夢の後
「……んっ」
俺が声を上げながら目覚めると知らない天井が目に入った。
「ここは……?」
俺はそう声を上げながら目で辺りを見回した。
すると、俺の口元と左手に何かがついている事に気付く。
「これって……」
俺はそれに見ようとして体を動かそうとした。
すると……。
「——ッ!」
体の至る所に激痛が走る。
それと同時に俺は言葉にならないほどの叫び声を上げる。
「な、ぁんだぁ……?」
俺が必死に声を出すが痛みは治まらなかった。
特に胸と左肩、腹に右手の辺りが痛くてしょうがなかった。
『ヨウタ、あまり動かない方がいい。まだダメージが残っているみたいだからな』
痛みで苦しんでいる俺に聞きなれた声が聞こえてくる。
俺はその声がする方を必死に向く。
すると、小さな棚の上に俺のスマホがあった。
「ぐぅ、れんか……」
『あぁ、そうだ。後、ここは病院の個室だ』
俺が名前を呼ぶとグレンはここが何処かを教えてくれた。
病院……なるほどな。
つまり俺の口元と左手についているのは呼吸器と点滴か……。
しかも、個室という事はグレンがこういう風に気軽に話しても誰にもバレないって事か……。
『所でヨウタ、さっきの夢を覚えているか?』
「……あっぁ、おぉぼえてぇいる」
グレンの質問に俺は何とか声を出しながら答える。
実際、夢の事は覚えている。
しかも、うっすらとではなく鮮明に覚えているのだ。
だから、俺が犯した罪やグレンとの約束もはっきりと覚えている。
『そうか。なら、説明はいらないな』
グレンはそう言った後、何も言わなくなった。
けど、俺の方はグレンに聞きたい事がいっぱいある。
「なぁ、おれぇ、びょうぅいんにぃいるぅんだぁ……?」
『そっか。夢の中ではその話を忘れていたな……』
痛みで苦しみながらも俺は必死にグレンに尋ねる。
すると、グレンの方もその事を伝えるのを忘れていたらしい。
『じゃあ、話す。ヨウタは何もせずに聞いているだけでいい』
「あぁ……」
痛みが段々と治まってきた俺はじっと天井を見ながらグレンの話を聞く事にした。
『ヨウタが倒れてからミスズたちは人が居る所まで運んだんだ。その後は救急車を呼んで、ヨウタは家の近くの病院まで搬送された』
なるほど……。
俺が病院に居るのはそう言う訳か……。
そして、グレンの話はまだ続く。
『搬送されてからは更に大変だった。病院から連絡を受けたヨウタの家族は泣き出すし、ミスズたちはその場に居た人って事で事情聴取を受けていた』
俺、色んな人に迷惑かけたんだな……。
天井を見ながら俺は段々と悲しくなっていった。
『ニュースもニュースであの辺一体のニュースで持ち切りだった。何が起きたのかって……』
「まぁ、だろうな……」
そこら辺の予想は付いていた。
あれだけ爆発音が聞こえればニュースで持ち上げられても仕方ない。
『そして、ここから大事な話だ』
「ん?」
『ヨウタ……君は二週間、意識不明になっていたんだ』
「はあぁ!? うぐぅ……!」
俺はグレンの言葉に驚いて体を動かしてしまった。
そのせいでまた痛みが体を襲ってくる。
『ヨウタ、大人しくしてろって』
グレンはそう言うが俺は体が反応するぐらい驚きを隠せなかった。
誰だって自分が二週間意識不明だって言われたら驚かない筈がない。
「ぐぅれん、そぉれはほぉんとなのかぁ……?」
『あぁ、本当だ。君は二週間、意識不明だった』
俺は痛みに耐えながら尋ねるとグレンはそう答えた。
その答えに嘘偽りもないのは声で理解した。
(しかし二週間、意識不明……随分と寝ていたんだな……)
俺がそう考えていると不意に病室の扉が開く。
俺は痛みに耐えながら恐る恐る見るとそこに居たのは……。
「母さんに美紅……」
母である天道寺 明菜と妹の天道寺 美紅がそこに居た。
「よ、ようた……ようた!」
美紅が俺の事を呼び捨てにしながら近づいてきた。
そして、俺の体を小さな手で叩いていく。
「いった……! 美紅、や、やぁめろ……」
「ばかあにき! どんだけしんぱいしたとおもっているの? はやくめをあけないからしんじゃったかとおもちゃったじゃん! せきにん、とりやがれ……!」
美紅はそう言いながら涙を流していた。
普段から口が悪い五歳児の妹。
けれどその口の悪さは照れ隠しであり、本当は家族の事を誰よりも心配してくれている優しい妹だ。
「陽ちゃん……本当に良かった」
「母さん……」
美紅の後から母さんが俺の方へやって来る。
母さんは普段からおっとりとしているが、どんな事があっても暖かい温もりをくれる。
その母さんの目が赤くなっている事に俺は気付く。
「あっ、陽ちゃんが目覚めた事を看護師さんに知らせないとね……」
母さんはそう言った後、扉を開けて看護師を呼びに行く。
看護師だったら俺の寝ているベットの何処かにあるナースコールを押せば来る筈だ。
けれど、そうしなかったのは俺が母さんの赤くなっている目を見ていたせいだと思う。
恐らく母さんは自分が泣いていたのを悟らせたくなかったんだと思う。
母さんが出ていった後、俺は改めて自分がどれだけ迷惑をかけたのかを実感した。
「美紅……」
「ん……?」
「本当にごめんな……」
俺はそう言いながら美紅の頭に手を乗せて撫でていた。
いつもなら撫でるとすぐに怒り始める美紅。
けれど、俺の様子を見て何かに気づいたのか美紅は素直に頭を撫でさせてくれた。




