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3章 - 05

「ふん、ここに捕えられているお前には、もう関係ないがな。もっとも、お前のような女じゃ、相手にしてくれる男などいないさ」


そこまで言い終えて私は我に返った。本来の目的を忘れて挑発してどうする。

しかも、性格はどうあれ、容姿は魔族の私が見ても淡麗なものだ。言い寄ってくる男は多いに違いない。

一度ならず二度までも、こいつはどうも私の調子を狂わせる。


やれやれと頭かきながら、シロエの様子を見る。

未だにベッドの隅で縮こまっているが、いつの間にかこちらを向いていた。

何かを言いたげなように見える。


予定外の話になったが、食いつきがいいのはやはり勇者との関係のようだ。

だが、立場上挑発することしかできない。この路線で思惑通り事が運ぶのであろうか?

かと言って、魔族の助言など疑わしいだろうし、この私にできるはずもない。私には無縁の話だ。


ばかばかしい…。やはりこんなこと断るべきであった。

思っていたよりもシロエは落ち着いているようだし、要件を済ませてここを早く立ち去ろう。


「…そう、ですよね」

「ん?」


シロエがかろうじて聞き取れる声でつぶやいた。


「私みたいな王女。なんとも思っていないですよね」


私の思考が一時停止した後、何を意味しているのか理解して頭に血がのぼってきた。

こ・こいつ…こんな状況で何を言っているのだ?

そもそも始めたのは私だが、なぜこのタイミングでそんな…、本当になんなんだこいつは?


「お・お前、自分がどういう状況かわかっているのか?」

「………」

「お前は、これから死ぬまで魔力を我々に吸われ続けるんだよ。奪っては休ませ、また奪っては休ませ、それがずっと続くんだ。お前がどんな女だとか、もう関係ないんだよ」


もうむちゃくちゃだ。

こいつのすべてが気に障る。

いっそ任務がこいつを始末することだったらよかったのに。それだったら、こいつの言葉を聞く前にすべてを終わらせて、次の任務へいけたはずだ。


「勇者は来ますよ。ウィンタラルの王女を助けにここへ」


今の言葉は王女の威厳みたいなものがあった。

怯えて、沈んで、今度は怒りか?

魔族に捕まっているんだぞ。いつ殺されてもおかしくないんだぞ?なぜ、そんな風に振る舞える。


「ウィンタラルの王女をか。ずいぶん他人事だな」

「他人事…。そうかもしれません。私の人生は、私だけのものではありませんから」


王族であれば運命が決まっていることは不思議ではない。どこも似たようなものだが。

それがわかっているなら、今までのはなんなんだ…。


「こんなところに連れてこられて、開き直ったといったところか?」

「なんのことでしょう?」

「人生も、勇者も、何も思い通りにならないから、すべてを諦めて楽になろうとしているんじゃないのか」

「本当に楽なら、それもいいかもしれませんね」

「贅沢な悩みだよな。生まれた時からすべてを持っていたんだ、むしろ悩みなどそんなものか」

「そういうあなたは、きっと自分の人生を生きているのですね」

「…嫌味のつもりか?王族の捕虜だからと言って、どこまでも甘い顔をすると思うなよ」


私達はそのまま目をそらせないままでいた。

いつの間にか、シロエに怯えた様子はなくなっていたが、私はもうそれどころではなくなっていた。


「尋問はこれで終わりですか?」

「尋問だと?魔族に屈しなかったつもりか。本当に愚かだな」

「終わりなら、もう出て行ってください。私は一切抵抗する意思はありません。続きがあるなら、時間をおいていただけませんか?」


シロエはそう言って、真っ暗な窓に目をやったまま、無言になった。


私はもっと言ってやりたいことがあったが、これ以上は恥の上塗りになるのは確実だ。

この先何を言ってしまうか、自分でも制御できないかもしれない。


「すぐに別の者がお前の魔力を吸いに来る。それまでおとなしくしていろ」


私は足早に牢から出る。

ドアが閉まったと同時にため息が出た。悪夢だ。こんな醜態が知れ渡ったら、私の築いてきたものが崩れてしまうかもしれない。


もうここへは来ない。私は無言で研究所を去った。

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