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9章 - 04

脅しのつもりで突き立てた短剣はあっさりと払われ、地面を転がっていった。

持っていた手も弾かれて、隙を晒してしまう。

だが、付け焼刃の格闘技のせいか予備動作が大きく、シロエの次撃を躱すのは難しくなかった。


そこから反撃に出る。

シロエはそれをガードし続けると、最後の一撃にカウンターを合わせてきた。

私はそれを腕で受ける。先ほどよりもダメージが上がっていて、何度も受けれそうにないと感じた。


私はシロエの攻撃を避けつつ、小技を何発か叩き込む。

シロエはそれを無理に避けようとはせず、ダメージを最小限に抑えて、確実に反撃に出てくる。


それを何度か繰り返す中、私は武器を取り出そうとするが、シロエはすぐさま私の懐に潜り込んできて、それを阻止してくる。


動きは未熟だが当たれば致命傷になるシロエの攻撃に対して、私の攻撃は手数はあるが威力が足りない。

シフォンと違い強化魔法の魔力消費は小さいので、魔力切れは期待できない。

武器を取り出すにも隙を作らなければならないとなると、技術でシロエの固いガードを崩す他ない。


ガードさせる目的で攻撃の速度を上げていく。

シロエの反撃に合わせて、開いた体や足に一撃決める。


強化されているとはいえ、一か所に攻撃を集中させたり、強度が低い部分を攻撃すれば、ダメージは蓄積されていくはずだ。

現に、少しずつだが腕が下がり始めている。


そして、私はシロエの顔面を捕えた。

私の拳はシロエの頬に当たり、シロエの動きが一瞬止まる。

その隙に私の膝がシロエの脇腹に入った。

たまらずシロエは体をくの字に曲げる。


私は武器を取り出すチャンスと思ったが、その瞬間、シロエの正拳突きが私の胸に当たった。

凄まじい威力に呼吸困難になる。

一瞬思考が停止したが、視界の端にシロエの次の攻撃が見え、咄嗟に反撃した。


蹴りあげた足がシロエの顎に決まり、シロエの視線は空へ向いた。

しかし、シロエはその状態で私の腕を掴み、自分の方に引っ張ると、跳ね上がった頭を私の額に振り下ろした。


棍棒で思い切り殴られたような衝撃に、目と耳が一瞬機能を失った。

私は両手で頭を守るが、シロエの中段蹴りが私のみぞおちに叩き込まれる。


そして、シロエの渾身の一撃が私の顔面に入った。


私の足は地面を離れ、後頭部から落ちた。

すぐに立ち上がろうとするが、体が思うように動かせない。


なんとかシロエを見失わないようにと顔を上げる。

シロエは、膝に手をついて息をあげていた。


「はぁ…はぁ…、頭突き…させないんじゃなかったでしたっけ?」


それは挑発だと認識したが、私は力の入らない腕で体を起こすのが精いっぱいであった。


「…このくらいじゃ、終われないか」


そう言ってシロエは、なんとか体を起こした私に飛びかかって来た。

さきほどのダメージで体を思うように動かせない私は、致命傷はなんとか避けるものの、ほぼ棒立ちで攻撃を受け続けてしまう。


「くそがー!」


なんとか反撃に出るが、それはもうシロエの動きを止めることすらできなかった。


攻撃を受け続けた体から、骨が折れる痛いを感じる。


もう自分が何をしているのかわからなくなるほど思考が鈍ってきた。


そこへ、再びシロエの掌底が私に打ち込まれる。

私はそれを耐えることができず、無様に倒れて天を仰いだ。


そこからシロエの追撃はなく、互いの荒い息遣いだけが聞こえてくる。


「…ぜぇ…ぜぇ、私の…勝ちです」


一向に立ち上がれない私に、シロエは自分の勝利を上げた。

シロエは強化魔法を解いていく。あの赤い模様が徐々に消えていった。


「…誰が聞くか」


私は大きく息を吸うと、壊れかかっている体を無理やり起こした。


「がっ…、はぁはぁ…、たしかにお前は強かった。だがな、私は魔族で、魔王軍の幹部だ」


手を地面から離し、二本脚で立とうとすると膝が折れそうになる。

だが、歯を食いしばって気合で立ち上がった。


「負けたとして、たとえ、死んだとしても、ここから先へは…」


私は力尽きたように前のめりになると、スピアーを取り出してシロエに突進した。


「…行かせないっ!!」

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