表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

6章 - 02

「お前、まさかとは思うが、それで私がやめるとは思っていないよな」


私は静かにシロエを威圧した。


それにシロエは少しだけ怯んだが、後退はしなかった。

深呼吸をすると、手に持っていた杖を壁にかけた。

そして、手を袖に引っ込めると、魔導師の衣装を脱ぎ捨てた。

さらに、装飾品をはずし、靴も脱いだ。

着ている物が肌着とズボンだけになり、再び杖を持つ。


「わかっています。全部わかっています。もうあなたを止められるのが私しかいないこと。でも私じゃ絶対かなわないこと」


シロエはそう言いながら、杖術のような構えをとった。


「それでも、逃げるわけにはいかないの。じゃないと、私のせいで死んでしまったお兄様や、今も頑張っているアカバネ達に合わせる顔がない」


そうか、あの呪いに身内を殺されたか。あの殺気に合点がいった。

だが、殺気は今はない。今あるのは、自分のすべき事だけを成そうとする者の気迫だけだった。


その覚悟は悪くないが、戦士でもない女がここまでしなければならないのか。

特別過ぎる魔力を持って生まれた者の宿命ということなのか。

どうであれ、こいつは目障りだ。万が一ということもある。ここで終わらせるべきだ。


扉が開いているので、少しずつ私の特性の霧がこちらに入ってきている。

だが、まだ距離があるので魔法は可能である。

私は右手をシロエに向けた。


その動作を待っていたかのように、シロエは私の視線をくぐるように低姿勢で突っ込んできた。

あっと言う間に距離を詰められ、シロエは私の腹に向かって杖を突く。

私は右手でそれを下に弾いた。

しかし、シロエはそれもお構いなしに、頭から私の下顎に突っ込んできた。


「っが…」


私は顎を跳ね上げられながら、シロエを蹴り飛ばす。

蹴りはシロエの腹に入り、シロエは苦しそうな顔をするが、すぐにまた立ち向かってきた。

私はそれをいなし、今度は脇腹に足を入れる。

シロエはバランスを崩して地面を倒れるが、即座に立ち上がった。そして、私の右手から逃れるように横に走り始める。

が、すぐに足がもつれて地面を転がった。


再び立ち上がろうとするが、私は一瞬で距離を詰めて、その鬱陶しい足を踏みつけた。


今のでシロエの右足は完全に折れた。

シロエから張り裂けそうな悲鳴が上がった。今まで経験したことがない激痛に叫び声を止められないでいる。

それでも杖で踏みつける私の足を叩くが、まるで効果はなかった。

その足を少し動かすだけで、シロエに激痛が走り動けなくなった。


まさか、一撃入れられるとはな。

杖を投げつけられていなければ、多少動揺していたかもしれない。

実際、拉致の時の身のこなしには驚かされた。


一国の姫君が魔王軍の四天王に一矢報いた。

ここまで来ると、自分の不甲斐なさよりも、相手を湛える気持ちが湧いてくる。

さっきは無情に殺すつもりでいたはずなのに。こいつは本当に私の感情を振り回す。


「効いたよ。魔界でうじうじと勇者の話をしていた小娘とは思えないよ」


私は警戒を怠らずに、思ったことを口にした。


シロエは痛みに耐えながら、上半身を回して私に視線を向ける。


「牢に入れた日に、私の所にやってきた女の人は、あなただったのですね…」


少しでも痛みを和らげようと細かく息をしながら、シロエはなんとかそう言い切った。


私は口を滑らしたことにはっとした。

が、すぐに隠しておく必要もないと考えた。


「はん、それがどうした。恥ずかしいから黙っていてほしいのか?」


シロエは歯を食いしばりながら痛みに耐えている。

無反応だったことを少しつまらなく思ったが、もう何も無いならと、右手をシロエの頭にかざす。


シロエは横目でそれを見ているが、もう動けないでいる。

その代わり、小さく話始めた。


「根拠なんか…なかったですけど、そんな気がしていました…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ