霧の中の戦い 前編
「誰って……陽太君! 僕ですよ! 勇正です!」
「えっ、勇正……?」
深い霧に包まれた海岸。
俺は自分を勇正だと言い張る彼女の姿を改めて見る。
確かに容姿は彼に似ている。
しかし、美鈴よりある胸の膨らみにすっとした体のライン……。
「どう見ても女性だよな……?」
「えっ……?」
俺がそう言った後、彼女は自分の体を見始める。
そして、体を隅々まで見た後……。
「なっ……」
「ん?」
「何なんですかぁあああぁ!? これはぁあああぁ!?」
彼女は自分の体に驚いたのか思いっきりそう叫んだ。
「えっ、どういう事です!? 何で僕の体が女性に!?」
彼女は自分の体の状況に驚きを隠せずに混乱していた。
彼女も混乱しているのは確かだが俺も俺で何が起きているのか全く分からなかった。
『陽太殿! こやつは紛れもなく勇正です!』
「えっ、アルジャ……?」
俺が混乱していると彼女が右手に持っているスマホからアルジャがホログラムを使いながら飛び出してくる。
こいつが飛び出してきたって事は……。
「本当に勇正か……?」
「だから、そう言っているじゃないですか!」
未だに彼女が勇正だと言うのが信じられない。
仮にそうだとしても何故、彼が女性の姿になっているのか分からない。
いや、待てよ……?
確か紅葉さんの話だと霧が出ている間は様々な幻覚を見るって言ってたな。
その話の中に男女の性別が反転するって言うのもあったな……。
これがその幻覚って言うのか?
『ヨウタ、気を付けろ! この霧の中に俺たち以外にも何か居る!』
「何ッ!?」
俺が様々な事を考えているとポケットの中に入っていたスマホからグレンがホログラムを使いながら飛び出してくる。
それを聞いた俺は辺りを警戒しながら確認するが深い霧で何も見えない。
けれど、これだけは段々と戦闘経験を積んだ自分だから分かる。
このドラゴンの言う通り、何か居る。
「勇正、まだ気持ちの整理がつかないかも知れないが今は……」
「分かってます……」
俺が言おうとしている事にすぐに気づいた勇正はそう返事をした。
それを聞いた後、自分はスマホをパーカーのポケットから取り出し操作する。
同時に彼……いや、彼女も自分のスマホを操作していく。
そして、
『UNITE ON!』
お互いに光に包まれながら融合を始める。
『BURST DRAGON!』
『CROSS KNIGHT!』
スマホの電子音声と共に体から光が消えていくと俺はいつも通りグレンと融合した姿になる。
そして、勇正もいつも通りアルジャと融合した筈だが体が女性のせいかいつもとすこし違う姿になる。
顔は露出しており、頭にティアラ。後は鎧も鎧で女性のものになっていて、どちらかと言えばファンタジー世界に出てくる女騎士の姿だった。
「……融合しても姿は女性のままなんですね」
融合した後、勇正は自分の姿を見ながらそう嘆いていた。
『勇正、今は戦いに集中した方がいいぞ。敵が何処に居るか分からないからな』
「……はい」
アルジャがそう言いながら勇正を諫める。
彼女も今の状況を理解しているのか周りを警戒しながら敵を探し始める。
しかし、この霧の中……。
敵を探すのも至難の業だな……。
「ッ! 陽太君、あれを見てください!」
勇正がそう叫びながらある方向を指差す。
俺は彼女が指差した方をすぐに見る。
すると、そこに居たのは……。
「何だあれ……」
ゆらゆらと空中を浮遊している水色のクラゲだった。
『あいつはフォグ・ジェリーフィッシュだ! あいつは他の者を惑わす霧を出しながら獲物を追い詰めていくんだ!』
「じゃあ、勇正が女性の姿に変わったのも……」
『恐らくあいつが原因だ。けど、暴走しているのかは分からないな……』
「陽太君、周りを見てください!」
「えっ?」
グレンからクラゲの情報を聞いた後、勇正がそう叫んだ。
その叫び声を聞いた俺は周りを見始める。
すると……。
「おいおい、まじかよ……」
数え切れないほどのクラゲが俺たちの周りを囲んでいた。
『ヨウタ、落ちつけ! これも幻影だ!』
「幻影?」
『あぁ、恐らく本体はこの何処かに居る』
「何故、そう言い切れなるんですか?」
俺がグレンの説明を聞いていると横から勇正が話に割り込んでくる。
『ユウセイ、それはあいつが霧を自分の周りにしか出せないからだ』
「えっ、そうなんですか?」
『あぁ。しかもこの霧はここだけにしか広がってなかった。つまり……』
「この海岸の何処かに本体が居ると……」
『そうだ。まぁ、本体が何体居るのか分からないがな』
グレンと勇正がそう話した後、俺は改めて数え切れないほどのクラゲを見る。
つまりこの海岸の何処かに居るって事はこの中に本体が居ないかもしれないのか……。
迂闊に攻撃しても駄目だな……。
ここは慎重に対処した方がいいな……。
「勇正、ここは慎重に対処……」
俺が勇正にもそう伝えようとした瞬間、
「行きます!」
彼女は果敢に数え切れないクラゲへと突っ込んでいった。
「勇正!」
「はあああああぁあぁぁ!」
勇正は右手の剣でクラゲを次々と斬っていく。
だが、どのクラゲも斬っても手ごたえは無さそうだった。
『ユウセイ、やめろ! そうやっても敵の思う壺だ!』
『グレン殿の言う通りだ! 勇正、もう辞めるんだ!』
グレンとアルジャがそう呼びかけるが勇正は攻撃を止めなかった。
確かに彼女が攻撃する度に幻影のクラゲは消えていく。
しかし、それは無駄だった。
なぜなら攻撃している以上に幻影のクラゲが増えていったからだ。
「それは分かった上です! だからこそです!」
勇正はそう叫びながら攻撃をし続ける。
彼女はそれを理解している上で攻撃している?
何故だ?
何かを狙っているのか?
『ッ! 勇正、危ない!』
俺が考えているとアルジャがそう叫んだ。
すると、勇正の背後から一本の触手が近づいてくる。
「勇正!」
俺が勇正の名前を叫ぶと、
「これを……」
「えっ?」
「待ってました!」
勇正はそう叫びながら後ろを向く。
それと同時に光に包まれていく。
そして……。
『UNITE CHANGE! IRON GOLEM!』
ゴーレムと融合した姿へと変わっていく。
ただいつも違って勇正の姿が女性なので鎧も女性のものになる。
後、顔を覆っていた兜も無くなり彼女の顔が露出していた。
「この触手を引っ張って本物を引き釣り出します!」
なるほど。
勇正は敵が攻撃をしてくるのを待っていたのか。
だから、わざと幻影に攻撃して敵の策略にハマった振りをしていたんだ。
俺との一件で冷静さを失っていたように見えたが意外にあいつ、ちゃんと作戦を考えているな……。
「これで終わりです!」
そう叫びながら勇正が触手を掴んだ瞬間だった。
「えっ?」
触手が一瞬で霧のようになり、勇正の手から消える。
「これは一体……」
「何が起きたんだ……?」
勇正は何が起きたのか理解出来ずに居た。
その光景を見ていた俺も理解出来ずにただ彼女を見ていた。
『勇正、さっきの触手は幻影だ! まだ本物は何処かに居る!』
「えっ?」
アルジャがそう叫んだ瞬間、また勇正の背後から複数の触手が伸びてくる。
「ッ! 勇正、危ない!」
その光景を見ていた俺はすぐに翼を羽ばたかせながらまだ状況を理解していない勇正の元へ飛んでいく。
そして、
「わっ!」
「くっ!」
俺は勇正を払いのけて無数の触手に捕まったのであった。




