ウミガメの捜索
「んんぅ! このイチゴクレープ、美味しい! 陽太君ありがとうね」
放課後、俺たちはまた隣町に来ていた。
スマホで連絡して集合場所の駅前に集まったが、神崎は俺の方を見るとまだ昨日の事を気にしているのか顔を合わしてくれなかった。
俺がどうしたらいいのか戸惑っていると、小西が駅前に路上販売を指しながら神崎とした昨日の約束の事を話してくる。
その後俺はすぐにクレープ屋に行き、お勧めのイチゴクレープを買ってきて神崎に渡した。
神崎は戸惑っていたが昨日の約束の事を言うとイチゴクレープを受け取り食べ始める。
そして、神崎はすっかりイチゴクレープを味に虜になり、俺の事を気にしなくなった所で今に至る。
ちなみに鞄は駅の中にあるコインロッカーに入れてきて、今はスマホと財布、コインロッカーの鍵しか持ってない。
「そう言えばまだ今回の噂について聞いていませんでしたがどんなのですか?」
俺の隣を歩いていた小西が今回の噂について尋ねてくる。
「あぁ、今回の噂はこの町の森でウミガメを見たっていう噂を見たっていう噂なんだ」
「森にウミガメですか?」
「私も聞いた事がない噂ね……」
どうやら今回の情報は神崎ですら知らなかったらしく、本当に森でウミガメを見たっていうのはデマだったんじゃないかと俺は若干心配になる。
「陽太君、誰から聞いた噂なの?」
「霧崎だ」
「光輝君から?」
「えっ、天道寺君はあの霧崎君と知り合いだったんですか?」
二人は驚いた表情で俺の方を見てくる。
二人が驚くのも無理はない。
何せ改めて考えてみると俺でも珍しい組み合わせだったと思う。
「いや、今日たまたま屋上で会ってな。ほらあいつ、いつもパソコンを弄っているから情報とか持ってそうだろ。それでネットの噂になっている事あったら教えてくれって聞いたんだよ。そしたら、その情報を教えてくれたんだ」
「へぇ、光輝君はなかなかの情報通なんだ。私も負けてられない!」
俺がそう話すと神崎は変なスイッチが入ったのか霧崎に対抗意識を燃やしていった。
その対抗意識で神崎の持っているイチゴクレープが溶けそうだ。
「けど、森と言ってもどの辺に居るか分かりませんよ」
「確かにな……グレン、何か感じないのか?」
俺は小西と話した後、鞄の中からスマホを取り出しグレンに尋ねる。
グレンのこうゆう時の感は侮れないからな……。
『いや、今の所は何も感じない。とりあえず森に行ってくれれば何か感じる事ができるかもしれない』
「分かった。じゃあ、とりあえず森に行ってみるか。二人とも、それでいいか?」
「いいですよ」
「ちょっと待って!」
グレンの話を聞いた俺がそう尋ねると、小西は了承してくれたが神崎は行く事を止めた。
神崎の奴、一体どうしたんだ……?
とりあえず理由を聞いてみるか……。
「神崎、どうした?」
「……移動はこのイチゴクレープを食べ終わってからでいい?」
俺がそう尋ねた後、神崎は真剣な表情しながら俺たちに面と向かって言い放った。
それを見ていた俺と小西は神崎のその真剣な様子に可笑しくなり、大声で笑い始める。
「な、なんで笑うの?」
「だって、神崎が真剣な表情で食べていいって聞くからつい可笑しくてな……」
「もう知らない!」
神崎はやけくそ気味にイチゴクレープを食べる。
俺と小西は神崎の姿を温かく見守りながら食べ終わるのを待っていた。
※※※
「本当にここに居るのか?」
俺は疑問を言いながら、森の中を進んでいた。
その隣で神崎が俺に遅れないようについて来る。
『まだ何も感じない。もう少し奥に居るのかもしれない』
俺の手に持っているスマホからグレンの声がそう聞こえてくる。
その声を聞きながら俺たちは更に森の奥へと進んでいく。
しかし、ここの森はグレンと出会った森より足場が悪いな……。
「まっ、待ってください!」
俺と神崎の後ろからついてきてる小西がそう叫んだ。
立ち止まってそちらを見てみると、小西が息を切らしながら歩いていた。
「小西、大丈夫か? 休むか?」
「は、はい……お、お願いします」
俺たちに追いついた小西はそう言いながら地面に座り込む。
小西の様子を見た後、俺たちもその場で休み事にした。
「しかし、ここの森は足場が悪いな。グレンと融合した方がいいか……?」
「確かにここなら人が居ないし融合しても大丈夫かもね……ん?」
俺と神崎が話していると何処からかカタカタという音が聞こえてきた。
「何だ?」
「あっちから聞こえるね……」
俺たちが音の聞こえる方を見たその時だった。
「————!」
「「「『『『!?』』』」」」
何かの叫び声が聞こえてきた。
その叫び声に俺たちは驚いてしまう。
「今のは!?」
『ヨウタ、行ってみよう!』
俺たちは叫び声とカタカタ音が聞こえた方へ急いで向かっていった。
※※※
「陽太君。これって……」
「何が起きたんだ……?」
俺たちが音の聞こえた方へ行ってみると、まるで大きな何かがそこを何かが通ったかのように木が何本も倒れていた。
「これはキャタピラの跡ですね。しかもまだこの跡は新しいですね……」
俺と神崎の後から来た小西が木の倒れている地面を見てそう言った。
俺たちも地面を見ると確かにキャタピラの跡が残っていた。
「この先に何か居るのか……?」
俺はそう言いながら何かが進んだと思われる方向を見ていた。
『あの叫び声にキャタピラ……グレンここに居るのはまさか!?』
『エメラ、君もそう思ったか。だが、最初の情報であるウミガメと一致しない』
『確かにそうですな。もし、あやつだったら一刻も早く止めないと大惨事になります』
俺が何かが進んだ方向を見ているとグレンたちが今までの情報を照らし合わせながら何やら騒いでいた。
「グレン、どうしたんだ?」
『ヨウタ、融合だ!』
「えっ、なんで?」
『いいから早く融合だ! ミスズもユウセイも早く!』
「あ、あぁ、分かった」
グレンの気迫に押された俺たちはすぐにアプリを開き、UNITE ONの文字を押す。
そして体が光に覆われた後、俺たちはグレンたちと融合した姿になる。
「アルジャ、それでいきなりどうしたんですか?」
『勇正、気を引き締めろ!』
「えっ?」
融合が終わった後、小西がそう尋ねるとアルジャは険しい声でそう叫んだ。
明らかにグレンたちの雰囲気がいつも違うのは声を聞いていても分かる。
それを感じた俺たちも緊張感が走る。
「……この先に何が居るんだ?」
空気が張り詰めている中、俺は恐る恐るグレンに尋ねる。
『……まだ確証できないが俺たちの予想が正しいなら今までの奴とは格が違うって事だよ』
グレンが真剣な表情で俺たちに言う。
あのグレンがそこまで言う奴がこの先に居るのか……。
『ただ一つだけ俺たちと予想している奴と一部情報が違うんだ』
「違う情報?」
『とにかくこれから先に行くなら用心しないと駄目だ……皆、気をつけて行こう』
グレンがそう言った後、俺たちは改めて何かが進んだ方向を見る。
この先に何かが居るのは確かだ。
けれど、その何かが俺たちにとって脅威的な存在になるのはグレンたちの様子を見て分かる。
そう考えるだけでも前に進むのが恐ろしくなっていた。




