悪戯のお仕置き 前編
「一体、何処まで行くんだ……?」
俺たちは獏を追いかけながら電脳空間の中を飛んでいた。
しかし、あいつは本当に何かを見つけたのか……?
単なる気まぐれで電脳空間の中に入ったんじゃないのか?
疑心暗鬼の中、獏を追いかけていくと俺たちはある電脳空間に辿り着く。
「ここは……?」
『どうやらここは業務用放送システムの電脳空間だな』
「業……何だそれ?」
「簡単に言えば校内放送の時に使うアンプみたいなものだよ」
グレンの説明を聞いても分からなかった俺に美鈴が更に説明してくれる。
なるほど、校内放送の時に使うアンプみたいなものか……。
「陽太君、あれを見てください!」
勇正がそう叫びながら指差した。
俺と美鈴はすぐに勇正が指した方を見る。
その先に居たのは獏と一緒に遊んでいるモンスターたちだった。
「あれって……?」
『あいつらはスリープ・ゴートにリフレッシュ・クリケットだ』
「スリープ・ゴートに……」
「リフレッシュ・クリケット?」
グレンがモンスターの名前を言った後、美鈴、勇正の順に繰り返して言った。
『白い羊みたいのがスリープ・ゴートで緑のコオロギがリフレッシュ・クリケットです。スリープ・ゴートは居るだけで周りの生き物を眠らせる事が出来て、いい夢を見せてくれるモンスターです』
『そして、リフレッシュ・クリケットは自分から発する爽やかな音楽で他の生き物をリラックスさせる事が出来るモンスターだ』
今度はエメラ、アルジャの順にモンスターの説明を俺たちにしてくる。
なるほど、あいつらが今回の噂のモンスターたちか……。
『やっぱりあいつら、暴走はしてないみたいだな……』
確かにグレンの言う通り、あの二匹のモンスターは見る限り暴走してなそうだ。
それどころか獏と一緒に遊んでいるもんな……。
「そう言えばあいつ、美鈴たちの夢を食べたのに暴走してないな」
『確かにそうだな……何故だ?』
俺がグレンと一緒に考察していると……。
『今はそんな事はどうでもいいです! それより早く保護しましょう!』
エメラがそう怒鳴りつけてきた。
確かにここで逃げられたら大変だからな……。
「よし、さっさと保護するか!」
気合を入れなおした俺たちは獏たちの所へ近づいていく。
すると、遊んでいた獏たちは俺たちに近づいてきた事に気付く。
そして、獏以外の二匹は物凄いスピードで逃げていく。
「あっ、こら!? 何処に行くんだ!?」
『恐らく本能的に捕まったら怒られると思ったのでしょう。あの子たちはいつも悪戯ばかりしていましたから……』
俺が逃げていく二匹を見て叫ぶとエメラが何故逃げるのか説明してくる。
その行動から察するにどれだけあいつらは悪戯してきたのかは分かる。
けれど、このままだと逃げられるな……。
『とにかくヨウタ、追いかけるぞ!』
「あぁ! ……ん?」
『ヨウタ、どうした?』
俺たちが逃げていく二匹を追いかけようとした時だった。
俺の目に取り残された獏が映った。
そして、獏の所で俺は立ち止まる。
「グレン、こいつはいいのか?」
『そうだな……こいつは逃げなそうだし後で大丈夫だろ』
「きゃああぁあぁ!」
「『!?』」
俺が獏の事を気にしていると美鈴の叫び声が聞こえてくる。
その叫び声を聞いた俺はすぐに他の二匹を追いかけた美鈴たちの方を見る。
すると美鈴たちはコオロギの攻撃を受けて、五線譜のような線に巻かれていた。
「美鈴、勇正!」
『ヨウタ、今はあっちに集中するぞ!』
「あぁ!」
すぐに俺は美鈴たちを助ける為に動き出す。
するとコオロギが演奏を始める。
それと同時に羊の体が光り出す。
そして、体が光り出した羊は一瞬で俺の目の前に来た。
「はっや!」
『まずい! あいつの演奏でこいつのスピードが上がっているんだ!』
「何だって!?」
俺がグレンの話を聞いていると羊の白い毛が膨らみ始める。
そして、膨らんだ毛を俺に飛ばしてくる。
「な、なんだ!?」
『ヨウタ、避けろ! あの毛に当たったらすぐに睡魔に襲われるぞ!』
「それを先に言え!」
俺はグレンに文句を言いながら羊の攻撃を避けていく。
避けながらも俺は前へ進もうとするが次々と攻撃が飛んできて進めずにいた。
「くっそ! これじゃ美鈴たちを助けに行けない!」
『ヨウタ、炎だ! 炎を吐きながら進めば当たらずに進める!』
「んな事言ったってこのままじゃ炎を吐く準備ですら出来ないぞ!」
避けながら俺たちは作戦を考えていく。
しかし、なかなかいい方法が思いつかなかった。
すると、羊の攻撃が止む。
「えっ? 攻撃が止んだ?」
『違う! ヨウタ、来るぞ!』
「ん? がっ!」
俺が油断していると羊が物凄いスピードで突進してきた。
しかし、攻撃は俺の体を掠っただけだった。
その後も羊は物凄いスピードで俺に突進し続けてくる。
その度に体の何処かに掠っていき、段々と睡魔が俺を襲ってきた。
「やばっ……このままじゃ……」
睡魔に襲われながら俺はどうするか考えていると……。
「なっ、何だ!? おっわ!?」
突然、俺の体は何かに引っ張れるように吸い込まれていく。
そして、ある地点まで到達すると俺の腰の辺りに何かがピタッとくっ付く。
俺は恐る恐る腰の辺りを見るとそこに居たのは小さな鼻をくっ付けていた獏だった。
「お前、俺を助けてくれたのか?」
俺がそう尋ねると獏は腰にくっ付けていた鼻を離す。
そして、俺が獏の方へ振り替えると……。
「きゅ~!」
「うっわぁ!」
獏は鳴き声を出しながら俺の胸元に向かって飛び込んできた。
その事に驚きつつも俺はしっかりと受け止めた。
『その様子だとよっぽどヨウタの事が気に入ったようだな。傷ついていくヨウタを見てられなかったんだな』
「お前……」
グレンに言われた後、改めて俺は獏を見る。
俺の体に顔を押し付けながら甘えていた。
こんな状況にも関わらず俺はその仕草に可愛いと思ってしまった。
『それよりどうする? ヨウタ?』
グレンがそう言った後、俺はさっきまで自分が居た場所を見る。
そこには攻撃を止めた獏が此方を見ていた。
「何で攻撃してこないんだ……?」
『ヨウタが何もしてこないから警戒しているんだ』
「えっ? どういう事だ?」
『あいつらに戦う意思は無いのは見ていて分かる。ただまだ悪戯や遊びがしたいから俺たちの動きを封じ込めて逃げようとしているんだ。だから、まだ動きを封じ込めてないヨウタを警戒しているんだ』
「まだ悪戯や遊びをしたいから俺たちの動きを封じ込めようとしている? まるで子供だな……」
『だから、言ったろ。人間の子供と同じだって』
グレンの説明を聞いた後、俺は羊たちを見ながら作戦を考えていく。
グレンの言う事が本当ならあの二匹は人間の子供と同じで遊びたいという気持ちに溢れているだけだ。
それを解消する為には遊ぶのが一番だ。
けれど、このまま満足するまで悪戯や遊びを続けられたら被害が出るのは確実だ。
しかし、捕まえるにも羊の眠気を誘う攻撃は厄介だ。
コオロギもコオロギで捕縛する攻撃と今も続けている演奏が厄介だ。
しかも此方は美鈴たちが捕縛されているから実質、俺一人だ。
一匹を捕まえても一匹に逃げる可能性がある。
二人を助け出して捕まえるって手段もありだが、その間に二匹が逃げる可能性もある。
それを阻止するために二匹同時に捕まえないといけない。
「さて、どうしたらいいものか……」
「きゅ!」
「ん?」
俺が作戦を練っていると抱きしめている獏が鳴きながら自分の事を見つめていた。
「こいつ、どうしたんだ?」
『僕も手伝う。これ以上、他の者を傷付ける悪戯は絶対に駄目』
「えっ……?」
『こいつがそう言っている』
グレンが獏の言葉を代弁しながらそう言った。
グレンの代弁を聞いた後、俺は獏の目を見ていた。
その目は確かにそう訴えかけているようだった。
「いいのか? お前と遊んでいた友達を傷付ける事になるかもしれないんだぞ?」
俺は通じるか分からないが獏にそう尋ねる。
すると……。
「きゅきゅ!」
「ん? うっわぁ!?」
『ドリーム・イーターのデータをDOWNLOAD中、ドリーム・イーターのデータをDOWNLOAD中……』
抱きしめている獏が段々と光の塊になっていき俺の体へ吸い込まれていく。
それと同時にスマホの電子音声が俺の頭に響いてくる。
そして……。
『ドリーム・イーターがDOWNLOADされました』
獏のダウンロードが終わり、スマホの電子音声が俺の頭が響いてきた。
「何で……?」
『だからこそ僕も戦う……これ以上友達が皆を傷付けるのを辞めさせる為に』
「えっ……」
『最後にそう言ってたんだよ。どうやらあいつも戦う覚悟をあるようだな』
グレンが獏の代弁を言った後、俺は両手を握り締める。
それだけあいつらの悪戯を止めたいのか。
友達だからこそ……。
「分かった……お前の覚悟、受け取った!」
そう言いながら俺の体は光に包まれていく。
その行動に危険を感じたのか羊はまた白い毛を膨らませていく。
そして、膨らんだ毛を俺の方に飛ばしてくる。
「陽太君、危ない!」
美鈴の危険を知らせる声を聞きながら俺は右手を前に出す。
そして、左手で右手を固定しながら飛ばしてきた羊の攻撃を吸い込んでいく。
「えっ、何?」
「陽太君の手が飛ばした攻撃を吸い込んでいきます……」
俺のその行動に美鈴と勇正が驚きつつも見守っていた。
そして、羊の飛ばした攻撃を全部、吸い込んだ後……。
『UNITE CHANGE! DREAM EATER!』
スマホの電子音声ともに俺の姿が露になっていく。
全体的に灰色で頭は獏をモチーフにした帽子で目元が見えない構造になっていた。体はずっしりとした金属の鎧に覆われていて、足にも金属のプロテクターが付いている。そして、両手には掌に大穴が空いているガントレットが装着されており、腕の部分は透明になっていた。
その姿は可愛いぬいぐるみみたい生物とは裏腹に重苦しい姿になっていた。




