暴走
『ヨウタ……! 返事をしろ……! ヨウタ……!』
俺が必死に呼びかけるがヨウタの返事は無かった。
どうやら今のヨウタには俺の呼ぶ声が聞こえていないようだ。
さっきのヨウタの感情は俺にも伝わってきた。
ヨウタから伝わってきたあの感情……間違いなく殺意だ。
あの侵略者に倒される前は憎悪や疑問でいっぱいだった。
けれど、侵略者に倒されてから殺意が心を支配している。
殺意は誰だって持っている感情だ。
だが、殺意に支配されて戦いに行った者は生きて帰ってこれなかった。
一刻も早く殺意から解放してやらないとヨウタが確実に死ぬ。
ただでさえ俺の力を無理矢理、出しているような状態だ。
体中に黒い紋様が現れたのもその影響かもしれない。
この紋様が体を蝕んでいるようにも見える。
『ヨウタ……! やめろ……!』
ヨウタは俺の忠告も守らずに侵略者に物凄いスピードで突っ込んでいく。
そして、侵略者の顔を勢いよく殴りつける。
侵略者も対応できなかったのかヨウタの殴り掛かった拳が直撃し、ミスズたちの方へと吹っ飛ばれる。
「きゃあっ!」「わぁあ!」
ミスズたちの横を吹っ飛ばれた侵略者が横切る。
幸いミスズたちには当たらなかったが侵略者はその先の地面にぶつかる。
ぶつかった瞬間に土埃が上がり、周りが少しだけ見えなくなる。
ヨウタはそんな事を気にせずに追撃する為に駆け出す。
「陽太君!」「天道寺君!」
ミスズたちの横を通り過ぎるがヨウタには何も聞こえてなかったようだ。
追撃しようとした瞬間、侵略者がヨウタを剣で斬りつけようと飛び出した。
だが、ヨウタは読んでいたのか分からないが侵略者の攻撃を避ける。
そして、侵略者の剣を持っている手首と首根っこを掴み地面に押さえつける。
それと同時に侵略者は剣を離してしまう。
「●□▽@!」
侵略者は必死に抜け出そうとするが抜け出せずに居る。
その間、ヨウタは息を大きく吸い込む。
そして、侵略者に向けて吐き出す。
すると、黒い炎が吐き出され侵略者を燃やし尽くす。
「△●□?」
侵略者はヨウタの攻撃が効いているのか叫び声を上げる。
それと同時に抜け出すために更に暴れまわる。
けれど、ヨウタはそんな事を気にせずに黒い炎を吐き続ける。
自分の体にも黒い炎を浴びている状態だが今のヨウタにはそんな事も関係なかった。
段々と黒い炎を浴びていく毎に侵略者の動きも段々と鈍くなっていく。
黒い炎を吐き終わる頃にはもう侵略者は動かなかった。
それを見たヨウタは立ち上がりながら片手で侵略者の手を持ち上げる。
そして、子供が人形で遊んでいるように地面に叩きつける。
「いや……」
「天道寺君……」
侵略者が何回も地面に叩きつけている様子をミスズたちが見ていたがヨウタはやめようとしなかった。
叩きつけていく毎に侵略者の体から光の欠片のようなものが飛び出る。
そして、侵略者の体がボロボロになるとヨウタは振り回しながらさっき吹き飛んでいった場所へと投げつける。
『ヨウタ……! やめろ……! やめてくれ!』
俺はヨウタに必死に呼びかけるが全く反応しない。
ヨウタはゆっくりと侵略者の元へと歩いていく。
そして、ヨウタが侵略者の元にたどり着いた瞬間だった。
「◆●□☆!」
突然、侵略者の手が光りだして地面に落ちていた剣が消える。
そして、侵略者の光っている手に剣が持たれてヨウタの腹を突き刺す。
「『——ッ!』」
「陽太君!」「天道寺君!」
ヨウタの腹に剣が刺された事に神崎たちは叫ぶ。
ヨウタも流石に効いたのか俺と一緒に声を出す。
すると、侵略者はさっきの行動で力を使い果たしたのか剣を離して赤い線が黒くなっていった。
ヨウタは数秒間、何も動かなかったがその後、体に刺さっている剣をゆっくりと抜き始める。
そこから光の欠片のようなものが出てくるがそんな事を気にせずに抜いた。
そして、剣を右手に持つ。
『ヨウタ……まさか……?』
俺の予想は当たっていた。
ヨウタは右手に持った剣を上げて侵略者を切ろうとしていた。
だが、その時だった。
『『UNITE ON!』』
後ろからスマホの電子音声が複数聞えてきた。
その瞬間、後ろからヨウタの両腕が掴まれた。
『WIND PHOENIX!』
『CROSS KNIGHT!』
スマホの電子音声が聞えるとミスズたちが両腕にしがみついていた。
必死にヨウタは解こうとするがミスズたちも負けじと離さずにいた。
「陽太君、もういいよ! もう相手は戦闘不能だよ!」
「そうですよ! これ以上やってしまったら天道寺君もこのロボットと同じになってしまいます!」
ミスズたちが必死に呼びかけるがヨウタは一向にやめようとしなかった。
それどころか更に暴れだして解こうとしている。
『グレン、何とか出来ないんですか!?』
『グレン殿!』
『やれたら……とっくに……やってる……』
エメラとアルジャの質問に俺は必死に声を上げながら言った。
どうやら俺の精神もそろそろ限界に近い。
その前にヨウタを早く何とかしないと……。
俺がそう考えている時だった。
「————!」
ヨウタが言葉にならないほどの叫び声を上げながら右手に持っていた剣を離す。
それと同時に翼を広げる。
そして、翼を羽ばたかせてミスズたちをしがみついたまま空を飛び始める。
「きゃあああああっ!」
「うわわわわわっ!」
ミスズたちはそう叫んでいたが空にそれでもヨウタの事を離さずに居た。
カノン砲で空いた穴の中から出るとヨウタはクルクルと回り始める。
「くっ……!」
「もう駄目です……!」
ミスズたちのしがみついている手が緩んだ時、ヨウタはそれを待っていたかのように回っていた反動を利用してそれぞれ違う場所へと投げつける。
「きゃあっ!」
「いたっ!」
ミスズたちは地面に叩きつけられる。
ミスズの方は軽かったせいか土煙があまり上がらなかった。
けれど、ユウセイの方は重かったせいで地面に食い込みながら土埃が多く上がった。
ヨウタはそれを見てからミスズたちの近くに降りる。
そして、ヨウタは一歩。
『まさかヨウタ……』
俺がそう言うとヨウタはまた一歩、ミスズたちに近づく。
『やめろ……』
俺の言葉は届かないのは心の奥底では気付いている。
だが、それでも俺は声を出す。
『やめろ……』
段々とミスズたちに近づくヨウタ。
けれど、その様子がいつもミスズたちに向けているのとは違っているのは分かる。
「嘘、でしょ……?」
「天道寺君……」
ミスズたちもヨウタの行動に気が付いたのか身構える。
なぜなら……。
『やめろぉ——!』
殺意を持ちながらミスズたちに近づいているのだから。
そして、俺が叫んだ後にヨウタはミスズたちの方へと走り出したその時だった。
『UNITE ON!』
スマホの電子音声が聞こえてきた。
それと同時にヨウタの前に光に覆われた人が瞬時に現れる。
ヨウタはそんな事を気にせずに光に覆われた人に殴り掛かるが片手で受け止められる。
『SAVIOR LIGER!』
電子音声が聞えると光に覆われていた謎の人物の体が段々と露になっていく。
体は金属のような白い鎧に包まれて、薄い縞模様がある。手の甲には伸縮が出来る短い鉤爪。そして、顔はライオンのような兜に覆われていた。
その姿はまるで俺と融合したヨウタの姿に似ていた。
『えっ……ヴァイス……?』
だがしかし、俺はその姿を見て侵略者と戦ってきた友の面影を思い出していたのであった。




