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10章 - 01

私は否定も肯定もせず、ただシエルの顔を見ていた。

それに何を感じたかはわからないが、シロエは少し悲しそうにした。


「幼い頃に、魔界はある日突然現れて、魔族がこの世界の侵略を始めたと教わりました。現に、魔族の侵略で苦しんでいる人々がいて、私も連れ去られる事があって、お兄様も…」


シロエは俯いた。


「だから、魔族が邪悪で野蛮な侵略者という教えを、ついこの前まで疑ったことはありませんでした」


侵略者か…。思うところがあったが、私は何も言わなかった。


「でも、アカバネやハイネ様やクーロさんと一緒にいたり、あなたと戦うためにあなたとのやり取りを思い出したりしていると、どんどんわからなくなっていったのです」


シロエはまだ俯いたままだが、少しずつ声が大きくなってきた。


「魔族にも男と女があって、家族を作って子供を育てている。

 魔族にも仲間や組織があって、助け合って生きている。

 魔族にも感情があって、怒るときは怒って、笑うときは笑っている。

 だから、本当に邪悪な存在なのかって、…人間と変わらないんじゃないのかって」


シロエが何を言いたいのかはまだわからない。けれど、私はどこか懺悔を聞いているような気分だった。


「そう思ったら、今度はこの世界に疑問を持つようになりました。

 なぜ、有害な魔素で満ちている人間界を魔族は支配しようとしているのか?

 なぜ、魔界の魔素は人間に無害であるどころか、人間である私も魔力を回復できたのか?

 なぜ、法律の樹は魔界の魔素を吸収して、人間界の魔素を放出するのか?

 なぜ、魔王は魔界を維持するために我が身を犠牲にしているのか?

 そして、なぜ、どこからともなく現れた魔族と、私達人間は話しをすることができるのか?」


ここでようやくシロエは顔を上げた。その表情には、何かを告げる覚悟を感じる。


「その答えの仮設を思いつくのに時間はそれほどかかりませんでした。けれど、それを自論にして、言葉にするのに時間がかかりました。

 でも、私の仲間は真剣に聞いてくれて、そして、クーロさんとハイネ様がついに真実を話してくれました」


そう、それこそ、この戦争をいたずらに長引かせている原因。


「この世界の本当の侵略者は、魔族ではなく人間。

 人間と魔族は、この戦争が始まる前は共に暮らしていた仲間。

 けれど、人間が…いいえ、私の先祖が法律の樹を立てて世界征服を目論み、多くの人間が賛同してしまった」


「あぁ…、その通りだ。それこそが真実だ」


シロエがクーロからどこまで聞いているかわからないが、ここから先は魔族の私が言葉にすべきだとなんとなく思った。


「他の種族から魔力を奪い、人間の魔法が世界を律するための樹。それが法律の樹だ。

 当時の王は、他の種族を守るために自分を犠牲にして、人間界の魔素が入ってこれない結界を張った。

 人間はこの歴史を消し去ったが、他の種族はこの歴史を忘れないために自分達の総表を作った。

 魔力の力を奪われた種族、その種族が集まった世界、その種族達の王。

 それが魔族であり、魔界であり、魔王様だ」


私の話をシロエは静かに聞いていた。

動揺も見られない。シロエは、この真実を真摯に受け止めているようであった。


「人間のお前がこの歴史に辿り着き、受け入れていることは評価できるかもしれない。だが、他の人間は絶対に無理だ。生まれるよりも何百年も前のツケを払うことなど、できるはずがない」


「はい、私もいきなりは無理だと思います。だから、まずは本当のことをみんなに知ってもらうことから始めたいのです」


ため息が出た。

時間をかけて説得していきたい、そうするしかないのはわかる。

しかし、それは人間の都合だ。ずっと狭い世界で窮屈な思いをし続けてきた魔族が、それに納得するわけも、それを信用するわけもない。


私のその様子を見たシロエは、さらに続けた。


「無理な注文なのはわかっています。けれど、その注文を通すために私達は来ました」

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