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34話 王都へ 前

 翌日の早朝人の出入りの少ない時間正門の前に集合していた。

 そこには初日に見たこの国の紋章付きの馬車二台、ルクシアと護衛の騎士六人、メイド三人がいた。


「来たわね。でも人、増えてないかしら。ライルから聞いたのは七人だったと思うんだけど」

 ルクシアがライルから報告を受けていたのは

「いいわ。人数が増えてもこの馬車なら定員は大丈夫だし。ところで、あなた会ったことないかしら」

「え?わ、私ですか。い、いえ、ないと思います」

 ルクシアは見覚えのない四人を見渡した。その中でミアに視線を止めた。見覚えがある顔だったからである。

 

「まさかね」

 こんなところにいるはずがないとルクシアは一瞬よぎった考えを振り払った。


「さ、出発するわよ。馬車に入って」

 

 馬車の中は客室列車のような内装になっていた。

 六つの個室と物置、そして家で言うリビングの八つの構成になっている。

 馬車の内装に驚いているのは新顔四人だけだ。

 他は驚くことでもないとスルーしている。

「驚かないのね。普通ならこの馬車の内装に驚くものなんだけど」

 ニック達とレルム達の温度差を感じ取ったルクシアはニック達を示しながら言った。

「驚いた方がよかったですか?」

「いえ、説明は要らなさそうね。その様子だと」

 馬車どころか家、城にも使っているレルム達にとってはなにも驚くことはなかった。

「個室は前方の四部屋使っていいから。馬車の後方の個室に私たちは居るから」

「了解しました」


ーーーーーーーーーー


「暇ね」

 出発から六日経った現在、ルクシアはそんなことを呟いた。襲撃が全くないからである。

 馬車の旅は快適と言ってもいい。馬車に施された魔法により揺れもなく馬車を牽いている馬に対しての強化魔法により速度も維持されているからだ。

 

「暇なら暇でいいんじゃないんですか」

「じっとしてるのも楽じゃないのよ?それにルックルへの道中は四回も襲撃があったのに帰りは襲撃がまったく来てないのもおかしいわ」

 暇だからか呼び出されてこの部屋に来ている。

 ルクシアさんの予想では襲撃があると予想していたのでしょうが残念なことに行きはルトさん、帰りはバルドに処理させている。

 初日に見かけた盗賊騎士と同じように森に隠れて街道を通る馬車を狙っていたようですが上空からのバルドが蜂の巣にしている。

 バルドの基本武装が機関銃による連射だ。魔力で弾を作り撃ちだす。異能により弾切れもないため永遠に撃ち続けることが可能であり弾切れまで耐え抜くという方法も取らせない。

 今回の盗賊排除には銃器が効くかの実験も兼ねて魔力弾を使ってもらっている。通常弾もあるが今回は使わない。

 通常弾は火薬を使い撃ちだす弾丸。地球で一般的に使われているものだ。

 魔力弾は魔力により生み出される弾丸。属性、効果、使用者の好みで使い分けられる。

 魔力弾は撃ちだした後消滅する。そのため証拠隠滅に便利なため多用されている。


 今も窓の外に見える森の一部にバルドが弾丸を降り注いでいるのが見えます。

 今日の天気は晴れのち弾丸ですかね。

「さっきから窓の外を見てるけど何かあるの?」

「いえ、なにもありませんよ」


 何もないわけはない。こうしてレルムが森を眺めている間にも森に潜んでいる盗賊は数を減らしている。

 ルクシアを狙った者、無関係だが盗賊をやってる者問わず無差別にだ。上空から音もなく迫る弾丸になすすべなく殺されている。

 もちろんレルムには弾丸が見えているがルクシアには見えていない。

 森を見ても木々が揺れているように見えるだけである。


「次の休憩が来たら私と手合わせしてくれないかしら。少しは体を動かしたいし」

「いつ襲撃が来るかもわからないのですから体力は残しておくべきだと思いますよ。ねぇジェシカさん」

 外の騎士と交代して部屋に戻ってきたジェシカに問いかけた。


「レルム殿の言う通りですよ。ルクシア様。いつ襲撃が来るともわからないのに訓練で体力を使うなど」

「そうは言ってもこのままじゃ体がなまっちゃうわよ」

「そろそろ限界かと思って戻ってきてみればやはりこうなってましたか。レルム殿、仲間の方々の部屋に戻っていただいて構いません。ルクシア様、訓練がしたいなら私がお相手しますので」

「わかったわよ。手合わせはまたの機会にするわ」


 戻っていいようなので隣の個室に移動することに。

 そこには女性陣が集まっていた。

「あ、間違えました」

「入ってきなさい」

 女性陣の中に突撃するのは憚られるのでドアを閉めて戻ろうとしたがメリアさんに引き込まれた。


「私の勇者時代はこんな豪華な馬車はなかったなー」

 レルムは女子会に巻き込まれてしまった!両脇を挟まれ逃げられない!

「シェイラの勇者時代っていつの話よ」

「んー正確にはわからないかな。魔王城の周辺ってずっと夜だったから時間の感覚がつかみにくかったんだよね。でも王都になら文献か何かあるんじゃないかな」

「魔王が討伐されたのは百年以上前と私の一族では伝えられているのですが」

「えー!ティアナちゃんそれホント?!じゃ、じゃあボク、もしかしてもうおばあちゃんぐらいの年齢になってるの?!」

「肉体は若い状態のままで維持されているところを見ると老いてはいないのでは?」

「呪いのせいで肉体の成長が止まってたかもしれないから大丈夫でしょ。そんなに不安なら見てもらう?」

「え?誰に?」

「今来た人によ」

 ここで回ってきたようです。さっきから逃走を図ろうと試みてはいるものの左に悪魔、右に天使といった状態で挟まれ身動きが取れない。

「キミ鑑定持ちなの?」

「い「そうよ」」

 レルムが答える前にメリアが答えた。否定する気配を察したからである。


「今更だけどこのまま自分の年齢がわからないままでいいの?」

「でも男の人に見られるのはちょっとね」

「もう裸と言ってもいい状態を見られてるはずなので関係ないと思うのですが」

「何でノアさんがそれを知ってるの」

「私も知ってるけどどうする?見てもらう?」

「あのーなぜに私が見るのが確定してるのか聞いてもよろしいでしょうか」

 私が見る方向で話が進みそうなのでいったん話の腰を折ることに。

「んーなんとなく」

「同じく」

「え」「はぁ」

 シェイラは開いた口が塞がらないまま固まりレルムはやっぱりとため息をついた。


「はいはい。じゃ旦那様さっさと見てしまってくださいな」

「わかりましたよ。ではこれをどうぞ」

 一枚のカードをシェイラに手渡した。これには個人情報が載っている。今回は年齢だけだが必要なら他の情報も載せられる。

 この情報は先日異能の適応をした際に読み取ったものだ。

「んーどれどれ」

「あっちょっと」

 メリアがカードをシェイラからひったくった。

 メリアが席を立ったことで右側、部屋の出入り口へのドアへの道が空いた隙にレルムは部屋から脱出した。


「あー」

 カードを見たメリアはどちらともわからない反応をとった。

「え、なにその反応ボクにも見せてよ」

「知らない方が良いわよ」

 メリアはそういうと同時にノアにカードをパス。

「・・・」

 ノアはじっとカードを見つめる。


「え、ノアさんなんで目を伏せるの」 

 内容を確認した後そのままノアは懐にカードをしまった。

「ボクにも見せてよ~」

「じゃ、教えてあげる」

 その後崩れ落ちたシェイラが目撃された。


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