1章 - 02
「本当にここまで来るとはなー、フォース」
赤い十字の左隣から、気分の悪くなる声が聞こえてきた。
そこにいたのは四天王の一人サードナー。筋肉が盛り上がった腕を組み、舐めるような目つきでこちらを見下している。
「そんなところに立つのをやめて、俺のところへ来いよ。お前なら特別待遇でかわいがってやる」
この脳筋が…。
口には出さなかったものの、表情まで抑えることができなかった。
サードナーは恐い怖いと言いながら、まだ私の肢体を眺めている。
胸元、背中、二の腕、腰、太もも、男の視線を奪える可能性がある所をすべて露出させている私の恰好は、様々な気持ちの悪い感情に晒されてきた。この男はそのうちの一人にすぎない。
かと言って、それに慣れたことなど無い。
少しでも私が手柄を上げるための犠牲の一つだ。
「たしかに、部下にほしいという意味ではサードナーに賛成だな。もちろん、評価している点は違うが」
今度は右隣から狂気の混じった笑い声と共に、小柄な初老の男が姿を見せた。
この男も四天王の一人セカンドム。ローブに身を包み、その中に隠し持っている何かがカチカチと音を立てている。
「魔法の技術が成熟した今、力が支配する時代は終わった。頭脳こそ至高の武器だ」
魔法の技術の成熟。これが女の私でもここまで登り詰めることができた大きな時代の変化だ。
昔は、魔法と言っても火や毒などを単純に出力することしかできなかった。
男は、肉体的な力はもちろん、魔力も女よりも大きかったので、女が戦いで活躍できることはなかった。
しかし、魔法の操作が可能であることがわかるにつれ、女の方が男よりも遥かに魔法を使うことに長けていることがわかった。
力や魔力の差は、魔法の技術でいくらでもカバーできるのだ。
しかし、女の性なのだろう。精神的な支配は好んで行っても、戦場に赴く者はそういない。
その先にほしい物すべてがあったとしても、自分の身を汚すことには耐えられない。
肉を切らせて骨を断つような真似はできないのだ。
だから私は、男を油断させる方法を選んだのだ。
「集まったようだな」
私の正面に四天王最後の一人ファーストリアが音も無く現れ、四天王が全員揃った。