予兆
『ヨウタ、やめろ!』
「うおおおおおぉぉぉ!」
俺はグレンの忠告を守らずに勢いをつけてロボットの方へと跳んでいく。
そして、勢いをつけたままロボットに殴りかかる。
だがその瞬間、ロボットは俺の視界から消える。
「何!?」
俺の殴りかかった拳は大きく空振りして、そのまま地面に倒れてしまう。
「くそッ! あいつは何処だ!」
立ち上がりながら俺はロボットを探し始める。
だが、周りを見ても何処にもロボットの姿は無かった。
『ヨウタ、後ろだ!』
「えっ?」
俺が後ろを向いたその瞬間、胸から腹の辺りを剣で斬られた。
斬られた所から光輝く欠片みたいなものがいっぱい出てくる。
俺は斬られた後、そのまま地面に倒れる。
俺は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
けれど、斬られた所から段々と痛みが襲ってくると自分が斬られて倒れた事を自覚し始める。
「——ッ!」
「陽太君!」「天道寺君!」
俺は言葉にならないほどの叫び声を上げる。
それに気づいた神崎と小西は俺の名を呼ぶ。
俺が叫び声を上げているとロボットが俺の体に跨る。
そして、剣を逆手に持ち俺の左肩にぶっ刺した。
「——ッ!」
俺は更に言葉にならないほどの叫び声を上げる。
そして、体がそこから抜け出そうとしていたが抜け出せずに居た。
「やめて……もうこんな事……」
今の光景を見ていた神崎が泣きじゃくりながらそう言った。
小西も小西で静かに泣きながらこちらを見ていた。
『ヨウ——しっか——ろ——』
グレンの声も段々と弱弱しくなっていく。
それでもグレンは俺の心配をしていた。
グレンの心配する声を聞きながら俺の体は段々と力を無くしていく。
「なっ、ぜだ……」
俺は必死に力を振り絞りながら剣を右手で握る。
剣を握った瞬間、そこから光輝く欠片が出るがそんな事を気にせずに握りしめていた。
「なぜ……あのドラゴンを……殺した……?」
俺は声を荒くしながらドラゴンを殺した事をロボットに尋ねる。
だが、ロボットは何も答えなかった。
「いや……ドラゴンだけ……じゃなぃ」
俺は必死に声を挙げながらロボットに話しかける。
俺のそんな様子を見ているのかロボットは一向に動こうとしない。
「なぜ……グレンたちの星を……滅ぼしたんだ……?」
「……」
俺が問いかけてもロボットは何も答えずにいる。
「答えろ……」
「……」
「答えろって言ってんだぁ! このクソロボットぉぉぉ——!」
俺は思いっきりそう叫んだ。
空にも届きそうな声だったがそれでもロボットは何も答えかった。
そして、ロボットは俺の右肩に刺した剣を更に深く突き刺す。
「——ッ!」
また俺は言葉にならないほどの叫び声を上げながら右手を剣から離す。
ロボットはその声を聞いてるのか分からないが剣をぐりぐりと刺していく。
「——太君! 陽——!」「天道——! 天——君!」
神崎たちは必死に俺を呼んでいるが段々と聞こえなくなってくる。
俺も神崎たちを呼ぼうとしたがもう声ですら出せなかった。
(あぁ、もしかして俺はもう死ぬのか……)
段々と意識が朦朧していく中で俺はそう考えていた。
俺、こんなロボットに殺されて死ぬのか……。
死んだらどうなるんだろうか……。
天国や地獄みたいな場所があるんだろうか……。
それとも何もない場所に行くのかな……。
けど、死ぬ前なのにさっきみたいに思い出の走馬灯が見えないな……。
一度見たからもう見えないのかな……。
「よ——!」「——くん!」
俺がそう考えていると神崎たちの姿が目に映る。
神崎たちは何かを叫んでいるようだがもう俺の耳には何を言っているのか分からなかった。
もし俺が死んだらあのロボットはグレンたちや神崎たちを殺すのかな……。
ドラゴンを殺した時のように……。
(殺してやる……)
神崎たちが殺される前にあのロボットを殺してやる……。
そのためには力が欲しい……。
あのロボットが殺せる力が……。
『ヨウ——! や——!』
俺の体がどうなったっていい……。
ただ奴を……。
『ヨウタ!』
殺すだけだ。
「あああああぁぁぁ——!」
「何……?」
「天道寺君……?」
俺が叫び声を上げると黒い紋様が体中に浮かび上がっていった。
神崎たちはその光景をただ見つめていた。
そして、俺の体の異変に気付いたのかロボットは剣を引き抜き下がる。
『ヨ——気を——に!』
殺す……。
『や——! ——タ!』
殺してやる……。
『ヨ——!』
殺してやる——。
俺はあのロボットに殺意を抱きながらゆっくりと立ち上がった。
その姿はまるで逆鱗に触れた時のドラゴンにも見えた。




