表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/52

9章 - 03

短剣をシロエの胸に刺す。


ギンッ!


まるで刃物が固い鉱物にあたったような音がした。その反動が腕を伝ってくる。

短剣が、服より奥へ進まない。


はっ?

わけがわからなかった私はシロエの顔を見る。

目が合ったのは、澄んだ青い目ではなく、私と同じ暗く赤い目であった。


突然シロエの握力が強くなり、私の腕が締め上げられる。

思わずシロエから手を離してしまうと、シロエの掌底が私のみぞおちを打った。


「がはっ…」


まともにくらってしまった私は、軋む内臓をおさえながら、数歩後退した。

締め上げられた首が解放されると、シロエは咳き込んだ。


「できれば使いたくなかった…。でも、覚悟はしていたこと…」


そして、そう独り言を言うと、痛みに耐えるように体を丸める。押し殺した悲鳴のような声が漏れてきた。

シロエを中心に突風が起こり、地面にもヒビが入る。

すると、シロエの顔や手に赤い紋章のような模様が浮かび上がってきた。服で隠れて見えないが、もしかしたら全身に出ているのかもしれない。


「な・なんだ…それは?」


こうやって驚かされるのは何度目か?

だが、今回が一番ありえない。

シロエから、魔族の魔力を感じる。


「…あなたは、人間界に溶けていった魔族の魔力は、どうなるのかご存じですか?」


風が止み、静けさを取り戻したところで、シロエは話し始めた。


「魔法で消費された魔力は、魔素に戻ります。その魔素はなんの特徴も持たず、空中を彷徨い、魔素が不足している空間を見つけると、そこに留まりします。そして、その場所に適合するように特徴を変えます。人間界は法律の樹によって人間界の魔素で満ちているので、ほぼすべてが人間界の魔素になります」


シロエは自分の手の模様を見つめた。


「だけど、人間界に溶けていった魔族の魔力は、魔界の特徴を持った魔素だそうです。けれど、人間界では魔力を放出し続けてしまう魔族は、それを取り込むことができない」


シロエは見つめていた手を軽く握ると、腰の位置に戻した。


「魔界が近ければそこへ行き着きますが、たいていのモノは法律の樹に吸い寄せられます」


「あぁ知っているさ。それで吸った魔界の魔素を人間界の魔素に変えてしまうのだろう。いつから戦争をしていると思っている?魔王軍に入ったら真っ先に覚えさせられることだ」


「そうですか。なら、もうお分かりですね。私の最後の魔法を」


シロエは杖を拾わず、静かに戦う態勢に入った。

私もそれに呼応して構える。


私から魔力を奪ったあの白い魔法は、魔族から魔力を無くす魔法ではなく、魔族から魔力を吸収する魔法だったのだ。まさに、法律の樹と同じことをする魔法。


そして、シロエの体に浮かび上がっている赤い模様は、強化魔法に魔族の魔力を上乗せした副作用とみた。

いくら魔力が人間界の魔素に似ているからといって、人間の魔力に変換することはできなかったのだろう。法壊機という大規模な装置を作り、時間をかけてようやく可能になった事だ。人間一人には不可能。

だから、魔法には使えないので、強化魔法に単純に加えるという原始的な使い方しかなかった。


「魔族がもっとも嫌悪している法律の樹になれるとは、憎まれる覚悟があったというのは本当だったようだな」

「…えぇ、そうですね。強さがすべてと聞いている魔族の方々でも、こればっかりは何も言えないです」

「はん、力でねじ伏せてでもってのは、そういう打算もあったのか。この戦いといい、したたかなもんだな」


シロエは、すみませんと悲しげに笑った。


「それに、人間のお前が魔族の魔力を使うなんて自殺行為じゃないのか?魔力の譲渡は血縁でもリスクがある行為。そこまでして魔力を温存して、いったい何をする気だ?」


視線を少しだけそらし、シロエは小さく首を振った。

さすがに言えないということか。


だが、ここまで危険をおかしているということは、それなりに勝算があるということ。

ならば一層、ここから先へ行かすわけにはいかない。


前へ出たのは同時だった。


ここからは魔法も戦略も無い。

私の意地とシロエの信念のぶつかり合い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ