溺愛なんて、ごめんだわ。
回避の続き書かずにこんなの書いてました。
良い夫婦の日のニュース見て、投下しちゃえ!
な、勢いです。
私、男爵令嬢のルマリア・リッツと申しますの。
気取って話してますけど、私、前世の記憶持ちですの。
皆には秘密だけど。
だって、頭おかしいとか思われたら生きていけないでしょ!
高度成長時代が終わる頃から、女性の時代だとか言われ会社で初めて育休、時短勤務をして、その後望みもしない女性管理職になり、やっと一人娘が大学を卒業した!これからは、自分の事にお金を使える!
と、思った矢先に、過労死ですよ。
はっ?年齢?享年?
そんなの、忘れましたわ。女性に年齢なんて聞くものではなくってよ!
そこ!認知症じゃありませんわよ!
言いたく無いんですの!わかる?
で。死因は脳内出血らしくてですね。
職場で倒れて、気がついたら病院で。身体、動かないじゃないですか。
幽体離脱って言うの、本当にあるんですね!!
旦那と娘が医者から残念ながら回復の見込みは…なんて説明受けてるの、フヨフヨ浮かんで見てましたよ。
医療器具の管という管につながれた自分の身体も見てしまった。あれはね。流石に見たくはなかったかも。
それで、次に気がついたら幼児なんですよ。もう、ビックリ!
1歳ぐらいで。立ち上がりの練習するじゃないですか。ゴチンって転んで頭打って思い出したんです。
もう、驚いて泣きましたよ。
両親は、頭を打って泣いているのだと心配して、医者を呼んで。
幼児だから、発語もできないし。
でも、何かと会話わかってよかったですよ。
それからは、とても、大人しく過ごしましたよ。とてもおとなしい子だと思われていました。
あまり女性の社会進出が進んでいない世界でした。何故か科学で電車があるのに、魔法があって。ちぐはぐにミックスされた世界。魔力持ちは上位貴族ばかりの筈なのに、男爵家でしかない私にも何故か魔力がほどほどあった。大人しく田舎で過ごしたかった私なのに、王立魔法科学学院入学は、義務となった。
いや、もう、無理。
バリキャリとか、この世界無いけど、先駆者として駆り出されるなんて、迷惑でしかないし。今生では、ご遠慮願いたいわ。
この世界、何なの?男性は、前世で見た女性は口説くのが礼儀!キリッ!みたいな某外国人なの?
やったら、男性は甘い言葉を囁くし、かなり顔面偏差値高いし。
ちょっとはクラッとするけどね。
でも、何たって中身、元、BBAなのよ。わかる?若者達。
ついていくの、精神的にしんどいの。
幾つになっても、結婚しないで、男は顔が良くなくちゃって言ってた独身の友人いたけど。いや、あのさ。50目前で顔の良い男って、既婚者か性格に難有りばかりじゃないの?ちょっとは、現実見なさいよ!彼女だったら、喜んで飛び込んで行ったんだろうな。
そんな超リアルBBAな私が、今、いくら肉体年齢若くても、そんな昔のアイドル並にキラキラしい男性と、恋とか、無理っ!
もう、無理ですっ!
いや、ねえ。私が輪廻転生?してるんなら、旦那もいないのかしらって思ってたけど。
それらしい人、いないのよねぇ。
いや。そんなに旦那が好きでたまらなかったわけじゃないのよ。でもねぇ。何かちょっと探すじゃない?
でも、いないっぽくて。
私は男爵令嬢とかいう貴族の端くれで。家格が釣り合う方と恋愛結婚か政略結婚しないと、バリキャリの道しかないじゃない?
学院、本当、辞めたいわー。と、言っても、10月だから、折り返した。あと半年もすれば卒業だけど。
前世の娘に勉強しなさいとか言ってたけど、私、勉強嫌いだし。
なるだけ、大人しくしてようと思ったのに、この間、美しい1組の伯爵令嬢様に珍しく声かけられて、焦ったわよ。宰相様の婚約者になった方でしょう?最近、友人達の噂の注目の的だわ。そんな美しいご令嬢と私に、共通の話題なんてどこにあるのよ。
悪役令嬢とか何とか話されて。悪役って、学院で何かお芝居でもされるんですか?ってお尋ねしたら、何故かジーッと眺められて、その後、当たり障りの無い会話したけど。
あれ、何だったのかしら。何も失礼な事、してないわよね。
友人の男爵令嬢達がよく言うの。
同級生の侯爵家のクロード様が、公爵家のリリスティール様を溺愛しているらしいのが、羨ましいですって。有名人で、見た事あるけど、愛想もへったくれも無くて、怖いじゃないですか、あの人。
えっ?それなのに、彼女にだけ優しいのがいい?
いやいやいや。
私は無理。
束縛とかあり得ないでしょっ。
一々、把握されてるとか鬱陶しいわ!
溺愛とか、NO THANK YOU!!!
亭主元気で留守がいい!これにつきますよ。
私は、私の人生を歩むの。
でも、私は1人っ子だから、婿は取らないといけない。うちの領地の執事の息子が出来が良くて。幼馴染である彼は王都の騎士団に入ってる。
何件か、他所から婚約の申し込みはあったけれど。こちらはしがない男爵家。
お相手は、家を継げない男爵家の3男やら、子爵家の5男。
もう、乗っ取りとしか思えない。良く知ってて、性格いいとかならわかるんだけど。知らない人だし。子爵家から男爵家当主とか、私が一生見下されて生活するリスクの方が高いじゃない。
で。私は幼馴染の彼にターゲットを決めました。
私、顔はきっと、いいんですよ。自分で言うのも何ですが。
もう、これは、安全牌で彼を捕まえておくしかないでしょ??
玉の輿みたいな高望みなんてしないんです。バリキャリなんて言語道断。
ポッと出の男爵令嬢で、上位貴族の嫁なんかになろうものなら、お姑様やら、小姑様はじめ、その他大勢にどんな嫌がらせされるかわかったものじゃない!!!
怖いじゃないですか。社交とか、魑魅魍魎の跋扈する世界にしか見えないわ。
頑張って、同級生の令嬢様方。
私、同級生の第3王子様なんて、カケラも興味ありませんわ。玉の輿なんて苦労するに決まってるじゃないの。
だいたい、顔はいいけど、そこまで入れ込む程の男かしら?あの王子。
それでも、玉の輿狙って頑張れる皆の若さが素敵だわー。応援してるー。
自分の力量を弁える事は大切です。
しかも、私のもつ魔法、複合魔法で緑特化ですよ。
作物成長し放題!!
が。農家経験なんてゼロなので。そこ、知っとけばもっといい領地経営できたのになーって思ってます。
まぁ、歳とっても。経験値積んでも、基本、性格って変わらないのよね。
我慢強さとか、自分の力量を測ることが出来るようになるくらいで。
まあ、上手く手を抜けるというか。
そういう訳で、今日も、彼、騎士のロランドとデートですっ!
この国の男性と比べたら無口なんですよね、彼。でも、優しくて。
騎士団でも、階級が上がれば男爵や子爵に匹敵する程の名誉となるので、彼は頑張ってくれています。
それを全然、私に言わずに頑張ってくれているところも高ポイントです!
普通の男爵令嬢なんてね、王都に従者を引き連れて来る程、お金持ちじゃないんですよ。専属の使用人なんて、数人ですよ。
商売人からの成り上がりで、最近、男爵の爵位を賜ったような、領地無しの方はとっても裕福みたいだけど。
なので、私、デートの待ち合わせは、寮の近くの食堂です。
庶民的なカフェとか、無いのよねー。残念ながら。
食堂も、午後には時間潰しのお客様が来るから、待ち合わせには最適。
それは、もちろん、お貴族様用の菓子店は超素敵なカフェを併設されてますよ。でも、そんな所、ロランドは入れないし、私も緊張してお洒落なティータイムするより、馴染みのおかみさんがいる食堂に、町娘の格好で行く方が性に合ってるの。
領地に帰ったら、学院で着るようなドレスなんて来客時しか着ないし。ワンピース最高だわ。
ザワザワとした食堂でしばらく待っていると、ロランドが入ってくる。
「すまない。待たせた。」
「いいえ。そんなに待ってないわ。」
ロランドのややオレンジがかった金髪。ダークブラウンの瞳。がっしりした体躯。
アイドル顔じゃないけど、目鼻立ちが整っていて、きっと、この人モテそう、なんて思う。
そう思うと、心配になる。
私は学院に通っているし、ロランドは騎士団で働いているから、会えるのは、月に1〜2回。
わしゃわしゃと、頭を撫でられる。
「髪がぐちゃぐちゃになっちゃうわ。」
ニッと笑い、
「寂しかったか?」
なんて聞く。
意地を張りたいけれど、それではダメになるし。
「うーん。1ヶ月ぶりに会うし。貴方、他の女性にもモテそうだなって思ったのよ。」
ここは素直に話しておこう。
「それは、俺が心配する事だろ。貴族の子息に口説かれてばっかりじゃないのか?」
目を丸くして話す彼。
珍しく、よく話すわね。
「そんな事ないわよ。私が1人娘って知って。あえて口説きにくるような人、領地狙いよ。大体、元がこの性格なのに、甘々ベッタリなんて無理よ。気持ち悪いだけだわ。」
そう言う私に、
「まったく。黙っておけば、絶対、玉の輿乗れると思うぜ、俺は。」
なんて無責任に言い放つ。
「その言い方は酷いわ。そう、なって欲しいの?」
「そんな訳ないだろ。怒るなよ。これでも、褒めてるんだ。」
全くもう!流石にイラッとするわよ。
黙り込んだ私に、ロランドが急にシュンとして「すまん。」と言う。
はぁ。と、ため息をついてしまう私。
私達は、いつもこうなのだ。仲の良い、軽口を言い合える間柄。つい、口を滑らせて喧嘩してしまう。
「そのお茶飲んだら、遠駆けに行こう。」
「そうね。」
これも、いつもの仲直りのパターン。
何も考えずに、馬に乗せられて、黙って野をゆっくりと駆ける。
騎士団にわざわざ戻って、彼の馬を借りて来ないといけないから、王都では面倒なのだけれど。
それでも。この、黙ったまま、馬に揺られて王都の周囲を見回すのは好きだ。
領地では、自分の馬には乗れたけど。今、乗せて貰っているのは軍馬なので、馬の体格がとても大きい。
私では、とても乗りこなせない。彼の腕の中で、同じ景色を見る。
お互い、全く会話が無い。
モヤモヤしたものが、どうでもよくなっていく。
単純なのだろうか。
「ルマリア。好きだ。」
ロランドの不意打ちのような告白に、真っ赤になるのが自分でわかる。
いや。もう、それ、直球ストレート過ぎて、上手くかわせないし。
よかった。前に乗せられているから、顔を見られなくて済むと思ったら、急に頰にキスをされた。
のっ。覗き込んだ?みっ。見られたー!!!
あああ。真っ赤になってたのに。
恥ずかしいんだってばっ!
ロランドの機嫌が、良いのが伝わって来る。
「卒業したら、1年だけ待ってくれるか?」
「1年?」
「そう。1年」
馬を止めてギュッと抱きしめられる。
「俺はあと半年で騎士分隊隊長となる。その後1年で、男爵と同じ名誉職の、大隊長まで登るから。」
「難しいと思うけど。」
簡単に言っているけど、それはかなりのストレート出世だ。
「俺がやるって言ってるんだから、そこは信じてくれないと。」
「信じてない訳じゃないわ。ちょっと。無理をするのではないかと、心配したの。」
「ああ。わかってる。」
剣を握る、荒れた節くれだった指に目がいく。努力を、している手だ。
私は学院に入って、座学ばかりで。魔術は攻撃しない性質だし、本当に、令嬢らしい柔らかな手になってしまった。
領地にいた時のように、農家を回り手伝う事も無く、土に触れる事も無い。
ロランドの荒れて、ひび割れそうな手に手を重ねる。
ハンドクリームとか塗ってあげたい。
「参ったな。お嬢様の手じゃないか。」
ガサガサした手が重ねられる。
「働いてないもの。それを言われると辛いわ。」
「違うよ。俺は戦う事が専門で。父親と違って、勉強出来なかったからな。」
「出来なかったんじゃなくて、貴方の場合は、しなかったんでしょ?」
知ってるわよ。何でも卒なくこなすの。
「ルマリアの方が、頭は良かったからなぁ。同じ事を2人でやる必要はないだろ?」
「そんな事は無いと思うけど。」
だって、子供の時、よく出来てるように見えたのは、私の前世の記憶のせいだし。特段、出来が良い訳じゃ無いのよね。
「1年半後に、領地に帰って来るから。1年だけ、待ってろ。」
反則だわ。そんな事言われたら、嬉しくて泣きそうになるじゃない。
「無理したらだめよ?」
「…ここで頑張らないと、君は誰か他の男と結婚するだろう?」
ああ。そうだ。至極真っ当な答え。
学院卒業して1年後は19歳。
20歳の適齢期までに結婚する事を考えると、その頃には婚約者を決め、式の準備を始めなくてはいけない。
「俺と、結婚してくれ。」
だめだ。もう、この直球ストレートには、かないっこない。
でも。何て答えたらいいのか。
「…1年、待つわ。」
素直になれない私。本当は、嬉しいのに。
「ああ。それで充分だ。」
執事の息子というだけだった彼が、私の爵位に追いつく為にしてくれる努力。
戦時でもない中、名誉を上げる為には大変な努力が必要なのだ。
わかっている。
その、彼の努力に見合うだけの人間になれるだろうか。
「あんまり無理すんなよ。」
ぶっきらぼうにかけられる言葉。
彼が愛を告げる言葉は少ないのに、何故こんなにタイミング良く、私の心を打つのだろう。
「ずるいわ。」
「わかってる。ルマリアが優しいのにつけ込んでるのは、俺だから。」
そうじゃなくて。
そうじゃなくって。
どうして、この人はこんなにスッと入り込んで来るんだろう。
「違うわ。行き遅れになったら、絶対に許さないんだから。」
今、きっと、人には見せられない顔だ。
泣き笑いみたいになってる。
涙が溢れそうになるのを、必死で堪える。
「ああ。わかってる。」
きっと、意地っ張りなのも、涙を堪えてるのも、この1つ年上の幼馴染みには、お見通しなのだろう。
「必ず間に合わせる。」
背後から、耳元で囁かれた声は、力強くて。
とうとう、涙が溢れてしまった。
ぽたり。
こうなると、もう、止まらない。
ロランドは何も言わずに私を抱きしめる。
涙が、彼の服の袖に落ちたのを見て、ハッとする。
何てこと。
でも、手を緩めてくれない。
「ロランド。」
「ダメだ。」
「どうして。ちょっと、手を緩めて。」
「このままでいい。」
涙を拭ってもくれないのに。自分で涙を拭う事も許さないなんて。
本当にずるいわ。
「バカ。」
「ああ。そうだな。だが。」
一瞬、間を置いてロランドが話す。
「ここで泣いておけ。溜め込むな。お前は、昔から頑張りすぎだ。」
それからしばらく、ほろほろ流れ落ちる涙でロランドの服を濡らすのを見ながら、頑張って涙を止めた。
ねぇ。あんまりグズグズ泣くと、鼻水まで出るのよ。知ってる?
それだけは避けたかったわ。
ごめんなさいね、急に現実的で。
人間、そんなもんよ。
美しいばかりではいられない。
涙だけで止めた私を褒めてくれていいわよ。
そして、2月。
私とロランドは相変わらず、月1〜2回のデートを続けた。
変わらない食堂での待ち合わせ。
変わった事と言えば、喧嘩をしなくても、会う度に郊外に馬を走らせるようになったという事だけだ。
この遠駆けのデートも、今日が、最後。
あっという間に3月になった。嫌だった学院生活が、終わる。
華やかなパーティ。
同級生の中には、学院在籍中に、良い相手を見つけた者も多いようだ。
噂の侯爵家クロード様が、公爵令嬢リリスティール様を連れて現れ、会場は騒然となった。
なんたる美貌。
私も、自分は少しは可愛いと思っているけど、あの絶世の美女には敵わない。
やはり、どこの世にも、上はいるのだと思う。
凡人には手の届かない高み。
クロード様とリリスティール様と話しているのは、いつぞや声をかけられた伯爵令嬢のレイローズ様。こちらも、とても穏やかで優しい雰囲気を持った美女だ。しかも、スタイル良い。
きっと、彼女達も、優雅に見えて沢山の苦労をして、沢山のものを背負っているのだろう。
でも、それを微塵も感じさせない華がある。
初めから、諦めてしまった私と違う世界の人々。
レイローズ様は、夏の初めにこの国の宰相様に見初められたとの噂だ。急に求められて、婚約となったらしい。非常に控えめで、あまり目立たない方だったのに、婚約者になられて、驚くほど美しさに磨きがかかったと皆が褒める。求婚しておけば良かったと、残念がる男性同級生の多かった事。
宰相様の妻なんて、これから華やかな世界の中で苦労をされる事を考えると、本当に尊敬に値する。
今日、本当は、私にエスコートを申し出てくれた男性もいた。でも、結局、全員断った。
別に、ロランドに遠慮したとかではなく。
私が、
ロランドじゃないと嫌だと理解したから。
今更感が半端ない。
正式な婚約者でもないロランドは、今日のパーティには参加出来ない。
明日には、領地に戻る私。
でも、彼は仕事で今日も明日も会う事は出来ない。
仲の良かった友人達と雑談し、パーティがほどほどに進んだ所で、そっと抜けて寮に戻る。
荷物が整理され、とても寂しい部屋になっている。
ああ。本当に、この部屋とも、学び舎ともお別れなのだと思うと、早く帰りたかった筈なのに、込み上げてくるものがある。
気の利いた男性なら、卒業のお祝いとか、あるのかも知れないが。
ロランドはない。
きっと、私がそんな事気にしないと思ってるんだろう。
普段着に着替え、ドレスを収納箱に片付ける。
一抹の淋しさを感じながら、明日、朝の早い出立に備えて休んだ。
翌日。何事もなく、領地への帰路に着く。
お姫様ではない私。
ロマンティックな事など、何もない。
現実なんて、そんなものだ。
領地に着くと、馴染みの領民と、両親、使用人達が、優しく出迎えてくれて、ホッとした。
果たして、こんなヒロイン、需要はあるのか?
クロードへの敬称が抜けてたので、そこだけ修正してます。