二人の美少女?
「勇正、何処だ……?」
海岸に美鈴を残して勇正を探しに行った俺は大空から海岸付近を飛んでいた。
けれど、それらしき人物は何処にも居なかった。
『ヨウタ、焦りすぎだ! 少し落ち着け!』
「けど……!」
『焦っても見落とすだけだ! だったら、落ち着いて探した方がいいだろ!』
「……!」
確かにグレンの言う通りだ。
焦っても勇正の姿を見落とす確率が増えるだけだ。
それだったら一旦、落ち着いてから探した方が効率はいい。
『ヨウタ?』
「……グレン、ありがとう。少し焦りすぎた」
『……まぁ、ヨウタが焦る気持ちも分からなくもない。まさかユウセイがあんな事を言うとはな』
「……」
グレンがそう言った後、俺はさっきの勇正の発言を思い出し黙ってしまう。
あの時、彼は心の底から本音を言っていた。
けれど、最後まで自分の本音を言わなかった。
彼自身、心の何処かで言わない方がいいと思ったからだろう。
しかし、あの後の言葉は自分や美鈴にも想像ついてしまった。
「やっぱりあれってそう言う事だよな……」
『恐らくな……』
俺たちと関わらない方が良かった。
多分……いや、絶対に勇正はそう言おうとしていた。
「何でって言うのもおかしいよな……」
『そうだな……』
今日の勇正は自分の事で思い詰めていた。
それが分かっていたのに俺たちは何も出来なかった。
……いや、違う。
何も出来なかったんじゃない。
見て見ぬふりして何もやろうとしなかったんだ。
その結果がこの様だ。
当然と言えば当然の結果だ。
けれど、こんな事になるんだったら……。
「俺、もっと勇正の事を気にかけてれば良かったな……」
『ヨウタ……』
後悔。
今の俺の心はその気持ちで溢れていた。
あの時、何が出来たのか分からない。
けれど、こんな結果になるのは防げたかもしれない。
最悪の事態が起きた今だからそう言えるんだから皮肉なもんだ。
『……ん? ヨウタ、あそこ! 灯台の方に誰か居るぞ!』
「えっ?」
俺が後悔を抱えながら飛んでいるとグレンがそう叫んだ。
言われた通りに灯台の方を見ると確かに誰が海を眺めていた。
しかし……。
「勇正じゃないな……」
灯台に居るのはどこからどう見ても白いつば広帽子に白いワンピースを着た黒髪ロングの少女だ。
年はここからじゃ判別できないけど、身長から見る限り小学生くらいか……?
『それでもここら辺に勇正が通ったかは聞ける筈だ。とりあえず情報を聞くために融合解除してあそこに降りてみよう』
「……分かった」
グレンとの会話が終わった後、俺は素直に灯台へと向かっていく。
そして、少女の見えない所で……。
『UNITE OFF』
スマホの電子音声が聞きながら俺は融合を解除し元の姿へと戻る。
『んじゃ、早速聞いてみるか』
右手に持たれていたスマホからグレンがそう言ってくる。
「そうだな。けど、お前は隠れてろよ」
『了解』
グレンとそう話した後、俺はスマホをパーカーのポケットに入れてすぐに海を眺めている少女の方へと向かっていく。
そして、ある程度近づいた所で……。
「あの……すみません」
と典型的な言葉で少女に声を掛けた。
「はい?」
声を掛けられた事に気付いた少女は俺の方を向く。
やはり空中で見た時も思ったが年は小学生くらいなのかな?
「あの……どうしましたか?」
「あっ、いえ、その……」
しまった。
少女をまじまじと見ていたせいで変な間を取ってしまった。
まずい……この状況は非常にまずいぞ……。
今、この場に居るのは俺とこの子だけ。
それで自分はこの子の姿をじっくりと見ていた。
そして、最後はこのあやふやな言葉の対応……。
(どう考えても俺、怪しい人じゃないか!)
これじゃいつ通報されてもおかしくないぞ!
とりあえずそんな誤解をされる前に何か話さないと!
けど、何を話したらいいんだ!?
そもそも俺は知らない人と話すなんてあまり無いからこうゆう時、何を言えば誤解されずに済むのか分からない。
当初の目的である勇正の居場所を聞けばいいのか!?
それとも違う話をしながらさり気なく聞けばいいのか!?
あぁ、どうしたらいいんだ!?
「落ち着いてください」
「えっ?」
「ちゃんと話は聞きますからまずは深呼吸をして落ち着いてください。ね?」
俺がどう対応したらいいか悩んでいると少女が優しげな表情しながらそう言ってくる。
その対応に見ていた自分はこの子の対応に感心する。
こんな怪しい対応しかしてないのに優しくするなんてこの子は天使か……。
若干、本当に怪しい人について行かないか心配だが……。
「どうしました?」
「あっ、いや何でもない」
そう話した後、俺は少女に言われた通り深呼吸をし始める。
そして、段々と落ち着きを取り戻していく。
「落ち着きましたか?」
「……あぁ、ありがとう」
「それで私に何を聞きたかったのですか?」
落ち着きを取り戻した俺がお礼を言った後、少女は何を聞きたかったのか尋ねてきた。
「えっと、ここら辺で人を見かけなかった?」
「人ですか?」
「あぁ、俺より身長が低くて中性的な顔の男子なんだけど……」
「いえ、見てません」
「そうか、ありがとう……」
少女から勇正の姿を見てないと聞いた俺は少しだけ気分が暗くなってしまった。
あいつ……どこに行ったんだ?
本当にこの辺りに居るのか?
もう違う場所に居るんじゃないのか?
畜生!
不安ばっかり積もってきやがる!
「その人の事、本当に心配しているんですね」
「えっ?」
俺が勇正の不安を積もらせていると少女がそう言ってくる。
けれど……。
「何で分かったんだ?」
「分かりますよ。心配でしょうがないっていう気持ちが顔に出ていますから」
少女はそう言いながら微笑んでくる。
俺、そこまで顔に出ていたのか……。
「けど、そんなに必死に探しているって事はその人に何かあったんですか?」
「……」
少女がそう尋ねてくると俺はさっきの出来事を思い出し黙ってしまい、そっぽを向き始める。
そっぽを向き始めてからこの子も何かを察したのか困った表情になっていった。
それからお互いに何を話したらいいのか分からずに沈黙が続いていった。
「もし……」
「ん?」
先に沈黙を破ったのは少女の方だった。
声を出した事に気付いた俺は再びこの子の方を見始める。
「もしよろしければ私に何があったのか話してくれませんか?」
「えっ……」
少女の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
何せ見ず知らずの俺の悩みを聞いてくれると言ってくれているのだ。
驚かない筈もない。
「いや! そんな悪いよ!」
「これも何かのご縁です。それに誰かに話せば楽になる事もありますよ」
すぐに俺はそう言ったが少女は真剣な表情で更にそう言ってくる。
この子、本気で自分の話を聞こうとしている……。
けど、本当にいいのか?
こんな小さい子に話を聞いてもらうなんて……。
『ヨウタ、話を聞いてもらえ』
「えっ、グレン……?」
俺が悩んでいるといつの間にかグレンがホログラムを使いながら自分の背中に隠れていた。
『今のお前は気持ちが不安定だ。だったらこの少女の言う通り、話を聞いてもらって楽になった方がいい』
「けど……」
『けどじゃない。相手がこっちの話を聞いてくれるって言うんだ。だったら、この子の気持ちを無下にしない為にも聞いてもらえ。いいな?』
俺とこそこそ話した後、グレンはすぐに消える。
全く強引だな……。
けれど、グレンの言葉も一理あるのは確かだ。
この子はここまで見ず知らずの自分の話を聞いてくれると言ってくれた。
だったら……。
(恥をかかすのも悪いよな……)
そう考えた俺は少女の横まで移動し海を見始める。
「……あまりいい話じゃないけどいいかな?」
「はい……!」
それから俺はさっきの出来事を簡潔に話し始める。
勿論、グレンたちの事や修行の事を言わずに。
「そんな事があったんですね……」
「あぁ……俺はあいつの気持ちを分かっていたくせに何もしてやれなかった。その結果、あいつを傷付ける事になってしまった」
俺は海を見ながら淡々と今までの経緯を語っていく。
その語っていく姿を少女は何も言わずにじっと見つめていた。
「俺は最低な奴だ。今は必死に追いかけているがいざ会っても何をすればいいのか分からない」
俺は両手を拳に変えながらそう語っていった。
実際、勇正と会うのが怖い。
もし何かをやったとしてもまたあいつを傷付けるんじゃないのか。
そう考えただけでも体の震えが止まらない。
「怖がっては何も出来ませんよ」
「えっ?」
俺が震えていると隣に居る少女はがそう言ってくる。
その言葉を聞いた自分はそのまま少女の方を向く。
「人は誰しも間違いや失敗する時はあります。けれど、そこで歩みを止めては何も変わりません」
少女は海を見ながらそう語っていく。
その語っていく姿を俺はじっと見つめていた。
「過去はどうやっても戻りません。だからこそ今その人に自分が出来る事をやればいいと思います」
少女がそう言った後、海風が吹き始める。
海風に吹いた事に気付いた少女はすぐに帽子を抑える。
その仕草が壮大な海と重なり、まるで一つの絵画のようだった。
不覚にもその光景に見とれていた自分の体はいつの間にか震えが止まっていた。
その時だった。
「うわわわわわぁあぁ!」
「「!?」」
何処からか叫び声が聞こえてくる。
それを聞いた俺たちは驚きを隠せなかった。
「なっ、何だ!?」
すぐに俺は叫び声の正体を確認するために辺りを見始める。
しかし、何処も変わった所は無かった。
「見てください! あそこの海岸だけ凄い霧です!」
少女がそう叫びながら指を指した。
叫びを聞いた俺はすぐにその指した方を見る。
その先に広がっていた景色はこの少女が叫んだ通り、物凄い濃い霧に覆われた海岸だった。
あの霧、紅葉さんが言っていた奴か?
それにさっきの叫び声……。
まさか……!
「ちきしょう!」
最悪の予想をした俺はそう叫びながら急いで深い霧に包まれた海岸へと走り出した。
「あっ、何処へ!?」
「あの霧の中に俺の友達が居るかもしれないんだ! 君は危ないからここに居て!」
呼び止める少女にそう言った後、俺は必死に目的地と走っていった。
※※※
「勇正、何処だ!? 居たら返事をしろ!」
深い霧の中に包まれた海岸にたどり着いた俺は必死に走りながら勇正の事を探していた。
確かにこの海岸付近であいつの叫び声が聞こえたんだが……。
まさかもうやられたんじゃないだろうな……。
「もう一体、何なんですか……?」
「ッ! 勇正、そこに居るのか!」
俺が不安を巡らせていると正面から勇正の声が聞こえてきた。
すぐに自分は声が聞こえてきた方へ向かうと人影が見えた。
「その声……陽太君ですか!?」
「あぁ、俺だ! 良かった、無事で……!?」
俺はそう言いながら勇正の元へ走っていく。
けれど、言葉は最後まで言えなかった。
……いや、言えなかったんじゃない。
正確には言葉を失ったんだ。
何故なら……。
「えっ……誰?」
そこに居たのは勇正に似た女子だったからだ。




