婚約破棄された悪役令嬢は異世界からきたおっさんと、もふもふいっぱいのダンジョン経営を始めます!
「ジャマだどけ!」
道行く人がコケた子供に罵声を浴びせる。
「うぇーん!」子供は泣きながら立ち上がり―――泣かないことを覚えていく。それが、この世界だ。
(いつからこうなったのかしら)
イライザは子供に近寄り、その手にそっともふもふを置く。
「あげます」
「いらないっ」子供は困ったように、でも少しだけ名残惜しげに突き返した。
「ヘンなもの飼ったら怒られる!」
(ヘンって言われました……!)
地味にショックを受けるイライザ。
彼女の身には、たくさんのもふもふが纏わりついている。
(こんなに癒してくれますのに……誰もわかっていませんね!)
イライザの婚約者だった王子も。彼女を婚約破棄に追い込んだ男爵令嬢リリアも。
「君は、もふもふ生物を使いリリアを苛めただろう!」
あの日、イライザを断罪した王子は、冷たく、そして、アホで滑稽に見えた。
(こんなに可愛い子たちが、そのようなこと、するはずがありませんのに……物事の本質を見ない方)
そんな男と結婚せずに済むのだから、イライザにとっては、むしろ大歓迎である。
王子と絡まるより、もふもふたちに絡みつかれた方が千倍は楽しい。
ところが。
「もふもふ生物は1匹残らず、殺処分だ」
衝撃の宣告だった。
(許せませんっ)拳を強く握りしめ、唇をかむイライザ。
(この子たちは絶対に守ります!)
こうして彼女は、もふもふ生物を全て連れて家出したのだった―――
「もふもふ、かわいいですね」
偶然出会ったそのおっさんの、飾らない微笑みに、家出以来の緊張が緩むのをイライザは感じた。
気付けば、彼女はおっさんに向かって熱心にこれまでの経緯を物語っていた。
もふもふたちに異様なほど懐かれつつ、おっさんは、ウンウンと絶妙なタイミングで相鎚を打って聞いてくれる。
それだけで、傷付いた心が癒されていく―――
(この方こそ!伝説のもふもふ人間、略して『もふげん』様に違いありません!)
感動に、イライザの目頭が熱くなる。
「きっと、そのままの君を理解してくれる人が現れるよ!」
おっさんの励ましに、思わず言ってしまっていた。
「それは貴方のことね!」
「ええっ!」
「さぁ、わたくしと『もふもふダンジョン』を経営しましょう」
「世界は?まいっか」
こうしてイライザはおっさんと共に、もふもふでいっぱいのダンジョン経営を始めたのだった。
そのおっさんが異世界からきた『共感力』の持ち主だと彼女が知るのは、もう少し後のことになる―――