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9章 - 05

ただ真っ直ぐ全体重を乗せて突いたスピアーは、シロエの胸を貫くことなく、二の腕を掠っただけであった。


シロエは切られた二の腕の痛みに耐えながら、そのまま覆いかぶさろうとする私を両手で阻止する。


私はシロエの背中に手を回すと、爪を立てて切り裂いた。

さらに、牙を立てて首筋に噛みつく。


その苦痛にシロエはうめき声を上げた。


「最後の最後でミスをしたな。やはり、私を殺すつもりで戦うべきだった」


私はさらに爪と牙を深く食い込ませる。

流れ出る血がどんどん増えていく。

私はもう、お前が死ぬまで離さない。


「…いいえ」


絞り出したようなシロエの声が聞こえた。


「…死なせないようにするのが、やっぱり正解でした」


声色に少しだけ優しさを感じた。

噛みついている私にはシロエの顔は見えない。が、もしかして笑っているのか?


「…そして、あなたは簡単には死なない。勝手だけど、信じています」


私を掴んでいる両手に魔力が集まってくるのを感じる。

まずい、引き離さないと。

私は爪と牙を抜き、シロエを押し離そうとしたが、今度はシロエが爪を立てて私を離さない。


私の体とシロエの手の隙間から、赤い光が漏れ始め、熱を帯びる。


そして、魔力がシロエの手の中心に凝縮された刹那、私とシロエの目が合った。


「魔力を、お返しします!」


シロエの両手から魔力が放出され、私は城の方へ吹き飛ばされた。

壁に激突しても尚、シロエから放たれた魔力は私を押し潰そうと迫ってくる。


こんな…、こんなもので…。


そして、ついに壁を突き抜けると、放たれた魔力は爆発して私を飲み込んだ。


………。

……。


あれは魔法なんかではない。

電気を起こすとか、風を呼ぶとか、そんな初歩的な魔法でもない。

ただ魔力を放出するだけの、名前すらない、誰でもできる、ただの力任せならぬ、魔力任せ…。


黒煙と砂埃が薄れてくると、力なく横たわっている私の足が見えた。

全身に力が入らず、感覚もほとんど無い。

見えている感じからして、瓦礫か何かにもたれかかっているようではあった。


「…わたしは」


もう感情も出てこない。


単純に出力するだけなら強化魔法と同様、魔族の魔力でも使える。自分の魔力で押し出すだけなのだから。

そんな原始的な攻撃に自分の魔力が使われ、しかもそれが私を倒すとは…。


動くことを放棄している分、頭は少しずつクリアになっていく。


死なせない。

シロエのあの言葉が、もしかしたら、この結果を導いたのかもしれない。


私は人間を信用しないはずが、どこかシロエを理想論者と決めつけ、嘘は無いと思い込んでいた。

その上で、あの憎たらしいシロエのすべてを上回ってやろうとした。

現に、シロエは最後まで私を殺そうとはしなかった。

だから、いつでも巻き返せると思っていた。


そんな驕りが、私の切り札となったかもしれない魔族の特性を失わせていた。

瀕死のこの状況でも、私の特性は出てこない。

戦闘中にわざと命の危険にさらしたとしても、出てくることはなかっただろう。


魔力が使えないシロエなら、今からでも勝てるだろうに…。


私は、いつの間にか、渇望していた強者になっていたようだ。

良くも…悪くも…。

だから、弱者に足元をすくわれてしまった。

信念と覚悟が、力の差を埋めることがあることを、私はよく知っていたはずなのに…。


ぎこちない足音が聞こえてきた。

が、私は顔を上げることなく、ただ自分の足を眺めていた。

すると、つま先の方にシロエの足が見えてきた。


「よかった、生きていた」


シロエの声がする。

私は顔を上げた。頭の重みで後ろに倒れそうになるが、瓦礫にあたり、丁度シロエが視界に入った。


「今度こそ、私の勝ちです」


「………そのようだな」


私の返事にシロエは驚いていた。

正直なところ、私もこうして負けを認めることになるとは思っていなかった。


魔王様のこと、ファーストリアのこと、四天王のこと、セブンのこと、部下のこと。

それらを考えれば、負けが許されるはずはないのだが、まるで線を切られた人形のように、私は動けなくなっていた。


「お互いボロボロですけど、約束通り、少し話をさせてください」


シロエも私と同じくらいひどいありさまであった。

顔は腫れ、乾いた血の跡があり、服も無傷なところが無いといってもいい。

それでも、シロエは当初の目的を果たすため、力無く座る私に話しかける。


「あー…、いざこうなるとなんて言っていいか」


経過した時間から考えるに、それほど時間が残っていないのだろう。

手短にまとめたいようだが、うまくまとめられない様子だ。


「えーい、いいや。考えながらなんて話せない」


そういうと、シロエは一拍おいて、ゆっくりと話し始めた。


「あなたは、人間と魔族が同じ言葉を話すことに疑問を持ったことはありませんか?」

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