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MONSTER UNITED 〜モンスター・ユナイテッド〜  作者: 土竜児
第七章 合宿、開始!
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溢れ出す感情

「美鈴、勇正!」


 戦いの後、俺は美鈴たちに近づいていく。

 一方、その戦いを終えた二人は一人が倒れていて一人がその介抱をしていた。


「勇正は大丈夫か?」

「うん、気絶しているだけだよ」

「良かった」


 勇正の安否を確認した後、俺は美鈴の方を見る。

 すると、美鈴の数値が元に戻っている事に気が付いた。


「あれ……?」

「陽太君、どうしたの?」

「いや、美鈴の数値が元に戻っていると思ってな……」


 美鈴があの必殺技を放ったあの時、数値が急に上がったのは確かだ。

 覚えている限り、彼女の数値は二十七%から四十二%になっていた。

 けれど、今は元に戻っている。

 これはどういう事なんだ……?


『なるほど、そう言う事か』

「えっ? グレン、分かったのか?」

『これはまだ俺の仮説だがあれはお互いの感情が同調した時に起きる技だ。その同調が大きければ大きい程数値も上がるんだと思う』

「じゃあ、その仮説でいくと今は感情が同調してないから数値も戻ったって事か?」

『そういう事だ』


 なるほどな……。

 確かにその仮説なら全て辻褄が合うな……。

 しかし、こんな少ない情報でよく気が付くな……こいつは。


「けど、美鈴。いつの間に使えるようになったんだ?」


 正直、そこが一番気になっていた。

 俺もあの必殺技が出来たのはドラゴンとの戦いの時に一回だけだ。

 あの後も何度も試したがグレンと感情が同調しなかったのか出来なかった。


「あぁ、うん。偶然、自主練中に使えるようになったの」

「そうなのか。けど、何で俺たちに言わなかったんだ?」


 普通に使えるようになったなら何故、俺たちに言わなかったのか気になる所だ。

 何か事情があったのかそれとも……。


「いや、まだ使える時と使えない時があるから不安もあったしそれに……」

「それに?」

「陽太君や勇正君を驚かしたくて隠してたんだ」


 美鈴は俺の方を見ながらそう悪戯っぽく言った。

 やはり自分たちを驚かしたかっただけか。

 まぁ、彼女らしいと言えば彼女らしい。


「……うぅん」

「あっ、気が付いた」


 俺たちがそう話していると倒れていた勇正が目を覚めた。

 それに気が付いた美鈴が声を出す。


「……あれ、僕は?」

「私の攻撃を受けて気を失ったの」

「……そうでしたね。僕、また負けたんですね」


 意識を取り戻した勇正は自分の状況を把握しながら上半身だけ起きる。

 そして、自分が負けた事がよほどショックなのか元気が無かった。


「……ははは」

「ん?」

「はっはっはっはっはっ!」


 元気が無かった勇正がいきなり大声で笑い始める。

 それに見ていた俺たちは驚きを隠せなかった。


「勇正、どうしたんだ?」


 俺が恐る恐る尋ねると勇正が大声で笑うのを辞める。

 そして、少しだけ沈黙が続いた。


「……やっぱり僕は何処に行っても役立たずなんですね」

「えっ?」

「僕は戦いでも手伝いでもいい所が無し。それどころか皆さんに迷惑をかけっぱなしで本当に役立たずです」


 勇正はそう自虐を言いながら砂を右手で握り締める。

 まずい……。

 段々と勇正は悪い方へと悪い方へと考えていっている。

 ここは仲間として励まさないといけないな……。


「勇正、俺はそう思わないぞ。お前はよくやっている」

「そうだよ。勇正君はよく考えて行動して……」

「お世辞はもういいです!」


 俺と美鈴が励まそうとした瞬間、勇正がそう叫びながら遮った。

 その叫び声に驚き、励ましそうとした俺たちは黙ってしまう。


「もう嫌なんですよ! そうやってお世辞を言っても結果は変わりません! 陽太君や美鈴さんのように必殺技も出来ない事実も! 僕が役立たずの事実も!」


 勇正の叫びは止まらなかった。

 まるでコップの中に溜まっていた水が一気に溢れ出すように感情むき出しに叫び続けた。

 その叫び声を俺たちはただ聞いている事しか出来なかった。


「こんな思いをするんだったら僕は……僕は……」


 勇正が叫び終わると小声で何かを言おうとしていたが最後まで言わなかった。

 けれど、彼が何を言おうとしていた事は俺たちにはすぐに分かってしまった。

 その証拠にアルジャとの数値が段々と安定しない状態になっていた。


「おい、ゆうせ……」

「ッ!」

「うわっ!?」


 俺が近づきながら声を掛けると勇正の体が光に包まれていく。

 その光の眩しさに俺たちは目をそらす。


「なっ、何だ……?」

『UNITE CHANGE! NITRO RAT!』


 俺は手で光を遮りながら何が起きたのか確認しようとするとスマホの電子音声が周りに響く。

 どうやら勇正がアルジャからラットに融合を変えたようだ。

 そして、光が段々と眩しさを失っていくと融合を終えた彼は俺たちから離れていく。


「あっ、勇正!?」

「何処に行くの!?」


 すぐに俺たちは勇正が見ながら呼び止める。

 しかし、呼んだ当の本人は止まらずに何処までも走っていく。

 でも、グレンの力で飛べばまだ追いつける。


「待てって!」


 俺が翼を広げて勇正を追いかけようとした瞬間、


『UNITE OFF』


 隣からスマホの電子音声が聞こえてくる。


「えっ……美鈴!? どうした!?」


 俺が隣を見ると元に戻った美鈴が膝をついて倒れていた。

 その事に気付いた後、すぐに俺は彼女の方へ駆け寄る。


「ご、ごめん……なんか急に体が……」

『どうやらさっきの戦いで体力を使い果たしたみたいです』


 美鈴が自分の体の事で困惑していると右手に持たれているスマホからエメラが補足説明でしてくる。


「けど、さっきまで何とも無かった筈なのにいきなりどうして……」

『もしかしたら必殺技の影響かもしれないな……』


 俺が美鈴の方を見ながら疑問に思っているとグレンがそう言い始める。


「えっ、どういう事だ?」

『ヨウタたちはまだ必殺技を使いこなしていない。そのせいか体力も多く消費してしまうんだと思う』


 なるほど……。

 確かにそれはあり得るかもしれない。


「それより陽太君。私の事はいいから勇正君を早く追いかけて……」

「でも……」


 このまま倒れている美鈴を置いて勇正を追いかけるなんて俺は出来ない。

 それに紅葉さんの話だと最近、変な霧が多く出るって言ってたのも気になるし……。


「大丈夫。少し休めば回復するからと思うから。それにエメラもついているから」

『そうです! 美鈴は私に任して陽太様、早く勇正様を追いかけてください』


 美鈴とエメラがそう言いながら俺を勇正の元へと行かせようとする。

 その言葉だけでも早く追いかけてという気持ちがひしひしと伝わってくる。


『ヨウタ!』

「……分かった。すぐに勇正を連れて戻る!」


 俺は美鈴たちにそう伝えた後、後ろを向く。

 そして、翼を羽ばたかせ勇正が走っていた方へ向かった。

 しかし、そこにはもう勇正の姿はもう何処にも無かった。


「勇正……」

『ヨウタ、諦めるな! まだ遠くに行ってない筈だ! 探すぞ!』

「あぁ……!」


 俺はグレンの励ましを受けながら勇正を空中から探す。

 けれど、何処を探しても勇正の姿は見つからなかったのであった。


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