恐怖と賭け
「これ、うそだよね……?」
神崎がそう尋ねてくるが俺には聞こえなかった。
さっきの爆発で出来た大きなクレーターをただ見つめながら地面に座り込んでいた。
「これがあのドラゴンの力……」
小西が後ろから俺たちの所へとやってくる。
小西も小西で大きなクレーターを見て呆然としていた。
こんな力を持った奴を俺たちは止める事が出来るんだろうか……?
もし出来なかったら俺たちは……。
やめよう! そう考えたら駄目だ!
『ヨウタ……震えているのか?』
「えっ?」
グレンがそう言った後、俺は自分の体を見る。
確かに俺の体は小刻みに震えていた。
俺は自分でも震えている事に気付かなかったのか……。
『ヨウタ、怖いんだな……』
「えっ?」
俺が怖がっている?
今まで色んなモンスターと戦ってきた俺が?
「グレン、俺は怖がっていな——」
『ごまかすな!』
「!?」
グレンの叫び声に俺は圧倒されて言葉を失う。
『ヨウタ、その恐怖心は誰にだってある物だから恥じる事はない。俺だって自分より強い相手が目の前に居たら恐怖心を覚える』
グレンの一言一言がとても重く感じられた。
まるで今までそんな敵と戦ってきたように語っていった。
『だが、その恐怖心は忘れてはいけない。その恐怖心が自分の慢心した心を無くしていくのに重要だからな』
「だけど、グレン……。このままじゃ俺は戦えない……」
グレンの言葉を聞いても俺の体の震えは収まらなかった。
『ヨウタ、大丈夫だ。俺たちは一人じゃない』
「えっ?」
「そうだよ。陽太君」
「僕たちも居ます」
神崎と小西がそう言いながら肩に手を乗せてくる。
よく見ると神崎も小西も体が震えていた。
「神崎、小西。体が……」
「分かってます。僕たちだって怖いです。けど、それでも」
「私たちは一人じゃないし何とかなると思うんだ」
神崎と小西は俺を励ますようにそう言った。
神崎、こんなに体が震えているのになんで俺を元気づけようとするんだ……。
小西、お前だって本当は逃げたいはずなのに何で立ち向かえるんだ……。
「何でお前らは立ち向かえるんだ……?」
「「それは……」」
「それは?」
「「苦しんでいるあのドラゴンを救いたいから!」」
神崎と小西は今日一番の笑顔で俺に言い放った。
そうだ。
俺はドラゴンを倒しに来たんじゃない。救いに来たんだ。
それにウミガメと約束したんじゃないか。
あのドラゴンを救うって……。
一人だったら救えないかもしれない。
けど、俺にはこんなにも頼もしい仲間が居るんだ。
この仲間たちとならドラゴンを救える方法があるはずだ。
『ヨウタ、いつの間にか体の震えが無くなっているな』
「えっ?」
グレンがそう言った後、俺は自分の体を見る。
確かにグレンの言う通り体の震えが無くなっていた。
『ヨウタ、行けるな』
「あぁ」
俺は神崎と小西の手を借りながらその場に立つ。
そして、真っ直ぐドラゴンの方を見る。
不思議だ……。
さっきまで恐ろしく見えていたのに今はそんな風に見えない。
「さて、どうするか?」
俺がそう言った後、神崎と小西もドラゴンの方を見る。
ドラゴンはカノン砲を冷却しているのかその場から動かなかった。
「弱点が無いのかな?」
『弱点は特にありませんがあの子は素早い動きする相手が苦手です』
神崎がドラゴンを見ながら質問するとエメラがそう答えた。
「けれど、素早い相手だけじゃあいつには勝てませんよ」
『確かにブラストカノンを一撃で倒せる力が無いときついかも知れん』
小西がエメラたちの意見に反論しアルジャもその話に上乗せする。
ドラゴンを翻弄出来る素早さを持っていて一撃で倒せる力……。
「そうだ! あいつだ!」
『ヨウタ、あいつって誰だ?』
俺が作戦を思いつくとグレンが尋ねてくる。
「ラットたちだよ! あいつのスピードでかく乱しながら隙を見て三人同時に尻尾の導火線に火をつけて近距離で爆発すればドラゴンを一撃でやれるかもしれない!」
『なるほど! 確かにあいつは短気だから隙は生まれやすいし三人同時爆発なら倒せるかもしれない!』
「よし、だったら——」
『陽太様、ちょっと待ってください!」
グレンのお墨付きを貰った俺は早速ラットたちに姿を変えようとするがエメラが止めに入った。
「エメラ、どうしたんだ?」
『いくら何でも危険すぎます。恐らくあの子達と融合した美鈴たちが出来る爆発は一発のみ。それ以上は美鈴たちの体が持たないです。けど、もし爆発でも倒せなかった場合、美鈴たちはブラストカノンにやられてしまいます』
『我もエメラ殿と同じだ。危険すぎる!』
エメラは俺に忠告するとアルジャもその忠告に賛同する。
「確かに危険だ。けど、あいつをやれそうな方法はこれしかない!」
『ですが……』
「私は陽太君の作戦に賛同する」
「美鈴!?」
エメラと俺の話に神崎が割り込んでくる。
「私もあのドラゴンを倒すにはそれしかないと思うんだ。だから、私は陽太君の作戦に賛同するよ」
「神崎……」
「僕も賛同します」
『勇正、貴殿もか!?』
俺の作戦に神崎が賛同すると小西も賛同し始めた。
「正直、もう少し考えたらいい作戦が出ると思います。けれど、そんな悠長な事している間に被害が出るんだったら天道寺君の作戦を受け入れます」
「小西……」
『ちなみに俺は当然ヨウタの作戦に賛同するよ。さぁ、エメラたちはどうするんだ?』
グレンがそう言った後、エメラとアルジャは諦めたのかため息をする。
『分かりました。私も陽太様の作戦を受け入れます』
『勇正が賛同するんだったら我も賛同するかないからな……』
「エメラ、アルジャ……」
『但し爆発は一発のみですよ。それ以上は駄目ですよ』
「分かった! よし、行くぜ!」
「うん!」「はい!」
そう話した後、俺たちの体が光に覆われていく。
そして……。
『『『UNITE CHANGE! NITRO RAT!』』』
スマホの電子音声が周りに聞こえた後、光を覆われていた俺たちの体が露になる。
俺たちの姿は頭にラットたちの耳のような炎がついており、顔の頬には髭のような紋様。口元にはマスク。お尻の辺りには導火線のような長い尻尾。手足の爪も少し伸び、服装は両手首に炎で出来たブレスレットと下を隠す短パンのみだ。
神崎の姿にはそれに加えて胸元を隠す布が追加されている。
「じゃあ、作戦のおさらいな。俺たちのスピードでかく乱しながらドラゴンの隙を伺う。そして、隙が出来たら尻尾の導火線に火をつけて近距離で三人同時爆発。いいな?」
ラットたちと融合した後、俺は作戦のおさらいを言った。
「火を着けるタイミングと近づくタイミングはどうする?」
『俺が合図を言う』
神崎が俺たちにそう質問するとグレンがやると言い出した。
「グレン、大丈夫か?」
『ヨウタ、任しといてくれ!』
「じゃあ、作戦開始だ!」
「うん!」「はい!」
俺たちは一斉にドラゴンの方へ走っていく。
「————!」
ドラゴンも俺たちが近づいてくる事に気付いたのかこちらに威嚇しながら叫ぶ。
だが、俺たちはそんな事を気にせずにドラゴンの周りに散らばりスピードでかく乱し始める。
ドラゴンは俺たちを目で追おうとするが捉えきれないみたいだ。
『どうやらヨウタたちのスピードにはついていけないみたいだな』
「そうだな」
俺たちはスピードでかく乱していくとドラゴンは段々と混乱し始める。
『皆、今だ! 尻尾の導火線に火をつけろ!』
「あぁ!」「うん!」「はい!」
グレンの掛け声とともに俺たちはすぐに手首にある炎で出来たブレスレットを尻尾の導火線に近づける。
お尻付近に火を付けるというのは何かのプレイにも見えなくもないが今はそんな事を気にしてる場合じゃない。
俺がそう考えていると尻尾の導火線に火が付いた。
「よし、火が付いた!」
「こっちも火が付いたよ!」
「僕の方も付きました!」
『よし、尻尾の導火線が短くなるまでブラストカノンの近くで逃げ回れ!』
「分かった!」「うん、分かったよ!」「了解です!」
俺たちはグレンの指示通りにドラゴンの近くで逃げ回る。
すると、ドラゴンは俺たちの行動を見て何かに気付いたのか逃げ出す。
『まずい! 追いかけろ!』
俺たちはすぐにドラゴンを追いかける。
そして、ドラゴンの右側を俺と神崎。左側を小西が走っている。
「これからどうします!? このままだと逃げられてしまうかもしれません!」
『仕方ない! あいつにしがみつけ!』
「えっ、何処にしがみつけばいいんですか!?」
『何処でもいい! とりあえず飛びつけ!』
小西の質問に投げやりな感じでグレンが答える。
しかし、尻尾の導火線も短くなってきてるし四の五の言ってる状況じゃない。
俺は決心してドラゴンに飛びつく。
俺に続いて神崎、小西がドラゴンに飛びつく。
そして、俺は首。神崎は左腕。小西は右手のカノン砲にしがみついた。
俺たちがしがみついた事でドラゴンは更に暴れだす。
「くそッ! 暴れまわるな!」
「きゃあ!」「うわっと!」
俺たちは振り落とされないように必死にしがみつく。
だが、神崎と小西は今にも振り落とされそうだ。
それもそのはずだ。
俺がしがみついているのは首に対して神崎と小西は掴んでいるのは腕と手の部分だ。
首ならあまり動かないが腕と手の部分はよく動くから気を抜けば振り落とされてしまう。
「神崎! 小西! 踏ん張れ!」
俺がそう言った後、ドラゴンが方向転換する。
そして、さっきよりスピードを上げて何処かに向かう。
「こいつ、いきなりどうしたんだぁ!?」
『まずい! こいつ、自分で開けたクレーターに飛び込んでヨウタたちを剥がすつもりだ!』
「なにぃ!?」
物凄いスピードでドラゴンが向かっているのは自分のカノン砲で出来たクレーターとグレンから聞かされた俺は驚きを隠せなかった。
「グレン、どうするぅ!?」
『後もう少しでヨウタたちも爆発する! それまで死ぬ気でしがみつけ! これさえ乗り越えれば俺たちの勝ちだ!』
グレンがそう言った後、俺は尻尾の導火線を見る。
確かに尻尾の導火線はもうすぐで無くなりそうだった。
それを見た俺は更にしがみつく力を強める。
しがみつく力を強めた瞬間、ドラゴンがクレーターを勢いよく飛び、そのまま落っこちていった。
「絶対にぃぃぃ!」
「離さないですぅぅぅ!」
神崎と小西はそう叫びながら必死にドラゴンの体を掴んでいる。
そして、その叫び声とともに俺たちの尻尾の導火線が無くなり体が光りだした。
『これでも……』
「喰らいやがれぇぇぇ!」
俺とグレンの叫びとともに、俺たちの体は光を纏いながら爆発していった




