収したのですが」
同じ物を一本置いた。何かの使い道があるかもしれないので一本コピーを複製しておいた。
「これをどこで?」
ルックルへの道中に遭遇したと話した。実際は遭遇ではなく狩りに行ったのだがこの際どちらでもいいだろう。
「ありがとうございます。もう一度襲撃が来た場合私とルクシア様はともかく他の騎士たちに死傷者が出る恐れがあったので刺客を排除していただいて助かりました」
二人以外の強さもそこそこあったとは思いますが長旅の疲労もあったりしたんでしょう。おまけに裏切り者もいたのだから。
「それではこれから私も城に報告に向かいます。また明日お話させていただきますので。本日は皆様、ごゆっくりお休みくださいませ」
これにて本日はお開きとなった。明日は五人に会いに行きましょうかね。
エステラルス王国のある場所
「ルクシアがなぜ生きている?始末しろと依頼をしたはずだが」
ルクシアの暗殺を依頼した男は闇ギルドの幹部の一人に問いかけた。
「その件に関しては我々も疑問に思っているのだ。そちらの兵も潜ませ奴の戦力を超える戦力を用意した。お前の兵は何をしていた?」
闇ギルドの戦力はルクシアよりも上の強者をそろえたわけではない。ギルドの指示に従わない人間、実力が伴わない人間を主としてそろえていたものであった。要するに膿を排除した形になる。
「あ奴からの報告では王都出発後数回襲撃。ルックルに着く前に消耗した奴らを始末する手はずだった。
だが四度目の襲撃で終わらせるはずだったそうだが予定していた部隊は行方不明。予定を変更しルックルの闇ギルドから人員を出し帰りの道中の襲撃に移ったそうだ」
「ルックルの闇ギルドにも協力要請は出していたからな。だがそいつらからの連絡も途絶えている。監視をさせていた者もな」
王都の中からでは監視は出来ない。城壁に阻まれるからである。ならどこで監視するか?
そう、王都の外だ。だが不幸にも外に出ていたことによりバルドノートにより邪魔者という認識をされ
た結果本来安全な位置にいた監視も消されている。
「で、どうするのだ?襲撃のため手配した人員、物資、どちらも動員した結果成果なし。対価ははもらっているがこれ以上損害がおおきくなるのなら最悪手を引けと言われている」
闇ギルドと男は互いの利益のため手を結んでいる。利益より損害が大きくなれば切り捨てる。それが取引相手として長い付き合いだった相手だとしても。
「お前の所持している《アーティファクト》、あれを対価に出すなら必要なものを出そう」
「ちっ。わかった。だが使えるのは残っておるのか?」
「アジトに残っているが制御が効かん。それからこれを渡しておこう」
男は紫に光るアミュレットを渡した。
「なんだこれは」
「さっき言った制御の効かない者を呼び出せる代物だ。魔力を流せば使える。それから貴様の身は自分で守れ」
「言われんでもわかってるわい。これは前金だ。アーティファクトは上で受け取るがいい」
男は報酬が入った袋を投げ渡した。
「武運を祈る」
そう言い幹部の男は部屋から退室していった。
「ギルドの邪魔者も消え、アーティファクトも手に入った。もう奴に用はない。魔道具実験の踏み台になってもらうとしよう。あわよくば紅蓮姫も消えてくれればいいが」
誰もいない暗い路地の中で男はつぶやいた。




