33話 薬草の価値
夕方のギルドにやってきました。兄妹は宿に送り届けた状態で。
この時間から飲んでいる人もいるでしょうし絡まれる要素は極力排除するためである。
案の定酒場で飲んでいる人間がいる。それも相当酔っているように見える。やはり連れてこなくて正解でした。
ギルドに入った途端受付の人間が慌ただしく階段を上がっていくのを眺めつつ受付に進む。
呼ばれて降りてきたのはライルさん。昨日ぶりですが老けた?いや疲れか。お礼が効いたのでしょう。
「説明してもらおうか。昨日提出してきた薬草について」
部屋に引き込まれたとたん開口一番にそういわれたため説明した。森の深部に行ったこと。そこで薬草の群生地を発見したことを。
魔族?知りませんねぇ。知らぬが仏ってやつです。
「森の深部に行ってきたってのか。そりゃあんだけの量が出てくるわけだ」
ライルさんは深いため息をつきながら椅子にもたれかかった。ご愁傷さまです。
「一応ご所望の通り出所は黙っておいたが物がモノだ。上に報告しない訳にはいかねえ。そこは俺の立場上報告させてもらった。相手はこの国の王様にギルドのトップのグランドマスターの二人だ」
報告は当然だ。貴重だと思われる薬草を大量に出したのですから。着服するような人ならそもそも出していない。するような人はなんとなくわかる。
「それから今後も同じようなことするなら隠し続けるのは難しくなるぞ」
「わかってますよ。次回もやるつもりですが隠し通すつもりです。貴族にかぎつけられても面倒ですし」
「わかってんならいい。自分の利益しか考えてない奴には下手に目立つと目を付けられるぞ。
・・・おい待て。次もやるって言ったか?」
「言いましたが何か?」
「・・・何か?じゃねぇんだがな。お前さん初めてじゃない顔だな。過去にも何回かやってきた口だな」
「そうですねぇ。数えるの辞めました。多くてめんどくなったので」
「やられたほうはたまったもんじゃねぇな」
「この世界ではあなたが最初の被害者になったというわけです」
「この世界?どういうことだ?」
「ああ、なんでもありません」
口が滑った。これはうっかり。気が緩んでいたかもしれません。
「・・・まぁいい。冒険者には訳アリの連中も多い。詮索はしないでおこう。ところでお前さんこいつの価値がわかるかい?」
「森の深部にしか生えていなかったところを見ると希少なものだとは理解できますが」
「そうだ。こいつは市場にあまり出回らんものでな。高級ポーションなんかの素材に使われる。でこいつらを使って作られたポーションが貴族共に大層人気があってな。魔力が空の状態でも一滴飲むだけで満タンになる代物になる。魔力を増やす方法は二つあってだな。そのうちの一つが危険を伴う物でよ。そのリスクを回避できるようになるんだ。それだけでなく増加量も増えるんだとよ。詳しいことは研究者じゃねぇからよくはわからんけどな。
あとエリクサーの材料に使える。なんて話もあるがエリクサーを作れる奴がほとんどいない上にそいつらの所在がわからんから依頼のしようもないってんでその研究は進んでないらしい」
最大魔力量が増えるポーション。不味いだけで命の危険が無い物がありますが。現在この不味い味を改善しようと研究部の人たちが試行錯誤をしていましたか。不味い方はそれはそれで使い道がありますが。例えばきつけ薬みたいな感じで。あまりの不味さに死にかけの人でも飛び起きるほどですからね。
効果は保証できますが味は保証できませんしおいそれと売れるものでもない。簡単に魔力が増やせるような物をばらまいた日には世紀末がやってやってくるのは想像がつく。エリクサーも高く売れそうですが黙っておきましょう。余計な火種はなるべく持ち込まないように越したことはない。
「今回持ち込まれた薬草、こいつは国とギルドが一部買い取る。具体的な量はまだ検討中らしい。んで余った分はオークションに持ち込まれる予定だ。それから」
「ギルマス。連絡が入ってます」
「ああ、すぐ行く。わりぃちょっと待っててくれ」
職員に呼ばれライルさんは部屋を出て行った。
連絡が取れる魔道具がここにあるんでしょうか。あるんでしょうねぇ。一部のギルドかすべてのギルドかは知る由もありませんが。
ふむ。隣の執務室から離れた位置に魔力の線が接続されていることを見るにあの先にグランドマスターとやらがいるということですか。この街の西、山脈の向こう側に通じているようだ。あの付近に行った感想としては登山には向いてないという感想を抱きましたね。
「すまんな待たせて。グランドマスターから連絡が来てだな」
国とギルドの買取金は王都のギルドでの受け取り。まとまった金額がこのギルド支部にはないためである。
オークションに回す分は取引が完了した後でカードに振り込むそうだ。
「あとグランドマスターが直接会いたいって言ってたんだが」
「それは断っておいて下さい」
「だよなぁ。断ると思ったわ。王族からの依頼も断ろうとしたもんな」
「最後に、護衛の件引き受けてくれたよな?」
「ええ、引き受けましたよ。いきなり切りかかられたのは驚きましたが」
「へぇ、誰にだ?」
「護衛のジェシカさんにですね」
「ああ、また姫様の無茶ぶりに答えたのか。大変なことで」
「また、ということは過去にも?」
「そうらしい。姫様の直感に振り回されて苦労している、なんてことを聞いたことがある」
「彼女の攻撃を無傷で防いだなら大丈夫だとは思うが明日からの護衛は頼むぞ。道中なにもないのが一番いいんだがあの姫様は少々敵が多い」
「王族でもありますし狙われるような相手は多いでしょうし何かしらはありそうですよね」
「そうなんだよなぁ。若干狙われるのを楽しみにしている節があるからなぁ。国に不利益な存在を排除したりして恨みも買ってるだろうからなぁ」
初日の盗賊騎士がそれに当てはまる可能性がありますね。ルトさんが相手したんでしたか。特に相手になる人間でもなかったみたいですが。
「それではそろそろ」
「おう。また来い」
(バルドノート、異世界【フォルマ】に到着。待機場所はドコにシテオク?)
(エステラルス王国王都上空に待機。それから王都からルックルまでの街道の邪魔者を排除しておいてください)
(盗賊の類でヨロシイカ?)
(ああ、よろしく。盗賊に扮した騎士もいるかもしれませんがそれも遠慮なく始末してくれていいので)
(御意)