新たなる仲間
「なるほど。そんな事をあったんですね……」
『グレン殿もエメラ殿も大変だったようで……』
博物館の外に出た俺たちは融合した姿を解除した後、今までの経緯を小西とアルジャに話した。
その時に手に持っていたスマホからグレンたちの自己紹介もした。
小西は小説を書いていると言っているだけあって理解が速かった。
アルジャもいくつか分からない所はありそうだが一通り大丈夫そうだ。
「天道寺君や神崎さんはこれからもアルジャの仲間を探すんですか?」
「あぁ、そうだな」
「それじゃ、僕にも手伝わせてください」
小西は真剣な表情で俺たちにそう言ってきた。
「確かに僕は臆病者で天道寺君や神崎さんの力にならないと思います。けど、僕もアルジャの仲間を探したい気持ちでいっぱいです。それに単純にアルジャと一緒に居たいです」
「小西……」「勇正君……」
「だから、お願いします! 僕を仲間にしてください!」
小西はそう言いながらお辞儀をする。
その様子を見ていた俺たちは小西なりの覚悟があると感じられた。
「本当にいいんだな?」
「覚悟はあるつもりです」
俺が改めて確認しても小西の意思は揺るがなかった。
仕方ないか……。
「分かった。じゃあ、一緒に探そう」
俺が一緒に探すのを認めると小西はお辞儀を辞める。
そして……。
「ありがとうございます! 僕、一生懸命頑張ります!」
『改めてよろしく頼むぞ! 貴殿ら!』
小西とアルジャは喜びながら俺たちにそう言った。
俺がその様子を見ていると横に居た神崎が不満そうにこちらを見てくる。
「陽太君、なんか私の時よりもすんなりだね」
「仕方ないだろ。覚悟がある奴を止められないっていうのは何処かの誰かさんに教わった事だ」
「誰の事?」
俺の言葉を理解できなかったのか神崎はそう尋ねる。
全く自覚が無いんだから余計にたちが悪いな……。
『さて、今までの経緯も話した事だしそろそろ俺たちが映っている映像データを壊しに行くか』
自己紹介が終わった後に俺のスマホの中に居るグレンが提案する。
「そういえば俺たち、監視カメラに映ったんだよな……」
俺はスマホを見ながらどうするか悩んでいた。
元々の計画では映像に関するデータをどうにかしてから鎧の部屋に行くつもりだった。
けれど、小西が襲われていると思った俺はそのままあの部屋に行ってしまい監視カメラに映ってしまった。
「けど、どうするの? 映像に関するデータはパスワードが掛かっていて壊せないよ」
「そうだな……どうするか?」
神崎の言う通りあのデータにはパスワードも掛かっていた。
パスワードが分からない限りどんなに攻撃しても無傷のままだ。
さて、本当にどうするか……。
『その必要はない』
「えっ?」「何?」「声?」
悩んでいると何処からか声が聞こえてきた。
どうやら俺だけじゃなくて神崎や小西にも聞こえたみたいだ。
この声、もしかしてあのハッキング野郎か……?
『ヨウタ! またスマホがハッキングされて通話になってる! しかもスピーカー状態だ!』
「またかよ!? なんでいつも俺なんだ!? しかも今回はスピーカー状態!?」
『うるさい。ちゃんと聞け』
俺はスマホ画面がハッキングされて通話画面になっている事に突っ込んでいると通話の相手に怒られた。
『いいか。映像に関するデータはハッキングして削除した。そして、削除した映像の所に別の映像を差し替えておいた』
俺が黙ると通話の相手は淡々と映像の事を話していった。
『後、アプリに色々と追加したから各自、見るように。それじゃ』
「ちょっと待った!」
通話の相手が電話を切ろうとした時に俺はそう叫ぶ。
ここで通話を切られてたまるか!
何か情報を引き出してやる!
『何だ?』
「お前には聞きたい事がいっぱいある。答えてもらおうか」
『……答える義務はない』
「なんだと!」
「待って! 陽太君!」
喧嘩腰に俺が通話していると神崎が止めた。
「ここは私に任せて」
「……分かった」
俺は神崎の真剣な表情を見て、神崎に質疑応答を任せる。
様々な情報を集めてくる神崎の事だ
俺より相手が持っている情報を引き出せるはずだ。
「あの私たちも色々と聞きたい事があります。すこしだけでも質問をしてもよろしいでしょうか?」
『……』
神崎がそう言うと通話の相手は何も答えなかった。
少し迷っているのか……?
「黙っているという事は質問に答えてくれると判断しますがよろしいですか?」
『……質問はなんだ?』
さっきまで黙り込んでいた相手が質問を許した。
やはりこんな時に頼りなるのは神崎だな。
「まず最初に今回の戦闘の時に私たちのアプリをアップデートしたんですか?」
『あの時、鎧に戦闘する意思は感じられなかった。だから、あの時にアップデートした』
「あの時って言いましたが何処かで見ていたんですか?」
『それは次の質問だと思っていいのか?』
「あっ、いえそれは……」
通話の相手が二つ目の質問なのかと聞くと神崎は口ごもる。
『まぁ、いい。答えるよ。僕は博物館についている全監視カメラをハッキングして君たちの様子を見ていた。君たちがあの鎧と戦おうとした時もな』
「なっ!?」
通話の相手から博物館ついている全監視カメラから自分たちを見ていたという真実を知らされた俺は驚きを隠せなかった。
まさか全部、見られていたなんて思いもしなかったな……。
『だからか……視線を感じたのは……』
『その視線は僕じゃない。そこにいる騎士だ』
グレンがそう言うと通話の相手は否定しアルジャの視線だと言う。
そして、通話の相手は話を続ける。
『僕のハッキングは電脳空間も覗ける。そこの騎士はずっとその鎧に自分の存在を伝えようとしていた。けど、どうしても伝わらなかった。そんな時に来たのが君たちだった。君たちの姿を見た騎士は何かを感じたのかつけていたんだ』
『アルジャ、本当なのか?』
『本当だ。我は電脳空間から博物館に入ってきた貴殿らを後ろから追いかけていた』
グレンが確認を取るとアルジャは素直に認める。
『じゃあ、最初に博物館に来た時に感じた視線もお前だったのか?』
『如何にも我だ。人間たちに如何にかして気付いてもらって我が友に自分の存在を伝えようとしたんだ。けど、まさか画面からああやって出られるとは思いもしなかった』
アルジャはそう言った後に笑い始める。
しかし、グレンが感じた視線がまさかアルジャの視線だったとは思いもしなかったな……。
『他に質問がないなら通話を切る』
「待って、もう一つだけ質問いいですか?」
通話の相手が電話を切ろうとするが神崎がまた質問をしようとしていた。
『何だ?』
「あの鎧は何故、実体化していたのに暴走していなかったんですか?」
『……これは僕の仮説だがあの鎧は宇宙から地球に来た時にはもう実体化できるだけのエネルギーを持っていた。だから、地球のデータを食べずに実体化も出来たから暴走しなかったんだと思う』
「……そうですか。色々とありがとうございました」
『……また連絡する』
神崎がお礼を言った後、通話の相手はそう言って通話を切った。
「グレン、着信履歴は?」
『ヨウタ、駄目だ。もう消されている』
「畜生……またあいつの情報が手に入らなかった」
「ううん。情報は手に入ったよ」
「え?」
俺が悔しがっていると神崎が得意げにそう言った。
「情報ってあの短時間で?」
「うん」
「あまり情報を聞かなかったのに?」
「そうだよ。というかあまり情報を聞かないようにしたの」
『ミスズ、それはどういう事だ?』
俺と神崎が話しているとグレンが割り込んでくる。
「ああいう相手は確信的な事を言うとすぐに情報を隠すの。だから、あえて何気ない事を聞いて情報を抜き出したの」
『なるほどな。それで手に入れた情報は?』
「まず通話の相手は私たちの事を本当に必要としている事かな」
『どうしてそう思ったんだ?』
「通話中、相手は何度か切ろうとしたりせかすような言葉を言っていたでしょ。これは予想だけど急いでいたんだと思うの」
『急いでいた? 何にだ?』
「それは私にも分からない。けど、それでも私たちの質問に答えてたという事はそれだけ私たちを必要としているんじゃないかと思って」
なるほどな。
確かに急ぎの通話だったら俺たちの質問がしていてもすぐに切るはずだ。
だけど、急いでいたのに俺たちの質問を答えていたのは俺たちがそれだけ必要だと思っているのかもしれない。
神崎の推論も一理あるな……。
「次に相手もエメラたちの事をよく分かっていないという事」
『えっ、どうしてそう思われたのですか? 美鈴?』
神崎が手に入れた情報を聞いた後、神崎の手に持っていたスマホからエメラがそう尋ねる。
「私、実体化の事を相手に聞いたでしょ?」
『はい、聞いてましたね』
「その事で相手は自分の仮説を言い始めた。つまり仮説を言うって事は相手もまだエメラたちの事はまだよく分かっていない状態だと思うんだ」
『なるほど。確かにそう言われるとそうですね』
あのハッキング野郎もまだグレンたちの事を全部知っている訳じゃないのか……。
じゃあ、グレンたちの事を全部知っていない状態であのアプリを作ったのか?
何のために?
戦うためか?
それともグレンたちの事を調べるためにか?
謎は深まるばかりだ……。
「最後に今回の事件で通話の相手は新しい仲間が欲しかったんじゃないかって睨んでいるの」
「えっ? どういう事だ?」
「陽太君、よく思い出して。あの時、融合が解けた時の事を……」
「融合が解けた時の事……」
神崎にそう言われた後、俺は融合が解けた時の事を思い出す。
あの時、確か俺はあの鎧の目の前で融合が解けた。
その時に小西に見られて……。
「ちょっと待って! 確かあの時、通話の相手は俺たちを見ていたって言った! それなのに小西が居た前であのアプリがアップデートを開始した! 例えあいつに戦う意思が無くても小西が見ているのになんでそんな事をしたんだ!?」
「そう。そこなのよ。勇正君が見ている前でなぜアプリのアップデートを開始した。それっておかしい事だよね。それで考えたのは勇正君とアルジャにあのアプリの力を見せて私たちの仲間になってもらう事にしたんじゃないかって」
「えっ、僕たちを!?」
神崎の言葉を聞いた小西は驚きを隠せなかった。
小西が驚いている間にも神崎は話を続ける。
「結果的に勇正君とアルジャはあのアプリに興味を持った。だから、通話の相手はアプリを勇正君に渡して私たちの仲間になった。それで通話の相手の目的は達成したっていうのが私の考え」
「ちょっと待ってください。確かに僕は力が欲しいと思いました。けれど、アルジャは僕以外の誰かに行けば僕は力を手にしていなかったと思います」
確かに小西の元にアルジャが行かなかったら、アプリが渡さなかったかもしれない。
そしたらあの時、アプリをアップデートしなかったかもしれない。
「確かに通話の相手は渡さなかったかもしれない。けど、通話の相手は勇正君だけじゃなくてアルジャの事も見ていた」
「えっ?」
「アルジャはアプリを持っている私や陽太君じゃなくて勇正君を選んだ。だから、通話の相手は勇正君に渡したんだと思う」
「……」
神崎がそう言った後、小西は黙ってしまった。
そして、小西は自分のスマホを見つめながら恐る恐る口を開いた。
「アルジャ、一つ質問よろしいんですか?」
『何だ?』
「貴方は何故、天道寺君や神崎君じゃなくて僕を選んだのですか?」
『確かに陽太殿や美鈴殿を選べば、アプリを使って早く我が友を救えたかもしれない。だが、我はどうしても勇正の事が気になってしょうがなかった。そんな時に友を救いたいと気持ちを聞いて我は直観的に勇正を選んだんだ。迷惑だったか?』
「……いえ、迷惑ではありません。最初は様々な事が起きて何が何だが分かりませんでした。けれど、そんな中でもアルジャの出会いは運命だと感じました。貴方と居れば僕の中で何かが変わると思ったから一緒に居たいと思ったんです。ですからアルジャ、これからよろしくお願いしますね」
『勇正……我の方こそよろしく頼むぞ!』
お互いに素直な気持ちで語った小西とアルジャ。
その様子を見ていた俺たちは小西とアルジャの仲が深まったと思った。
「しかし、通話の相手は何故他にも仲間が欲しいと思ったんだ?」
「それは——」
『それは通話の相手が私たちだけじゃ力不足と思われたんだと思います』
俺の質問に神崎が答えようとしたがエメラが先に答えた。
『通話の相手は私たちを必要だと感じております。けれど、それでも私たちだけじゃ力不足と感じていたのでしょう。だからこそ勇正様やアルジャに仲間になって欲しいと思われたんでしょう。そう言いたかったんですよね? 美鈴』
「もう私のセリフ取らないでよ」
エメラがお茶目そうにそう言うと神崎は少しだけ不機嫌になりながらエメラと話していた。
しかし、俺たちだけじゃ力不足だと?
随分と上から目線だな……。
やはりあのハッキング野郎は好きになれないな……。
「——太君、陽太君」
「はっ!?」
「どうしたの? そんな険しい顔して……」
俺が考え事をしていると、神崎と小西が心配そうにこちらを見ていた。
「いや、何でもない。それより神崎が手に入れた情報は終わりか?」
「うん、終わりだよ」
「そうか。じゃあ、ひと段落も付いた事だしそろそろ帰るか」
「そうだね。今日は戦闘してないのに疲れたよ」
「ちょっと待ってください」
俺と神崎が帰る準備をしようとしていたその時に小西が止める。
いきなりどうしたんだ?
「小西、どうした?」
「帰る前にもう一度、あのアプリを見てからにしましょう。通話の相手も追加された機能を見てくださいって言ってましたし……」
「後でいいんじゃないか? 今日は皆、疲れてるし……」
「しかし……」
『ヨウタ、俺もユウセイの意見に賛同だ』
「グレン?」
俺が小西と話しているとグレンが割り込んでくる。
『追加された機能はある程度は俺が調べたが見逃した機能もあるかもしれない。だから、いつ戦闘が起きてもいい様に流し読みでもいいから読んでおく事を勧める』
「……分かったよ」
小西の意見に賛同した俺たちはあのアプリを開く。
すると、俺はある文字が目に付く。
「STRIKE BURST……? なんだこれ?」
その追加された機能には何も説明が書いておらず俺の中で新たな疑問が増えていった。
※※※
『今回、情報を与え過ぎたんじゃないか?』
「問題ない。あのぐらいなら情報の内には入らない」
暗い部屋で一人。机の上に置いてあるパソコンで作業しながら誰かと話していた。
『なら、いいが……』
「それよりそろそろ急がないといけない……」
『あぁ、そうだな……一刻も早く仲間を探さないとな……』
「『侵略者が動き出す前に……』」
一人、キーボードのタイピングを速めながらパソコンで作業し続けた。




