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自分なりの評価と不安

 真夏の日差しが一番に輝いている頃。

 俺たちは水着に着替えて、紅葉さんの店で働いていた。

 勿論、水着の上には海の家特製Tシャツも着ている。

 店に来る客はクラゲが居なくなったお陰で霧が発生しなくなり前より増えた。


「はい、二番テーブルの焼きそば! 出来上がったよ!」

「分かりました! すぐに持っていきます!」


 キッチンの方で料理担当の紅葉さんがそう叫ぶ。

 その声に気付いた美鈴がキッチンの方へと近づいていき、出来上がった料理を持ち客席の方へと持っていく。


「お待たせ致しました。陽だまり特製焼きそばです」


 お客様の所にたどり着いた美鈴はそう言いながら持っていた料理をテーブルに置いた後……。


「それではごゆっくり」


 そう言って軽くお辞儀をした後、お客様の元を去っていく。

 テキパキと言われた事をこなしていく美鈴だが特訓の時は俺や勇正の事を進んで纏めていく。

 若干厳しい所もあるがそれだけ彼女もこの合宿で強くなりたいと思っているのだ。

 その証拠に彼女自身の特訓も抜かない。

 俺たちと特訓していく内に彼女はある戦い方を身に付けようと必死だった。

 それはヒット&アウェイ——つまり機動力を活かした戦い方だ。

 彼女が持っているモンスターはエメラを含め身軽で機動力に優れている奴が多い。

 その反面、攻撃は全体的に低く耐久力も無い。

 彼女はそれをどうカバーするか考えた。

 その結果、生み出したのがヒット&アウェイの戦い方だ。

 確かに一撃の攻撃は弱いが何回も攻撃を当てる事で相手を弱らせる事は可能だ。

 また、機動力があるので相手が攻撃を当てるのも至難の業。

 一発当てれば致命傷になるがそれは攻撃が当たればの話だ。

 じわじわと自分の攻撃を与えながら相手の攻撃を避けていく。

 これが合宿で身につけようとしている彼女の戦い方だ。


「ゆうせいちゃん! あらいもの、おねがい!」

「あっ、うん。分かったよ」


 キッチンに居る美紅がそう叫ぶと呼ばれた勇正がそう答えながらホールから駆け足で向かっていく。

 そして、彼はキッチンに入ってすぐに洗い場へと行くと危なっかしい手つきで溜まっている洗い物を少しずつ洗っていく。

 初日に俺と美鈴に本音をぶちまけた彼だったが本音を言う前より心の余裕が出来たのか俺たちに積極的に自分の意見を言うようになった。

 そのお陰で前より彼と俺たちの距離が近づいたように感じる。

 この合宿で一番、成長しているのは恐らく彼だ。

 その証拠に合宿に来て一番、モンスターとのシンクロ率が上がっている。

 まだ必殺技は出来ないままだが彼の戦術がそれをカバーしている。

 彼の持っているモンスターはアルジャを含め武器を使う奴が多い。

 その武器を活かした戦い方を身に付けようとしているがまだまだおぼつかない。

 それを補うのが相手の妨害する動きだ。

 彼のモンスターは人の動きなどを妨害する奴も多い。

 相手の動きを妨害しながら自分の有利な戦況に進めるのが彼の基本戦術になっている。

 ただ彼曰く段々とワンパターンになりつつあるのでもう少し戦い方に手を加えたいらしい。


「皆、着実に強くなってきてるよな」


 キッチン近くで美鈴と勇正の様子を見ていた俺はそう呟いた。

 勿論、そう呟いている俺自身もここ数日で強くなった気がする。

 俺も二人にちなんでこの合宿である戦い方を見に付けようとしていた。

 その戦い方は融合の多様化だ。

 この戦い方は二人もやっている事だ。

 けれど、俺は更に融合を多様化しグレンたちの欠点をカバーしつつ長所を活かすのだ。

 例えば恐竜は攻撃に優れているが機動力はあまり無い。

 また攻撃時のモーションが遅く時間が掛かる。

 だからこそ機動力に優れているネズミになり、相手をかく乱する。

 そして相手が俺を見失った時、恐竜に変わり攻撃する。

 この戦い方なら機動力も遅い攻撃モーションもカバーできて攻撃が出来る。

 合宿前もそう言う戦い方もしていたがあまりうまくいかなかった。

 それでもこの戦い方が俺にとってモンスターの特徴を活かす戦い方だと思い貫き通してきた。

 まだまだ荒削りの所もあるが着実に戦い方をものにしているのは自分でも分かる。

 でも、このままでいいのか?

 確かに皆それぞれの戦い方を身に着けてきている。

 だが、これであいつら——侵略者(サイバー)に勝てるのか?

 グレンたちの仲間を集めていけばいつかまた会う時が来るだろう。

 その時に俺たちは勝てるのか?

 もし勝てなかったら俺たちは……。


「何ボーっとしてるんだよ! あんたは!」

「ッ!」


 紅葉さんの怒鳴り声が聞こえたと同時に俺の頭に衝撃が走る。

 衝撃を受けた俺は両手で頭を抑えながら彼女の方を向くと右手に木の盆が持たれていた。

 どうやらそれで俺の頭を殴ったらしい。


「いってぇな! 何すんだよ!」

「サボっているあんたが悪いんだろ! 少しでもうちの店に貢献しな!」


 俺は頭を抑えながら紅葉さんが自分を殴った事に対して怒鳴る。

 すると、彼女も彼女で俺がサボっているように見えたのかそう反論してくる。


「サボっている訳じゃないだろ! ただ周りの様子を見ながら仕事を探していたんだよ!」

「だったら、そんな所で立ってないでさっさとテーブルの片づけをしな!」

「何だと!」

「あん? やんのか!」


 俺は頭を押さえるのを辞め、キッチンとホールの間にあるテーブルに手を付けながら紅葉さんにそう反論する。

 一方、彼女も俺の反論に気に食わなかったのか更に喧嘩腰になる。

 そうしてキッチンとホール越しに俺たちの口喧嘩が始まった。

 この光景はいつもの事なので身内もお客様もあまり驚かない。

 そして、この後の展開も決まっている。

 数分の口喧嘩中に彼女がキレて、格闘技を俺にかけてくるのがお決まりだ。

 俺も俺で何とか抵抗しようとするが毎回、違う格闘技をかけてくるので中々対応できない。

 だが、しかし……。


「まぁいいや。今回は許す」


 なんとすんなりと引いたのだ。

 一体どうしたんだ?

 何か悪いものでも食べたのか?


「それより陽太……」

「ん、何だよ?」

「……あんた、また何か悩んでいるね」

「ッ……!」


 急に冷静になった紅葉さんは俺にそう告げた。

 そう告げられた俺は戸惑いを隠せなかった。


「どうやら図星だったみたいだね」


 冷静な顔から一転何処か勝ち誇った顔でそう言ってくる紅葉さん。

 その顔を見た俺は戸惑いの顔からちょっとだけ不機嫌の顔に変わる。


「……何で分かるんだよ?」

「分かるさ。一応、私はあんたのお姉さん的存在だからね」


 少しだけ不機嫌になった俺がそう尋ねると紅葉さんは自信満々にそう答えた。

 何がお姉さん的存在だ。

 もうすっかりおばさんのくせに……。


「陽太、何か言った?」


 俺が思っている事に気付いたのか紅葉さんは笑顔を作りながらそう言った。

 その笑顔を見た俺は一瞬で恐怖を感じた。

 こえぇよ……。

 何でこの人はいつも俺の考えが分かるんだよ。


「……まぁ、何を悩んでいるか分からないけどまた悩み過ぎて自分の歩みを止めるのは辞めなよ?」

「……」


 作り笑顔から一変、紅葉さんは真剣表情で俺にそう言ってくる。

 そう言われた俺は黙りこみながら下を向く。

 そんなの言われなくても分かっている……。

 もう昔みたいにいかない。

 それに今回は止められない。

 絶対に強くならないといけないしな……。


「少しは美鈴ちゃんを見習えたらどうだ? あの子みたいに何事も一生懸命で前を見て歩いてみろ」


 紅葉さんはそう言いながらある方向を指差す。

 俺はすぐに彼女が指した方を見ると美鈴がお客様の居たテーブルの片づけをしていた。

 美鈴みたいにか……。

 確かに彼女みたいに自分を信じて真っ直ぐ進めたらいいなと思う。

 けど、なぜあそこまで真っ直ぐ進めるのだろうか?


「っと、お客が来たようだね。陽太、出迎えて」

「はいはい。分かったよ」


 お客様が来た事に気付いた紅葉さんは俺に出迎えを任せる。

 俺も俺で美鈴を見るのを辞め、彼女の言う事を聞いて海の家へと入り口に向かう。

 すると……。


「いらしゃいませ……ってあれ?」


 そこに居たのは合宿初日に出会った少女だった。


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