夢を食べるもの
「これは……」
学校にたどり着いた俺はその光景を見て絶句していた。
なぜなら何処を見てみても人が寝ているのだ。
この光景を見て絶句しない人がまず居ないだろう。
『これは間違いない。俺の仲間の仕業だな』
「そうなのか? グレン」
『あぁ、ほぼ間違いないな……。とりあえずミスズを探すぞ!』
「あぁ、そうだな!」
そう話した後、俺はグレンと一緒に学校の中を探す。
しかし、何処にも居なかった。
「何処にも居ないな……」
『ヨウタ、あれ!』
グレンが何かを見つけたようで指差しながらそう叫んだ。
俺はすぐにグレンが指を指した方を見る。
すると、俺の教室の所で美鈴と勇正が倒れていた。
「美鈴! 勇正!」
俺は心配しながら急いで美鈴たちの所へ駆け寄っていく。
そして、美鈴たちの容態をすぐに見る。
しかし、何処も怪我をしてなかった。
それどころか気持ち良さそうに寝ていた。
「寝ているだけか……良かった……」
『どうやらエメラたちも寝ているようだ。俺たちが来てもスマホから出てこない』
俺が美鈴たちの容態を見て安心していると、近くに落ちていたスマホを見ながらグレンがそう言った。
しかし、まさかエメラたちまで寝ているとは思わなかった。
『しかし、このままだと何かあったのか分からないな……仕方ない。ヨウタ、起こすぞ』
「えっ……起こすのか?」
『当たり前だろ。このままだと分からないままだからな』
グレンはそう言い放つが、俺はその正論に抵抗が芽生えた。
美鈴たちは気持ち良さそうに寝ている。
それを無理矢理起こすのは流石の俺でも気が引ける。
しかし、このままだと状況が分からないのも事実だ。
「……仕方ない。起こすか……お~い、美鈴に勇正。起きろ~」
俺は仕方なく美鈴たちの体をゆすりながら起こそうとする。
しかし、俺の気持ちとは裏腹に美鈴たちは一向に起きようとしなかった。
「全然、起きないな……どうするか……」
『そうだ! あれを使うか!』
俺が美鈴たちと起こす方法を考えているとグレンが何か思いついたのかそう叫んだ。
「グレン、あれって……?」
『ほら、前にヨウタを起こす時に使ったティラノの叫び声だよ』
「あぁ、あの叫び声か……ってあれは流石にまずいだろ!」
『何故だ?』
「あんなので美鈴たちを起こしたらその後に何をされるか分かったもんじゃない! それに周りの人も起きて俺たちが動きづらくなるだろ!」
『そうか……いい案だと思ったんだがな……』
グレンの提案を全力で否定した後、再び何かいい案がないか考え始める。
すると突然、教室にあるテレビ画面が光りだす。
「何だ!?」
『ヨウタ、気を付けろ! 何か実体化して出てくるぞ!』
グレンがそう言った後、光はテレビから飛び出してきた。
そして、光は段々と何かの形へと変化していく。
俺とグレンはその光景をただ見つめている事しか出来なかった。
すると突然、まだ光り輝く何かが俺の方へと向かってきた。
「えっ、こっちに向かって……あっぶ!?」
『ヨウタ!?』
まだ光り輝く何かはそのまま俺に体当たりをしてきた。
その衝撃で俺は頭をぶつけながら倒れてしまった。
「いってぇな!? もう何だよ!?」
俺は右手で頭を押さえながら今、自分にのしかかっている何かを見る。
すると段々と体を覆っていた光は無くなっていき、そこに居たのは……。
「きゅ~」
可愛らしい声で鳴いている獏のぬいぐるみみたいな灰色の生き物だった。
「何だ? こいつは?」
『こいつはドリーム・イーターだな……』
「ドリーム・イーター? やっぱりこいつもグレンたちの仲間か?」
『あぁ、そうだな。こいつは名前の通り、どんな夢を食べる事が出来るんだ』
「夢を?」
『そして、夢を食べられた者はすぐに目覚める事が出来るんだ。それと同時にストレスや体の疲れを食べてくれるんだ』
グレンの説明の後、俺は改めて獏を見る。
どうやらこいつを見る限り、暴走してないみたいだな。
しかし、見れば見るほどぬいぐるみにしか見えない。
『しかし、こいつもこんな所に居るとは思わなかったな……』
「えっ、こいつはグレンが予想していた奴じゃないのか?」
『ヨウタ、言っただろ。俺が予想していた仲間は羊と音楽を奏でる奴だって』
グレンがそう言った後、俺は噂の時に話していた記憶を思い出していた。
確かにあの時、夢を食べるこいつの事は言ってなかったな……。
『そうだ! こいつにミスズたちを起こしてもらうか!』
「えっ……?」
グレンがそう発案すると獏の元へ行く。
グレンと何かを話した後、獏は俺から降りて美鈴たちの所へ向かう。
そして、美鈴たちの所に着いた獏はその小さな鼻で空気を吸い始めた。
「な、何だ!?」
『ヨウタ、心配するな。これはただ夢を食べる為の準備だ』
グレンがそう俺に説明した後、突然、美鈴たちの体とスマホが光り始める。
そして、光っていた美鈴たちの体とスマホから小さな光の塊が出てきて獏がそれを吸い込んだ。
すると……。
「……んぅ……」
「……あ……れ、僕たちは……」
獏が小さな塊を吸い込んだ後、徐々に光を失っていた美鈴たちは起き始めた。
それと同時に獏も吸い込むのを辞めた。
「美鈴! 勇正!」
「……あれ、陽太君?」
「いつの間に来たんですか……?」
名前を呼んだ後、まだ意識が朦朧としている美鈴たちが俺の存在に気付く。
「それより一体、何があったんだ?」
「えっと……ちょっと待ってね……」
俺が質問した後、美鈴たちは必死に何があったのか思い出そうとしていた。
『突然、教室のスピーカーから爽やかな音が聞こえてきたんです』
『そして、気が付いたら眠っていたのです』
美鈴たちのスマホからエメラとアルジャがホログラムの機能を使いながら現れた。
そして、エメラ、アルジャの順に俺とグレンに何があったのかを説明してくれた。
『なるほどな……じゃあ、まだこの学校の居る可能性はあるかもしれないんだな』
『その可能性は大いにあるわね……まだ意識が途切れてからそんなに立ってないから』
グレンとエメラが今の状況を話している様を俺が見ていると……。
「ねぇ、陽太君……」
美鈴が俺の袖を引っ張りながら名前を呼んだ。
「ん? どうしたんだ?」
「さっきから気になったんだけど、その可愛いぬいぐるみは何……?」
「きゅ?」
美鈴は俺の袖を引っ張るのを辞めて、そう質問しながら獏の事を指していた。
そう言えばこいつの事を言うのを忘れていたな。
「こいつはドリーム・イーターって言って、グレンたちの仲間なんだ。夢を食べる事が出来るんだ」
「ねぇ、触っていいかな……? というか抱きしめていい!?」
美鈴はそう叫びながら俺に顔を近づけてくる。
それに俺は圧倒されてしまう。
様子を見る限り、どうやら美鈴の可愛いものセンサーが反応してしまったようだ。
「あっ、あぁ……大丈夫だと思うぞ。こいつ、意外と人懐っこいし……」
「本当!? じゃあ、遠慮なく!」
俺は美鈴に圧倒されたまま、そう答えた。
すると、美鈴はすぐに獏の所へ向かい思いっきり抱きしめる。
「ああぁあぁぁあ! 上質のぬいぐるみみたいに肌触りがいい! しかもとても柔らかい!」
「きゅ! きゅきゅ!」
美鈴はそう言いながら抱きしめた獏を頬擦りしていた。
獏も獏で美鈴に抱きしめられて喜んでいた。
すると……。
「きゅ?」
「ん? どうしたの?」
さっきまで喜んでいた獏が何かに気付いたみたいで教室のスピーカーの方を見る。
そして、抱きしめている美鈴の手から無理矢理、抜け出そうとしていた。
「ひゃう、そんなに暴れないで! あっ、あっああぁ……」
一方、獏を抱きしめている美鈴は卑屈な声を出しながらそう叫んでいた。
その卑屈な声と行動を見ていた俺と勇正は顔を赤くしながら静かにそらしていった。
そんな中、獏は美鈴の腕の中から抜け出した。
そして、そのまま光の塊がなっていき、学校のスピーカーへと飛び込んでいった。
「あいつ、何処に向かったんだ……?」
俺は学校のスピーカーの方を見ながら獏が何処に向かったのか考えていた。
『もしかしてあいつ、何かを見つけたのか! ヨウタ、俺たちも向かうぞ!』
「あぁ、分かった!」
『UNITE ON! BURST DRAGON!』
俺は急いでグレンと融合し追いかける。
『勇正、我らも行くぞ』
「はい!」
『美鈴、私たちも!』
「ちょっと待って……もう少し息を整えさせて……」
息を整えた後、美鈴たちも落ちていたスマホを取って融合する。
それぞれがいつも通りの融合した姿になる。
そして、俺たちは獏の後を追いかける為に学校のスピーカーに飛び込んだ。




