放課後の勉強会 後編
「突然、眠ってしまい誰もがいい夢を見てから起きる……? 何だこれ?」
『恐らくこの記事の噂は私たちの仲間の仕業です』
俺が美鈴のスマホに表示された記事を読んでいるとエメラがそう答える。
しかし、グレンたちの仲間が何故そんな事をしているのか分からない。
突然、眠ってしまい、いい夢を見る。
これ自体はいい事だと思う。
『しかし、もう少し情報が無いと断定は出来ぬ』
「待って。他にも何か書いてあるよ」
アルジャがそう言った後、美鈴はそう言いながら自分のスマホを操作する。
スマホを操作した後、そこに書かれている内容はこの噂の詳しい詳細だった。
『何々……突然、スマホなどに羊みたいな影が現れて爽やかな音楽が鳴り始める。そして、いつの間にか寝てしまい、いい夢を見て起きるか……』
グレンが美鈴のスマホに近づき、声を出しながら噂の詳しい詳細を読んでいく。
「グレン、どうなんだ?」
『確かに可能性はある。しかも、これは……』
「これは?」
『複数、居る可能性がある』
記事を読んだ後、俺が尋ねるとグレンがそう答えた。
「しかし、この記事を読んだだけで仲間が複数居るって思ったんだ?」
『俺の仲間には確かに羊の姿をした奴や音楽を奏でる奴が居る。けど、全て違うモンスターたちだ』
「なるほどな。じゃあ、今回居るのは二匹だけなのか?」
『恐らくな。けど、この記事を見る限り暴走していないみたいだがな……』
「えっ? 何でそう思ったんですか?」
俺とグレンが話していると勇正が割り込んでくる。
『この記事を見る限り、データを食われたとか無いからな。恐らく暴走していないと思う』
「じゃあ、何でこんな事をやるんですか?」
『恐らく遊んでいるんでしょう』
グレンが質問に答えた後、今度はエメラが勇正の質問に答える。
しかし、遊んでいるとはいったいどういう事だ?
「遊んでいるというと?」
『私たちの予想が正しいならば、この噂の子たちは人間の子供と変わらない悪戯をする時があるんです。ですから、自分の能力を使って遊んでいるんです』
『そう言えばそうであったな。我もよく悪戯されていたな』
エメラが俺たちに説明した後、アルジャがそう言いながら苦笑していた。
グレンたちの様子から察するに三匹とも同じモンスターたちの事を考えていると見受けられる。
やはりグレンたちは一人一人の仲間の能力を把握しながら、あのロボット共と戦ってきたんだろうか……。
『ヨウタ、どうした? ぼっーとして?』
「あっ、いや何でもない。しかし、この情報を見る限りあちこち移動しているな……」
『そうだな』
俺は誤魔化しながら美鈴のスマホを見ていた。
しかし、これだけ移動していると何処に行けばいいのか分からないな。
えっと、最後にこの現象が起きた場所は……。
「あれ? ここって……」
『あの電気屋付近か』
そう。グレンの言う通り、最後にこの現象が起きた場所はこの前、霧崎が入っていた電気屋付近だった。
「あれ? 陽太君とグレンはこの場所を知っているの?」
「あぁ、前にこの辺りを歩いた事がある」
『なるほどな……』
俺が美鈴に説明した後、グレンが独り言を言っていた。
「グレン、何がなるほどなんだ?」
『あの時、何か感じたんだ。まぁ、気のせいだと思ったんだけどな……』
俺が尋ねるとグレンは霧崎と会った時を思い出しながら答えた。
確かにあの時、グレンは何かに気付いたな……。
それがこの現象の前触れだったのかもしれない。
俺がそう考えていると……。
「ただいま!」
玄関の方からドアが開く音が聞こえてくる。
それと同時に美紅の声も聞こえてくる。
「ようた、いるのぉ?」
そう言いながら、美紅の足音が俺たちの居るリビングの方へと段々と近づいてくる。
「やばっ! こっちに来る! 早くスマホの中に戻れ!」
『分かった』
美紅の足音が聞いた俺はすぐにグレンたちにスマホの中に戻るように指示を出す。
指示を出した後、グレンたちの体はすぐに光になってスマホの中に戻っていった。
「これで大丈夫だな……」
「やっぱいるじゃん」
俺が安心しきっているとリビングのドアの方から美紅の声が聞こえてきた。
声を聞いた後俺はリビングのドアの方を見る。
すると、美紅が両手でドアノブを持ちながらこちらを見ていた。
「美紅、お帰り」
「おかえりじゃない! いるんだったらさっさとへんじしろよな!」
俺がお帰りと言うと美紅はそう暴言を言いながらこちらを睨んでいた。
相変わらず兄に対しては暴言しか言わないな……。
「美紅ちゃん、こんにちは」
「ん……あっ、みすずおねえちゃんにゆうせいちゃん!」
美紅は美鈴と勇正の存在に気が付くとそちらへと向かっていく。
そして、美紅は美鈴の事を抱き着いてくる。
その様子を見ていた俺は信じられないものを見る目で美紅を見ていた。
「こんにちは。美紅ちゃん」
「ゆうせいちゃん、こんにちは」
「美紅ちゃん? 元気だった?」
「うん、いつもげんきだよー。みすずおねえちゃんは?」
「私も元気だったよ」
三人のやり取りを見ながら俺は目の前で起きている事が信じられなかった。
俺に対しては暴言を吐きまくる妹が美鈴と勇正に対してはこんなにも年相応らしい行動をやるなんて思わなかった。
しかも、美鈴に関してはお姉ちゃんだぞ。
俺だってお兄ちゃんって素直に言われた事無いのに……。
勇正に関してはちゃん付けってどうよ?
確かに勇正は中性的な顔だけど、流石にちゃん付けはやめてあげろよ。
「陽太君、どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲を食らったような目で私たちを見つめて……」
美鈴が俺の目を見て、不審に思ったのかそう尋ねてきた。
「いや、お前ら……いつの間に美紅と仲良くなったんだ?」
「陽太君が入院している時に仲良くなったんです」
俺が質問すると勇正がそう答えた。
なるほど……。
俺が入院している時に仲良くなったのか……。
それじゃ俺が知らないわけだ。
あの時はほとんど寝ていたからな。
という事は母さんも美鈴たちの事を知っているのか。
「あれ……そう言えば美紅。母さんは?」
「いえのまえででんわしている」
俺が母さんの事を尋ねると美紅はそう言いながら美鈴に頭を撫でられていた。
母さんが電話?
しかもこの時期に?
何だろう……嫌な予感がする。
「ただいま」
俺がそう考えていると母さんがリビングのドアを開けながら中に入ってきた。
手には中身が入っているエコバックが持たれていた。
「母さん、お帰り」
「美鈴ちゃんたちもいらっしゃい」
「「お邪魔しています」」
俺がお帰りと言った後、母さんと美鈴たちはお互いに挨拶をしあっていた。
「所で陽ちゃん」
「何?」
「さっき、電話があって今年もよろしくお願いしますって」
はい、嫌な予感的中したよ。
この時期に母さんが電話している時点で察しがついていたけど、それでも少し希望を持ちたかった。
「行かないと駄目?」
「出来れば行ってほしいかな?」
「ねぇ、陽太君。何の話?」
俺が母さんと話していると美鈴が話に入ってくる。
「毎年、八月の上旬頃に俺の叔母さんが経営している海の家に手伝いに行くんだよ。しかも、泊りがけでやるんだよ」
俺は美鈴に説明した後、ため息をついた。
正直、俺はこの手伝いをするのは嫌だった。
暑い中、焼きそばとか作らないといけないし接客もしないといけない。
何より俺は叔母さんが苦手だから、手伝いに行きたくない。
あの人は話を聞かないし、俺に対する態度も雑だからな……。
「陽太君……」
「ん?」
「それだよ!」
美鈴がそう言いながら俺の方を指差した。
その時の俺には美鈴の行動が何を意味しているのか分からなかった。




