流れ込んでくる思い
『ヨ……タ……ろ!』
何だ……?
誰かが叫んでいる……?
『しっか……ろ!』
俺の意識が段々と回復していく毎に声も段々と鮮明になっていく。
『ヨウタ!』
「はっ!?」
グレンが名前を叫ぶと俺の意識は完全に取り戻した。
そして、自分が今、地面に倒れていて融合が解かれている事に気付く。
もちろんいつも通りスマホは俺の手の中にあった。
俺は立ち上がろうとするがよろけて立ち上がれなかった。
どうやらさっきの爆発で体が疲れてしまったようだ。
『ヨウタ!』
「大丈夫だ……少し体が上手く動かせないだけだ」
俺は体を立ち上げらせるのを辞めて周りを見る。
土煙でよく見えないがどうやらクレーターの穴の中に居るらしい。
「グレン、作戦はどうなったんだ?」
『作戦は……』
グレンが作戦の事を話していると段々と周りの土煙が無くなっていく
そして、そこには……。
『失敗だ』
グレンの言葉とともに傷だらけのドラゴンが俺の目の前に居た。
「嘘だろ……あれでも駄目なのか……」
俺はドラゴンが倒れない事に絶望し始める。
『だが、あいつも瀕死の状態だ! 一撃でも与えれば倒れるはずだ!』
「じゃあ、早速——」
グレンの言葉に希望を持った俺がアプリを起動しようとしたその時だった。
「————!」
ドラゴンはいきなり叫び始める。
俺はその叫び声でアプリの起動を止めてしまった。
叫び続けるドラゴンは今にも壊れそうなカノン砲を俺とは違う方向へ向ける。
不思議に思った俺はカノン砲を向けた方を見る。
そして、そこには……。
「神崎!? 小西!?」
融合が解かれていた神崎と小西が地面に倒れていた。
「まずい!」
俺は体を無理矢理動かして二人の前に立つ。
「よ……陽太君」
「に、逃げてください……」
俺が前に来た事に気付いた神崎と小西は掠れた声でそう言った。
「嫌だ! 俺は逃げない!」
俺は急いでアプリを起動しようとする。
その間にもドラゴンのカノン砲のエネルギーが溜まっていく。
「俺は……俺は……」
俺がアプリの起動を待っているとドラゴンのカノン砲が溜まり弾丸をこちらに向けて放った。
「俺は仲間を守りたい!」
自分の体に弾丸が当たる直前、アプリが起動してUNITE ONの文字を勢いよく弾きながら俺はそう叫んだ。
そして、体に弾丸が当たり爆発が起きた。
「ようたくんぅぅぅ!」「てんどうじくんぅぅぅ!」
爆発の中、段々と薄れていく意識の中で俺は神崎と小西の呼ぶ声が聞こえてきた。
それとともに俺の思い出が走馬灯のように駆け巡っていく。
グレンと初めて出会った事。
初めてグレンと融合して神崎を助けた事。
神崎と一緒にグレンたちの仲間探しを手伝う事になった事。
神崎がエメラと融合して驚いた事。
小西が俺の姿を見て小説にしたいと告白した事。
小西と一緒に博物館を回った事。
小西がアルジャと融合して館長さんの願いを叶えた事。
他にも色んな思い出が俺の中で駆けていく。
『ヨウタ、聞こえるか?』
「グレン?」
俺の中で思い出が駆けていく中、何処からかグレンの呼ぶ声が聞こえてきた。
『ヨウタの気持ちが俺にも流れ込んできた。この気持ちは俺もよく知っている気持ちだ』
「えっ?」
『仲間を守りたい。仲間を救いたい。恐怖心よりも先にそんな気持ちでいっぱいになった事が何回もあった』
「グレン……」
『ヨウタ、俺も同じ気持ちだ。だから、俺と一緒にミスズたちもブラストカノンも救おうぜ!』
グレンがそう叫んだ後、さっきまで手に持っていたスマホが俺の目の前に現れる。
「あぁ、そうだな!」
俺はそう言いながらスマホを掴んだ。
そして、スマホを掴んだとともに俺の体が光に覆われていく。
『UNITE ON! BURST DRAGON!』
スマホの電子音声が聞えてくると周りの爆発を吸収しながら光に覆われていた体が露になる。
「陽太君!」「天道寺君!」
俺の後ろから神崎と小西の感激の声が聞こえてくる。
だが、今はあのドラゴンの方を何とかしないとな……。
「行くぜ! グレン!」
『あぁ、ヨウタ!』
俺はグレンと掛け合いしながらドラゴンの方へと走っていく。
さっきまであんなに動けなかったのに今ではスムーズに動ける。
ドラゴンも俺の方に向かおうとするが動きが鈍かった。
「動きが鈍い!」
『さっきのダメージが残っているんだ。今だ! ヨウタ!』
「あぁ! 決めるぜ!」
俺はそう言いながら翼を広げて勢いよく飛び立つ。
すると体が段々と赤く光り始める。
そして、俺の体が変化し……。
「なにあれ……」
「赤い竜……」
俺の体はグレンのような赤い竜の化身になっていった。
俺は口から炎を出して貯めていき小さな炎弾を作った。
『STRIKE BURST!』
スマホの電子音声が聞えてきて俺は首を後ろに向ける。
そして……。
「『喰らいやがれ!』」
炎を吐き出すようにその炎弾を勢いよくドラゴンに放った。
その反動で俺は上下に三回転ぐらい回ったが体制を取り戻す。
炎弾はそのままドラゴンの体に当たり爆発する。
「————!」
ドラゴンは叫び声をあげながら光の塊へと変わっていった。
「よっしゃ!」
『ヨウタ、やったな!』
ドラゴンが光の塊になった後、俺は神崎たちの元へ降りる。
すると、俺の体は赤い竜の化身からグレンと融合した姿に戻っていく。
「神崎。小西。大丈夫か?」
「えぇ、何とか……」
「陽太君も大丈夫?」
「あぁ、何とかな」
お互いの状態確認をした後、神崎たちは立ち上がろうとする。
すると、神崎の体がよろめく。
「あぶねぇ!」
俺は神崎の腕を掴み、倒れるのを防ぐ。
すると、神崎の顔が少し赤くなる。
「あっ、ありがとう」
「いや、大丈夫だ」
神崎はそう言いながら俺の手を借りながら立ち上がる。
その後、神崎は俺の方を向かずにいた。
「どうしたんだ?」
「微笑ましいですね……」
小西には神崎は俺の方を向かずにいる理由が分かっているようだったが俺には分からなかった。
神崎の奴、一体どうしたんだ?
「それより天道寺君! 今のは何ですか? まるでグレンのような赤い竜の化身になっていましたけど……」
「分からない。けど、あれが追加された機能なんだと思う」
「あれが……」
俺がそう言うと小西は考え込むように手を口元にあてる。
小西が考え込むのも無理はない。
今までSTRIKE BURSTの事は何も分からない状態だった。
それが今回の戦闘で何か分かるかもしれないんだ。
「俺が炎弾を放つ前にSTRIKE BURSTってスマホの電子音声が聞こえたから間違いなくそうだ」
「なるほど……どうやらこの機能はゲームの必殺技みたいなものだと考えていいですね」
俺の質疑応答の後、小西はアプリの追加機能を自分なりの考えでまとめた。
ゲームの必殺技か……確かにそういうものと考えてもいいのかもしれない。
「天道寺君、発動条件は分かりましたか?」
「発動条件?」
「恐らくあの機能には発動条件があると思います。何かありませんでしたか?」
「何かって言われてもな……」
小西にそう尋ねられるが特に変わった事はなんて無かった。
今回の融合は確かに爆発の中でなったものだがそれが関係してるとは思えない。
『俺にヨウタの感情が流れ込んできた』
俺が考えているとグレンが話に入ってくる。
「天道寺君の感情がグレンに流れ込んできたと言うと?」
『あの時、ヨウタの救いたいっていう気持ちが俺に流れ込んできた。そして、俺もそれに応えたいと思ったんだ』
確かに融合する前、グレンが俺の感情が伝わってきたって言ってたな……。
「なるほど……もしかしたら感情が発動条件なのかもしれませんね……」
感情で発動する必殺技か……。
小西の考えは意外に合っているのかもしれないな……。
『それよりヨウタ。はやくブラストカノンのデータをダウンロードしようよ』
「あぁ、そうだな」
俺がドラゴンのデータをダウンロードしようと近づいたその時だった。
「なっ、何だ!?」
突然、空から物凄い速さで何かが光の塊の近くに落ちてきた。
俺たちは何かが落ちてきた方をすぐに見る。
けれど、土煙が上がっていて何が落ちてきたのか分からなかった。
段々と鮮明に見えていくと光の塊の近くに落ちてきたのは……。
「白き人型ロボット……?」
俺はそう言いながら光の塊の近くに落ちてきたロボットをただ見つめていた。
そう。これが俺たちと侵略者との初めての接触だった。




