24話 勇者からは逃がさない
ゴブリンジェネラル達が冒険者と交戦を開始した頃。
今回の事態の黒幕はゴブリンキングにかけられるだけのバフをかけ逃走を図ろうとしていた。
「くそっ!なぜだ!あそこに万全の『風の守護者』がいるんだ!」
『風の守護者』ジェシカ。男の計画ではワイバーンの群れで亡き者にする予定だった。だが肝心のワイバーンが姫騎士たちと交戦前に姿を消すという事態に見舞われたためにジェシカは出会うことなく街に戻り何事もなかった。
「群れの中には変異種がいたはずだ。それを相手にしてなぜ生きていられた?」
変異種、魔物が特殊な環境で進化した個体である。今回のワイバーンは風属性に耐性を持たせた個体だ。ジェシカなどの風属性の使い手なら有効だっただろうが相手が悪かった。風属性ではなくただの貫通、物理攻撃であっけなく経験値となってしまっていた。
ゴブリンキングにバフをかけ終えた男は転移魔法が込められた石を使うが何も反応しない。
「こんな時に道具の故障か?」
故障ではなく転移阻害の結界が張られているためである。そんなことには気づかず予備の石を取り出そうとした瞬間。
「あれ~?どこに行くつもりかな~?」
「?!」
女の声が聞こえ声に驚き振り向くと黄色の髪をしている女とその後ろに黒ずくめの男が立っていた。声の主は男にとって聞き覚えのある声であり聞きたくない声でもあったからだ。
「貴様・・・なぜここにいる?!」
男は心底驚き疑問を口にせずにはいられなかった。なぜなら目の前にいる女、勇者は先代魔王の呪いにより死んだも同然と思われていたからである。
「いや~なんか解呪されちゃってね。大変だったよ~」
間延びした話し声でそう言う。
「そうか、貴様がワイバーンを討伐したのだな!」
男は目の前の勇者がワイバーンを倒し自分の計画を狂わせたのだと断定した。目の前の勇者ならワイバーンだろうがその変異種だろうが圧倒できると知っているから。
「え?」
思いもよらないことを言われ間抜けな声で返事をする勇者。
「転移で逃げられぬなら飛んで逃げるまでだ!」
転移魔法の発動には時間がかかる。勇者がそんな時間を待ってくれるはずがなかった。そのため距離をとってから転移をするために空を飛び、逃げることに。
男が空へ飛ぶとフードがめくれた。その頭には魔族特有の角が生えていた。
「いくら勇者であろうと空にはこれまい」
人間と魔族の差を見せつけ空を高速で飛び逃走を始めた。
「追わなくていいんですか?」
シェイラさんなら追えるだろうと思い問いかけた。
「追えないことはないけどちょっと難しいかな。まだ本調子じゃないし」
シェイラは魔法で飛ぶことができるが羽のある魔族と比べると飛行速度は落ちる。さらにまだ元の肉体に戻ったばかりであるためここで追いかけても追いつくことは困難だと判断した。
どぉぉぉん
遠くで何かの衝突音が聞こえてきた。
「何の音?」
「第二の仕掛けが発動しましたね」
第二の仕掛け、転移阻害の結界のさらに外に張られた物理的な移動も防ぐ結界である。これに魔族の男は高速で突っ込んだことで発動した。結界が見えていたなら減速し、停止できたかもしれないが残念なことに結界は透明であり見ることはできない。そのため減速すること叶わず結界に顔面から突っ込む結果に。
「さぁ、あの魔族の方を思う存分追いかけてください」
シェイラさんにそういい結界を可視化する。二層式の薄い虹色のドームが現れた。
「オッケー、行ってくるよ」
結界に突っ込んでも肉体が無事なのは魔族特有の肉体の強靭さ故である。だが流石に真正面から衝突したのは堪えたのか地上に不時着してしまった。
「くそっ、なんだというのだ。一体なにがおこった」
魔族の男の目の前には薄く虹色に光る壁が存在していた。正面がだめなら上だと空を見上げると結界はドーム状であり破壊する以外に方法はないことを理解した。
魔力弾を撃ち込み破壊を試みるがまったくの無傷であることに歯噛みした。
「忌々しい勇者め。こんなことまでできたというのか」
シェイラは勇者だが大規模な結界を張ることができないのは知らない。それどころか勇者が生きて目の前にあらわれたことにより焦っていた。このままでは逃げることすらかなわないと。
「お、いたいた。追いかけっこはお終いかい?」
勇者が追い付いてしまったーーー
シェイラが魔族を追いかけて行った後レルムは採取をしつつ追いかけていく。魔族は森の深部に潜んでいたらしく転移直後は深部の探索は行っていなかったためめぼしいものを集めるためである。
キノコ、薬草、キノコ、薬草、果物、植物の種、すべて無限倉庫の中へ放り込んでいく。人が入り込んでいない場所は資源が豊富である。生態系を崩すのもよくないのでほどほどにとりつつ進む。
ダンジョンらしき穴も見つけたが座標設置だけ施して放置した。
「そういえば生存確認の魔術もかかってましたね。あの魔族が死ねば術者に情報が送信されるタイプの」
魔族の男には生存確認、被術者の死亡が確認されれば術者に情報が伝わる魔法がかけられていたのをレルムは思い出した。もし勇者が生きていることが知られれば勇者の存在がばれるかもしれない。そうなればシェイラの自由に制限がかかるかもしれない。
「いや、元々黄色の髪をした人はゼロといっていいほど街にはいなかったか。今ばれるか後でばれるかの違いでしかありませんが少々お節介を焼きましょう」