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懐かしき夢

 あれ……?

 ここは……?

 確か私は陽太君たちと合宿に来て、それで紅葉さんが経営してる旅館に泊まっていたはず……。

 なのにどうして昔、通っていた幼稚園の中庭に居るんだろう……。

 しかも、学校の夏服で……。


「はい、それでは今日はお絵かきをします! みんな、準備はいいかな?」

『はーい!』


 私がそう考えながら立ち尽くしているとある教室の一角からとても懐かしい声が聞こえてきた。

 その声が気になり、私は声が聞こえてきた教室へと歩みを進めていく。

 そして、ガラス越しに教室を覗くと……。


「じゃあ、今日は自分がなりたいものを描いてみましょう! いいですか?」

「はーい!」


 昔、お世話になった染谷先生が園児たちに今日のやる事を指示していた。

 指示された園児たちは一斉に用意していたクレヨンを手に取り、目の前に置いてある真っ白な画用紙に描き始める。

 ある男の子は小さい頃、テレビで人気だったヒーロー。ある女の子は大きなケーキを作っているパティシエを楽しそうに描いていた。

 ……あぁ、分かった。

 これって私の小さい頃の記憶だ。

 それを夢で見てるんだ。


「美鈴ちゃん、どうしたの?」


 なりたいものを描いていく子供たちを見ながら自分の夢だと理解すると突然、先生が私の名前を呼ぶ。

 その事に驚きつつ私は先生の方を見る。

 するとそこに居たのは……。


「小さい頃の私……!」


 そう。そこに居たのは園児服を着た小さい頃の私だった。

 だけど、目が潤んでいて何処か様子が変だ。


「何かあったの?」


 先生はそう優しく尋ねながら小さい頃の私の隣まで来る。


「ひっぐ……せんせい。あのね……」


 先生に気付いた小さい頃の私は必死に何かを伝えようとしていた。


「うん、どうしたの?」

「わたし、わたしね……」

「うん」

「なりたいものがないの……」


 ……あぁ、そっか。

 私、先生にそう言っちゃったんだよね……。


「だからね、だからね……。なりたいものがないからなにをかけばいいのかわからないの……」


 小さい頃の私は必死にそう先生に伝えていた。。

 そう。あの頃の私は夢が無かった。

 夢が無いからどうしたらいいのか分からなくなって……。

 だけど、そんな私に先生は……。


「美鈴ちゃん、大丈夫だよ」

「ひっぐ……えっ……?」


 話を聞いた先生はそう言った後、泣きそうになっていた私の背後に回りそっと抱きしめる。

 ……あぁ、懐かしい。


「————」


 そう。そうだよね……。

 先生の話で私は……。


「変わったんだ」


※※※


「……ん、あれ……?」


 私はそっと閉じた目を開けるとヒノキ造りの天井が視界いっぱいに広がっていた。


「ここは……?」


 私はゆっくりと上半身を起こしながら今の状況を確認しようとする。

 すると私の上にタオルケットが掛けられている事に気付く。

 それと同時に今、自分が身に纏っている服が紅葉さんの旅館の赤紫色の浴衣だと気付く。


「……あぁ、なるほど。私、夢から目覚めたんだ」

『美鈴、起きたんですか』


 やっと自分の状況を把握すると私の背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 すぐに聞き慣れた声の方を向くと私が寝ていた枕元の近くにスマホが置いてあった。


「どうしたんですか?」


 私の行動を不審に思ったのかスマホから声の主であるエメラがホログラムを使いながら出てくる。


「ん、何でもない。おはよう、エメラ」

「おはようございます。美鈴」


 お互いに挨拶した後、私はゆっくりと布団から出ようとする。

 すると……。


「う~ん……」


 左隣から可愛らしい声が聞こえてきた。

 私はすぐに隣を見ると布団で寝ている美紅ちゃんが居た。

 ちなみに身に纏っている服は私と同じ色の浴衣。

 紅葉さんの旅館の浴衣は男性のが濃い目の青、女性のが赤紫色のものになっている。

 帯も男性が黒、女性が赤となっている。


「可愛らしいですね」

「そうだね」


 右肩まで来たエメラとそう話した後、私は左手で美紅ちゃんの頭を撫でる。

 すると、髪を撫でられるのが気持ちいいのか段々と幸せそうな笑みと変わっていく。


「美鈴、何だかいつもより嬉しそうですね。何かいい夢でも見たんですか?」

「んー?」


 私が美紅ちゃんの頭を撫でているとエメラがそう尋ねてくる。

 そんなに私、顔に出ていたのかな……。


「まぁ、昔の夢を見たからかな?」

「昔の夢ですか?」

「うん。とても懐かしい夢」


 そうやり取りしていると……。


「あっ、美鈴。そろそろ時間です」


 エメラが私にそっと時間を告げた。


「えっ、もうそんな時間?」

「はい」

「そっか。じゃあ……」


 エメラと話した後、私は美紅ちゃんを撫でるのを辞め布団から出る。

 そして……。


「今日も一日、頑張りますか」


 意気込みを言いながら身支度を始めるのだった。


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