悪戯のお仕置き 後編
「これが獏と融合した姿……」
俺はそう言いながら自分の姿を見ていく。
今まで融合したモンスターたちは戦ったりグレンに特徴を聞いたりしてその姿の力を何とかなく使ってきた。
けれど、今回は違う。
獏は後者に当たるが余りにも情報が少なすぎる。
吸い込んで夢を食べる事以外知らない状態なのだ。
だから、こうして自分の姿を調べないと戦うにもどんな力があるのか分からなくて戦えないのだ。
「なるほど、なるほど……」
体はどの融合した姿よりも重い。
重いがこの重さでさっきの吸い込む時の反動を押さえるのかもしれない。
そして、このガントレット。
このガントレットに空いている穴で羊の攻撃をまるで掃除機のように吸い込んだんだな。
さっきは無意識の内に使っていたがこれは凄い力だ。
この吸い込む力さえあれば、二匹とも逃げられずに捕まえられそうだ。
「ん? 少し色がついている……」
俺が右腕の透明部分を見ていると少し色が変化している事に気付く。
これが何を意味しているのか分からない俺には分からなかった。
「陽太君、また来るよ!」
「えっ……?」
美鈴の叫びを聞いて俺は前を向く。
すると、羊がまた俺に向かって毛を飛ばしてきた。
『ヨウタ!』
「分かっている!」
俺はそう返事をしながらまた左手で固定しながら右手を前に出す。
そして、羊の攻撃をどんどん吸い込んでいく。
その行動をやっている最中に俺は右手の透明な部分が段々と赤へと変化している事に気付く。
「何だ……?」
攻撃を全て吸い込んだ後、俺は再び右腕を見る。
右腕の透明な部分をすっかり真っ赤になっていた。
「これは……?」
『ヨウタ、また来るぞ!』
俺が真っ赤になった右腕を見ていると今度はコオロギが美鈴を縛っている捕縛攻撃をしてきた。
「あぁ、もう! しつこい!」
俺はそう叫んだ後、また右手を前に出して吸い込もうとする。
すると、右手は吸い込まずに光り出した。
それと同時に右手から何か飛び出しそうな感覚に襲われた。
「えっ……どうしたんだ?」
『ヨウタ、避けろ!』
「えっ……うわっと!」
俺が攻撃を吸い込まずに光り出した右手を見ているとグレンがそう忠告してきた。
すぐに俺はグレンの言葉に反応して何とか避ける。
それと同時に光っていた右手が段々と光を失っていく。
「あぶねぇ!」
『また来るぞ!』
「えっ……まじかよ!」
攻撃を避けたと思った俺がホッとしているのも束の間、今度は羊とコオロギが同時に攻撃を仕掛けてくる。
唯一の対抗出来そうな手段を無くした俺にはその攻撃を避けるしか出来なかった。
「畜生ッ! どうしていきなり吸えなくなったんだ!?」
『もしかして腕の透明な部分が真っ赤になると使えなくなるんじゃないのか!?』
俺の疑問に対してグレンがそう仮説を言ってくる。
という事はまだ使用していない左は使える筈だ。
けど、もしグレンの仮説が本当だったら左にも限界がある。
その限界を迎えた時、俺は本当に何も出来なくなる。
『ヨウタ、危ない!』
「えっ……ぐっ!」
俺がそう考えながら避けているとコオロギの攻撃が当たり、上半身が五線譜のような線で巻きつけられる。
「しまった……!」
上半身が巻きつけられた事により俺は一瞬、判断が鈍り立ち止まってしまう。
そして、その一瞬の判断の鈍りが間違いだと気付いてしまった。
『ヨウタぁ——!』
グレンが自分の名前を聞きながら羊とコオロギの同時攻撃が俺に向かって降り注ごうとしていた。
その光景を見ながらもう駄目だと思った瞬間だった。
「はあぁぁああぁ!」
突然、俺の目の前に捕縛されている筈の美鈴が現れる。
そして、翼を大きく動かし強烈な風を起こす。
すると、その風で羊の攻撃を飛ばしていく。
しかし、コオロギの攻撃は飛ばされずに此方へと飛んでくる。
「嘘!? まだ駄目なの!?」
「いや、大丈夫です!」
コオロギの攻撃を飛ばさなかった事に美鈴が驚いていると勇正がそう言いながら目の前に現れる。
そして、攻撃を右手の剣でスバズバッと斬っていく。
攻撃は斬られていくと段々と消えていった。
「何とかなったね……」
「危なかったですけどね……」
美鈴、勇正の順にホッとしながらそう呟いていく。
しかし、俺は目の前の光景が信じられなかった。
何故なら美鈴たちは捕縛されている筈なのだから。
「美鈴に勇正……何で……」
「羊たちが陽太君に集中している時に何とか線を解いたんだ」
「それで助けに来たんです。ちょっと待ってください。今、線を斬ります」
俺がそう尋ねると美鈴と勇正が此方を向きながらそう説明してきた。
説明が終わった後、勇正は俺の上半身に巻かれている線を斬る。
「勇正、ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
「さて、どうするの?」
勇正にお礼を言った後、俺たちは羊たちの方を見る。
羊たちはさっきの攻撃を見て警戒を強めたのか此方を睨みながら逃げる機会をうかがっていた。
「あの様子だと早く捕まえないと逃げられちゃうよね……」
「けど、吸い込む力が逃げられないのはあちらも分かっている筈です」
「……その吸い込む力は限度があると思う」
「えっ? どういう事ですか?」
美鈴と勇正が話していると俺が水差すようにそう言い放った。
すると勇正がそう尋ねながら此方を見てくる。
「さっきまで使っていた右が真っ赤になった途端、使えなくなった。つまり使用制限があるって事だ」
右手を見せながら俺がそう説明していると……。
「……ちょっと見せてください」
「えっ?」
勇正がそう言った後、俺の右手を掴みながら見てくる。
「う~ん、確かに陽太君の言う通り、吸い込みには限度があると思います。けど、僕には使用制限があるとは思えません」
「……何故だ?」
「さっき、陽太君の右手が光っている時に思ったんです。この手は他の者の攻撃を吸い込んで放出するんじゃないのかって」
「……!」
確かにあの時、右手から何かが飛び出す感覚に襲われた。
という事は勇正が言っている事は本当かもしれない。
だったら……。
「美鈴に勇正!」
「何、どうしたの!?」「あっ、はい!?」
「俺に作戦がある! とりあえずあいつらをかく乱しつつ一ヶ所に集めてくれ! 後は俺が何とかする!」
「分かったよ! じゃあ、私は羊を相手するよ!」
「分かりました! じゃあ、僕はコオロギを相手します!」
俺が作戦を伝えた後、美鈴たちはすんなりと了承しながら自分たちの役目を決めていく。
「じゃあ、作戦が決まった所でお仕置きの始まりだ!」
「うん!」「はい!」
俺の合図ともに美鈴は羊を勇正はコオロギをかく乱しに向かった。
羊たちはそれに気づき、電脳空間を逃げ惑う。
しかし、逃げ惑う羊たちに動揺せずに美鈴たちは追いかけていく。
コオロギはあっさりと勇正に押さえ込まれるが羊は中々美鈴に捕まらずに逃げていた。
「よし、今の内に……」
美鈴たちが追いかけている間に俺は右手を光らせながら放出する準備を行い始めた。
そして、美鈴たちが羊たちを一ヶ所に集めるのを待っていた。
その事に気付いた羊はまた俺に突進してくる。
『ヨウタ!』
「させない!」
グレンが俺の名前を叫ぶと羊を追いかけていた美鈴がそう叫びながらスピードを上げる。
スピードを上げた美鈴は羊を追い抜き目の前に立ち塞がる。
そして、美鈴は辺りを見始めて勇正が押さえ込んでいるコオロギを見つけると……。
「勇正君、どいて!」
「えっ?」
美鈴は勇正にそう叫んだ後、突進してくる羊に合わせて回し蹴りを当てる。
「はああぁああぁ!」
羊に回し蹴りを当てた美鈴はそう雄たけびを上げながら勇正の方へ蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた羊は見る見るうちにスピードを上げていき、まるで流星のように飛んでいく。
「おっわっふ!?」
状況を理解した勇正は流星のように飛んでくる羊を何とか避け、コオロギに当たる。
その反動で羊たちは空間を転がっていくが段々と勢いを無くしていき、ある程度の所で留まる。
だけど、これで俺の出した条件は整った。
「陽太君、今だよ!」
「あぁ!」
美鈴がそう叫んだ後、俺は一ヶ所に集まった羊たちに光っている右手をかざす。
左手で固定しつつ、狙いを定めていく。
そして……。
「喰らいやがれっ!」
俺はそう叫びながら、光っている右手に放てと念じる。
すると光っている右手は一段と光を増して、空いている穴から光の砲弾が放たれる。
その反動で俺は吹き飛ばされるが何とか態勢を整えていく。
「「「いっけぇぇえぇ!」」」
俺たちの願いを乗せながら光の砲弾は真っ直ぐ向かっていく。
そして、羊たちを光の砲弾が貫いた。
それと同時に貫いた光の砲弾は段々と消えていく。
「————!」
光の砲弾が貫いた後、羊たちは叫びを上げながら体が光の塊へと変わっていった。
その様子を見ながら、
「良かった……上手くいって……」
俺はホッとしてそう呟いた。
正直、不安だった。
本当に右手から何か出るのか分からなかったし、作戦だって上手くいくか分からなかった。
だけど、全て上手くいって本当に良かった。
『ヨウタ、これでお仕置き完了だな』
「……あぁ、そうだな」
グレンと話した後、俺たちはすぐに羊たちの光の塊を回収にしに行くのであった。




