決意
また、この季節がやって来た。秋の空から冬の空ヘと変わる12月。
世の中は、新年を気持ちよく迎えるための大掃除を着々と作業していた。
秋の心地よい空気から冬の心臓をうつ様な空気ヘと変わるこの時期が僕は好きではなかった。
お父はこの季節がくる2年とちょっと前に胃ガンと診断された。
お父さん胃ガンになったから…。
漠然と告げられたその宣告にただ言葉を失った僕にお母さんはもう一言僕に、僕だけに告げた。
野球部、考えてくれないかな…?
主語がないその言葉を1テンポ遅れて理解する。
何も言ってないのに涙が落ちる。
当時、16歳だった僕は必死に大人になろうとしていた。
今までの努力をすべて捨てて…
わかった。
たった一言そう言っただけなのに涙が止まらない。どうしようもなく溢れてきた。
お父の病気の事を話そうとするお母さんを出てけ怒鳴り部屋から追い出すと、僕は声を殺して激しく泣いた。
次の日の夜に詳しい話しを聞いた。お母さんはまだ子どもの僕にずいぶんかみくだいて説明してくれた。
僕が野球をやめなければならない理由も…全部。
胃を全部無くすのはなんとか大丈夫だったけど癌になっている所はとらないと駄目なの。それでも胃を一部分でも無くすというのは、日常生活に相当な障害になるの。
薬物投与での……
なんで野球やめないとダメなの?
まだ、話している言葉を遮って聞く。早く聞きたかった。
お母さんはさっきより顔をゆがめて話す。
お父さん、手術終わったら転勤になるの。今までの仕事はちょっと力仕事だったから力を使わない所に。
けど、やっぱりその分給料は落ちちゃうの。それで…
言葉をつまらせている内に
どのくらい?
と聞いた。
半分以上…
それだけの言葉で充分だった。今の生活でさえ金融会社から毎月お金を借りて暮らしていたのに、給料がそうとなったらたびたび遠征費やユニフォーム代がかかる僕をやめさせるのは当たり前の様な気がする……
けど、生活の方は何とかするから。大樹にお金を当分借りて、お母さんも働くから。泰弘と美有希の学校は絶対卒業させるから。
ゴメンね………
お母さんのゴメンねにどれほどの思いが込もっていたかも分からずに
そう。
と、つぶやいて僕は部屋に帰って、泣いた。