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恋って…何?[ 番外 ] 文化部男子のお昼時。

作者: み〜さん

何故今なのか?

突然頭の中に降ってきたとしかお答えできません。ごめんなさい。


どうぞよろしくお願いします。

 




「………ウッス。」



「……………ふぉごっ?」




 パソコン部の出入り口。


 コンビニの袋を掲げて入って来たのは、ヒョロっとした体躯に、黒く艶のある癖毛を短く刈り込んだ頭髪。一見眠たそうに見える細い目をした吹奏楽部所属の男子、野下。


 そんな野下をパソコンの画面越しに迎えたのは、肩口まで伸ばした真っ直ぐな髪に、黒縁眼鏡の中で小さな目を見開き、以外とガッチリした肩幅が白いシャツ越しからもわかる、口に肉まんを咥えたパソコン部所属の男子、加山。


 野下はスタスタと入って来ると、加山が座る席の左側の席にドカッと座った。


「あ〜〜っ。腹減ったぁ」


 ガサガサと袋に手を突っ込み、ツナマヨおにぎりを取り出す。


「加山ぁ、いつもメシ食うときココ?」


 おにぎりの包みを剥がしながら聞く野下に、口一杯に頬張った肉まんを慌てて粗食し飲み込む加山。


「うっ……おあっ、そう。だいたい、ココ。」


「パソコンやりながらメシ?」


「まぁ……そう。」


 ふぅ〜んと言うと、ツナマヨおにぎりにかぶりつく野下。


 会話の続かない静かな空間で、ツナマヨおにぎりの海苔を噛む音が妙に響く。


「で、なんかよう?」


 ほうじ茶で口の中に残った肉まんを流し込むと加山が聞いた。


 ツナマヨおにぎりを三口で食べ終えた野下が、再びコンビニの袋に手を突っ込み二つ目のおにぎり、明太子おにぎりを取り出す。


「いやぁ……な。昨日のさぁ………」


 明太子おにぎりの包みを剥がし、何となく話辛い感じの野下。


「ああ、羽黒ねぇ……。」


 加山が大きく息を吐く。


「実は………羽黒ってオレと同じ西中でさぁ。」


「ヘェ、羽黒って西中なんだ。西中ってさぁ可愛い子多いよなぁ。ほら、体操部って西中がほとんどじゃない?」


 食らいつく箇所が違う加山が、机に肘をついて野下に向く。


「まぁ、女子のレベルは高いかもな。」


 逸れた話に同調した野下が二つ目の明太子おにぎりも三口で食べ、三度袋に手を突っ込む。


「じゃ無くて、羽黒とは中学同じだけど全く接触したこと無いんだよ。ほら、羽黒って人を寄せ付けない雰囲気醸し出すだろ?」


 野下は紙パックの野菜ジュースを取り出すと、ストローを刺し口に含む。


「理研なんて初めて聞いたよ……俺。」


「だよなぁ。オレだって言われて初めて知ったさぁ。」


 野下が何度も大きく頷く。


「無茶だよなぁ。」


「………無茶だよねぇ。」


 二人の視線が空を彷徨う。


 西棟三階の端にあるパソコン部。


 部屋は通常の教室の二倍の広さがある。


 昼時の今、太陽は中天にあるため窓が西向きの教室の中は少し暗く感じる。


「だいたいさぁ、なんでこんなことになってんだろう。」


 加山がう〜んと唸り腕を組む。


「そのぉ……美少女転校生?隣のクラスの。俺、見たこと無いんだけど、そんなに美少女なワケ?」


「………オレはチラッと後ろ姿だったら見た。ツヤツヤ、キラキラ、サラサラの長い髪が背中で揺れてた。」


 ズコーッと音を立てて野菜ジュースを吸い上げる野下に、顔をしかめる加山。


「背は低からず、高からず。身体は細身かなぁ。前から見ていないから、ナイスバディなのかわからんし、美少女かどうかもわからん。」


「………よく覚えてるねェ。」


 チラッと見た割には詳細を語る野下に右眉を釣り上げ、小さな目を眇める加山。


「なんかさぁ……スッげぇいい匂いがしたんだよなぁ。あのとき。」


「匂い?」


 そのときのことを思い出しているのだろう、野下がうっとりとした表情をする。


「そう匂い。思わず後を追いそうになった。」


 野下のこの言葉に加山が意味ありげにニヤっと笑う。


「それって、ヤバくねぇ?」


「………やっぱ?」


「ヤバイっしょ。いい匂いがして、フラフラ着いて行きそうだったなんて、まんまゲームでしょう。所謂〈 魅了 〉ってやつだね。傾倒する男が続出してるなら、その美少女転校生?冗談抜きで不味いんじゃね?あの生徒会メンバー全員陥落って、〈 魅了 〉のスキル本物かもよぉ。」


「あのときのあの優しく包むような甘やかな匂い。シャンプーやボディソープとか、香水なんかじゃなくて………なんて言うかぁ、こう……癖になるような………」


 すると野下が突然頭を掻き毟り出した。


「オイオイ、頭禿げるぞ。」


 それを冷静に止める加山。


 うにぁ〜っと呻きながら掻き毟る野下の手がピタッと止まった。


「どうした?」


 動きを止めた野下に加山が顔を覗き込むように聞く。


 野下は髪に両手を突っ込んだ状態でギギギと加山に向けたその顔は、この世の終わりを悟ったような悲壮な顔だった。


「………オレ、杉様にこのこと言ってない。」


 野下の言葉に加山がギョッと目を剥く。


「マジかっっ!?」


「マジ………。」


「それはヤベェだろ。」


「………だよなぁ。オレ、抹殺されるのか?」


 ははははっと乾いた笑いをする野下。


「流石にそれは無いと思うけど。まぁ、でも早いとこ耳に入れた方がいいだろうなぁ。ほら、女子ってそう言うことうるさいから。何でも早め。そして怒らせないために余計なことは言わない。でも、空気読めないのはNG。」


「………加山くん、よくおわかりで?」


「伊達に育成で妹育ててないから。」


 細い目を最大に見開き固まる野下と、真面目な表情を崩さない加山の間に、暫し重い沈黙が漂う。


「………直ぐ報告いたします。」


 大きく息を吐き出しながら言う野下。


「山田が絡むモンは要注意だ。」


 腕を組み頷く加山。


「………杉野っておっかねぇよなぁ。」


 野下は袋の中からバナナを取り出し皮を剥きながらボソッと言う。


「杉野って結構初期からあんなんだよな。」


 オイオイ、バナナ出たよぉ〜と苦笑する加山。


「気付いた時には今の地位が確立されてたからさぁ。あの……なんだかわからん圧が凄いんだよねェ。黒井や佐藤みたいに背が高いわけでもなく、早川や栗田や相田みたいにガタイがいいわけでもないのに。」


 そう言いながらバナナも三口でたいらげた野下は、袋の中から二個目の野菜ジュースを取り出す。


 えっ?野菜ジュースまだあったの?!と流石に驚きの表情を見せる加山。


「杉様テニス部だっけ?」


 二個目の野菜ジュースを飲みながら野下が唸る。


「テニスって、可憐なイメージなんだけど、杉様だとガッツりスポ根って感じだよなぁ。」


 野下の言葉にコクコクと頷く加山。


「確かに。で、杉様ってどこの中学?」


「電車、東野とうのから乗って来るから、多分、平山だと思うけど。」


 ストローを咥え天井に顔を向け思考する野下が応える。


「平山かぁ………強者揃いだなぁ。」


 加山が肘を机に着いて掌に顎を乗せながら頭の中で平山出身者の顔を思い浮かべて言う。


「強者?」


 野下がキョトンと聞き返す。


「杉野、黒井、青木、剣道部後藤、陸上部井上、放送部遠山、サッカー部の木田、谷、蒔田。強者だろ?」


「魔王、武士、花魁、騎士、ヒーロー、イケボ、公立の星かぁ。」


 なるほどぉと何度も頷く野下に加山が困惑した表情で聞く。


「……魔王はまぁ、まさにだし?バスケなのに武士もわかる。青木の花魁は是非お願いしたい!拝みたい!!黒井は超怖いけど!怖いもの見たさで見てみたい!で、公立の星の木田、谷、蒔田は雑誌に載るぐらい注目されてる。後藤の騎士もあのスマートさでなんとなくわかる。だが井上のヒーローは?遠山のイケボは?何 ?」


 加山の言葉が意外だったのか、野下が細い目を剥く。


「えっ?知らない?井上は前に車に轢かれそうになった小学生をあの駿足で助けたとかで、今、近くの小学生女子の間ですっごい人気なんだって。それから遠山は声優バリに声がいいってことらしいんだけど………青木の花魁は見てみたいよなぁ。それも井澤とセットで!」


「ヘェ〜、アレ井上のことだったんだ。井上って短距離で結構この辺では有名だけど、まさかの小学生人気ですか………で、遠山?確かに声はいいかもだけど、そんなに女子から人気あるの?遠山ってさぁ、背だって俺よりも低いし、顔面偏差値も中の下がいいとこじゃないの?………そうそう!青木と井澤の花魁姿はマジやばいと思う。黒井には言えないがなっ!」


 百七十五センチ以上ある野下相手ではだいたいの男は小さい部類に入るのでは?と思う加山。


「遠山の場合、天は二物を与えずだよなぁ。姿を見ちゃいけないって言う暗黙のルールがあるから、声だけが特別らしいんだけど。なんでも耳元で囁かれると腰が砕けるって言う噂だ。本当かどうか知らないけど。………学園祭で何とか実現しないかなぁ……二人の花魁姿。着物の合わせから覗くたわわなメロンーーー」


 二人の頭の中では花魁姿の青木と井澤がエロっぽく誘う妄想が展開されていて、井上や遠山の話題など早くも霞と化している。




 妄想が暴走して再び訪れる沈黙。




 昼休みにわざわざここまでいったい何しに来たのか、ただ愚痴りたかっただけなのか、妄想したかっただけなのか、今となってはよくわからないことになっている野下。


 同じクラスだと言っても、其れ程関わりがあるわけでもない野下と加山。


 ただ、昨日黒井と留美によって西館三階の文化部でグループ分けされただけ。



 ーーーただ、それだけ。







「アレ?野下くん、加山くん。何?作戦会議?」



 教室の入り口を見れば、それほど高くない身長と短く揃えた茶色い髪。細い身体を相変わらずクネクネさせて入って来た理研の幽霊部員、宮野。


 野下と加山は同時に思った。


( 宮野!何故お前までここにっ⁈ )


「黒井君も杉野さんも無理矢理で困っちゃうよ。僕、人数合わせで理研に居るだけだから、羽黒君とはまったく会うことないんだよねぇ。」


 加山の右隣の席に座ると、首を傾けニッコリと笑う宮野。


「簡単に友達になってこいって言うけど、ここだけの話、羽黒君のあの独特の雰囲気と上から目線ってホント苦手でさぁ。ダメなんだよなぁ。野下君も加山君もそうじゃない?」


 じゃない?と向けられた野下と加山が顔を見合わせる。


「まぁ……な。話したことも無いし。」


 野下が最初に答えた。


 加山も続いて答える。


「俺も。理研がまさか一つ向こう隣だなんて全く知らなかったしーーー」


「うあっ!」


 突然野下が声を上げ、両手も上げる。


「オレんとこ、音ガンガン出してるけどパソコン部や理研大丈夫なのかっ?!」


「えっ?今?」


 加山が残念そうに言う。


「今気がついた。」


 真面目に頷く野下に息を吐き出し加山が言った。


「入部して直ぐは気になったけど、三ヶ月もすれば慣れる。理研もそうじゃないの?なぁ、宮野。」


「だから僕は理研でも幽霊部員だからわかんないって。」


 苦笑いで加山に応える宮野。


「オレさぁ、実はパソコン部が同じ階ってことも今回初めて知ったんだよなぁ。」


 ポリポリと頬を掻きヘヘッと漏らす野下。


「だろうなぁ。」


 加山がニヤッと笑う。


「まぁ、とにかく羽黒とは何とか接触をしないとなぁ。杉様怖いから。」


 加山が溜息まじりに言う。


「だよなぁ。杉様も黒井も怖いよなぁ。う〜〜ん、どうすっかなぁ〜っ。」


 野下が腕を上げ伸び上がる。


「ねぇ、なんで杉野さんのこと杉様って言ってるの?」


「だって、怖いだろ?」


「怖いでしょ?」


 宮野がキョトンと聞くと、野下と加山が真面目に同じことを言う。


「そりゃぁ………女の子にしては元気過ぎるかもだけど。」


 宮野の言葉に野下と加山が目を剥いた。


「いいのか?元気過ぎるって言う生易しい言葉で片ずけていいのか?!」


「イヤ!宮野は杉野の本当の恐ろしさを知らないんだっ!そうだ!そうに違いない!」


 野下と加山が困惑するなか、至って普通に宮野が言う。


「僕、入学式の日に電車で痴漢捕まえて説教かます杉野さん見てるんだ。後、風紀委員の教室に怒鳴り込んで行ったときも知ってるよ。職員室襲撃は残念ながら見てないけどね。」


 杉野 瑠美が、いかにしてこうなったのかの先駆けとなる武勇伝を目の当たりにしたにもかかわらず、こともなげに言う宮野。


「大きくて筋肉バッキバキで鬼のような姿じゃないでしょ?杉野さんて普通の女子高生だよ?」


 毒気を抜かれて野下と加山が机に突っ伏す。


 と、そのとき、三人のスマホのバイブ音が同時に唸り出した。


 慌てて取り出し三人がそれぞれ画面を確認すると、慌ただしく席を立ち入り口へと向かう。


「初めてじゃない?緊急招集。」


 ニッコリ笑う宮野。


「まさか本当に招集がかかるとは………。」


 二本目の野菜ジュースをズコーッと啜り上げる野下。


「野下、美少女転校生見てもフラフラ着いて行くなよ。」


 ニヤケ顔で黒縁眼鏡をクイっと指で上げる加山。


「えっ?何?もしかして、今話題の美少女転校生に野下君惚れちゃったの?」


「ウンなわけあるかぁーーーっ!間違いなく杉様に暗殺されるわっ!」


「いやぁ、近いと案外コロッと………」



 加山がパソコン部の教室の扉を閉め、施錠する。


 バタバタと廊下を走る音と、男子三人の軽妙に掛け合う会話が小さくなっていく。




 西館校舎三階に訪れた静寂。





 三人が悪戦苦闘し羽黒に接近遭遇するのは、まだ少し日を要することとなるのだが………



 このことが切っ掛けで野下、加山、宮野の関係がこん後も続くことになるだろうとは、まだ神のみぞ知る、である。

今後もこんな感じで小出ししていけたらなぁと思っております。

ただ、本編完結から一年以上経っての番外編って、どうなのか……。


読んでいただいてありがとうございます。

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