薬草園の老師
雪を解いて草を読む
濡れた緑の細い茎
先の分かれた小さい葉
熟し損ねたこぼれ種
シワの寄った指先で
教え子たちのいない庭
左に抱えた籠の中
摘み草の山を確かめる
不肖の弟子の涙ながらの頼みごと
見た目は薬の よく効く毒草
じわりじわりと少しずつ
せめて苦しまないように
戦で散った父の仇と
思い定めた敵軍の
将の命を取らんとて
発った女子の道の果て
手引きを任せた敵の敵
仮の味方の人質に
唯一残った肉親の
無事と換えるは毒の草
かの将を想っているのであろう
問わずとも知れた涙の色
師に頼まずに己で摘めと促すも
不肖の弟子は 見分けがつかぬと
別の苦悩の種を師に植える
薬草毒草入り乱れ
魔物の畑と人の呼ぶ
王宮直轄 薬草園
人払いにも骨を折る
弟子の目当ての草よけて
摘んだ薬を束ねて留める
手渡す最中の脳内は
握られた弱みの解消の算段
泣くのはおよし
行き止まりのその先を
必ず灯してみせようから
暗闇の中 迷うとも
その足は前へ進めるようにと