32話 出発前日の挨拶
宿に戻ったあとまずは買戻しの際にいた二人と話すことにした。
「集まってくれてありがとうございます。二人を呼んだのはですね」
館であったことを説明した。ついでに依頼内容についてもだ。
「は~前の買戻しの時に見られていたのはわかっていたが中身を見れてなかったてのは考えてなかったな」
「私も見られていたのはわかっていました。それに対し動揺もしていたこともわかってはいましたが偽装した能力が見れなかったことに対するものとは考えもしませんでしたね」
心が読めるノアだがあまり読め過ぎるのも気分が良い者ではないので表情からのみ読むことにしていた。王女の護衛騎士ということもあってジェシカも教育は受けていたため表情には出さないよう努力していたがノアは微細な変化も見逃さなかった。だが偽装された能力に動揺したのではなく見れなかったのは三人にとっても想定外だったが。
「そんで姫様に疑われて呼び出されて、まんまと実力を公開しちまったわけか」
「切られてた方がよかったですかね?」
「おとなしく斬られるようなタイプかよ。あんたがよ」
「そのようなことは演技をするときぐらいでないとしていないと記憶しておりますが」
「いや?ソンナコトナイんじゃないかな?・・・多分」
自身なさげに答えたが二人の言う通りだ。演技か攻撃をくらう理由が無い限りは言われた通り受けないことにしている。当たっても結界、防御関係のステータスでノーダメージ、防御を貫通するような攻撃でダメージを受けるとしても異能で肩代わりと万全にしている。
「過ぎたことはもういいです。次の機会に活かせたら活かしましょう」
次が来ても活かさないかもしれないが。
「この世界は鑑定が弱いのでしょうか。偽装したものでさえ見れないとは」
「スキルの鑑定は弾いた、という可能性がありますね。魔眼にでも進化したなら見れた可能性もありますよ」
「そういうことならミアの嬢ちゃんなら見えているんじゃねえのか。この前見たんだろ?能力に魔眼があったのをよ」
「ありましたよ。鑑定も発現していました。ですがスキルが進化するまではお預けになりますね」
「進化まではこの謎は未解決ってことか」
「そう遠くないとは思いますがね」
成長促進と成長限界無視がこのまま作用し続ければの話ですが。
この二つの効果には個人差がある。まったく効かない、なんてことはないが最低でも常人の三倍、最高十倍あたりの効果が発生する。ミアさんは十倍、あるいはそれ以上に効果が出ているイレギュラーといってもいい。まだ彼女は幼い、それが常人の十倍近くのペースで強くなれば・・・人間をやめる日は近いだろう。すでにステータスに人間?とついているのだから。
「あの二人に明日街を出ることを伝えるとしましょう」
危ない危ない忘れるところでした。事前報告は大事だ。
「ニック君、ミアさん、明日この街を離れます」
「知ってるよ」「聞きました」
あるぇ?知ってましたか。
「・・・誰から聞きました?」
「キールさんから」「師匠から」
報酬の会議をした際に伝えた感じでしょうか。手間が省けたからいいか。
「一応聞いておきますがこの街になにかやり残したことはありますか」
「・・・ひとつだけある」
住宅街に兄妹がお世話になった人間がいるようです。なんでも食料を分け与えてくれた人だとか。
「じっちゃーん、いるか?」
「なんじゃニックか。久しぶりに顔を出しおって、また食料がいるのか」
「違うよ。俺たち街を出ることにしたんだ」
「街の外にでて何をするつもりじゃ。まさかミアを捨てに行くわけじゃなかろうな」
「そんなことするか!それにミアはもう治ったよ」
「なんじゃと?」
「あの人の仲間が治してくれたんだ」
それを聞き老人が近づいてきた。人の好さそうな顔をしている。
「ミアの呪いを解いてくれたそうじゃな」
「解いたのは私ではなく仲間なんですがね」
「いや、そうでなくても解呪できる人間を連れてきてくれた。感謝させてくれ」
「してミアが快復したことを知らせるためだけに来たのではあるまい?」
「実は明日二人を連れて街を出ることにしまして。二人にやり残したことが無いか聞いてみるとあなたに会いたいといわれまして」
「そうかそうか。礼儀知らずなガキのままかと思ったがそうではなかったようじゃな」
「別に来なくてもよかったけどな」
「お兄ちゃんお世話になった人にその物言いはないと思うよ?」
「ふぉふぉ生意気な性格はまだ直っておらんようじゃの。まぁよい顔だけ見せただけましじゃな」
老人、ロムさんと言う。彼が兄妹と出会ったきっかけは私と同じ、スリをしたが撒くことができなかった
パターンのやつ。
ただスリにあった相手とはいえ食料を与えるなんて物好きがいるのでしょうか。ああスリにあって呪いを解呪した物好きがいましたか。
「そろそろお暇しましょう」
話し込んでいたらそろそろ夕方になってきていた。
「またな」
「ありがとうございました」
「ふぉふぉ、元気での」
挨拶をすませ老人の家を後にした。
ロムさん。覚えておきましょう。ミアさんの顔を知っているようですし。でなければ見ず知らずの人間に食料を分け与えるなんてことしないでしょうし。
あとはギルドに行って依頼についてと薬草代をもらうだけかな。いくらになるか楽しみです。
ーーーーーー
「記憶はまだ戻っておらんか。いや、むしろその方がええんかもしれんのう」
記憶がないことで皇族としての責務もないのじゃから。
なぜ彼女がこの街にいたか、なぜ記憶を失っておるのか、わしにも解呪できなかった呪いをどうやって解いたのか、考えれば疑問は尽きん。じゃが結果として彼女の命は救われたといっていいのじゃろう。
彼女が消えたと報告を受けた時には焦ったが闇ギルドの連中も捜索をしていたと報告を受けていた。なら闇ギルドではなく第三の者が関わったということじゃ。じゃが一切闇ギルドの人間にもわしの手のものにも気づかれずにいた。街の中で生活していたならありえんことじゃ。必ずどこかで目撃されていたはずなのに。
「まぁいいじゃろ。生きておったなら。しかし二人の魔力量、一体何があればあんな量になるんじゃ」
数日前に感じた魔力量との差に内心驚いたものじゃ。七十年生きてきたがまだ驚くことがあったとはのう。
わしは隠居した身ではあるが魔力関係には詳しいつもりだ。
魔力量を増やす方法は二つ存在する。ひとつは年齢によるもの。長く生きた存在程魔力の保有量は多くなる。竜や上級悪魔などがその最たる例だ。
だが魔力を増やすのには非効率的だ。個人差はあるが一定の年齢になると魔力の増加は減衰する。更に人間という種族は長生きする生物ではない。人間が進化するという説も存在するがそれが実証されたことはなかった。
もう一つの方法は自身の内側にある魔力を限界まで使うことだ。そうすることで魔力の器が大きくなり使える魔力の量が増える。だがこの方法は危険を伴う。魔力が枯渇することになれば命の危険が高まる。魔力はこの世界の人間にとっては重要な器官と言ってもいい物。それが欠ければ死に至ることは一般人でもしっている。この二つ目の方法をとる者は少ない。じゃがリスクを冒すも価値もある。この方法で魔力の増加に成功したものは長生きする。魔力の保有量が多い者は
あの二人の魔力量が増えておったのは確証はないがあの男が関係しているとみてもいいじゃろうな。あの男、魔力が感じ取れんかった。よほど魔力操作に長けておるとみてもいいじゃろう。
「ロガン様、あの男、始末しますか」
「やめい。あの男には手を出すな。不明な点が多い。今はそれより優先するべきことがある」
情報が少なすぎる。後をつけさせてもいいがまずはガルシス帝国の皇女がなぜここにいたのかを調べる必要がある。
「ケイザンよ。ガルシス帝国に行き内部を探ってまいれ」
「はっ」
動く必要が無ければここで城の書物に書いておったすろーらいふなるものを過ごしたいんじゃがの。