001
「う~ん……。」
目が覚めた。体を起こして欠伸をする。目の前には見知らぬドアが見えた。
「ん?……は!?」
さっきまで半目だった目をしっかり見開いて周りを見る。
目の前にはドア、左が壁、右にはタンスなどがあって、右斜め後ろには……。
「おはよう。やっと起きたね。」
小林君がいた。机の側にある椅子に座ってこっちを見ていた。昨日の夜とはまるで別人のような笑顔。元に戻った、と表現するべきかもしれない、普段通りの小林君だった。
「今日から泊まっていきなよ。」
「へ?いや、帰ります!」
好きな人と一緒にいられるのは確かに嬉しい。けれど、いつ襲われるか分からないのに一緒にはいられない。
「帰るからね、さよなら。」
帰り道も知らないけれど、とにかくベッドから降りてドアに向かって歩く。ドアノブに手が届きそうな位置まで来て、手を伸ばそうとした。しかし、
バチッ!
手を伸ばす前に体全体に衝撃が走り、軽く後ろには飛ばされてしまった。
「うん、結界張ってるの。」
「えええ!?」
「窓からも降りないでね?ちゃんと飛べないでしょ?」
むぅ……私は小林君の部屋に閉じ込められたようだ。
「帰っていい?小林君の親は何て言ってるの?」
「ん?僕は親いないから。」
「え……。」
そんなこと知らなかった。酷いことを言っちゃったな……。
「あぁいや、一人暮らししてるだけだから。親は別のところにちゃんといるよ。」
あ、そうなのか。なら良かった。学生で一人暮らしなんて凄い。
「星空さんのところも親いないんでしょ?じゃあここにいても構わないよね。」
何故それを知っている!確かに私は祖母と二人暮らしだけど……。
「僕がもう説明しておいたからね。」
「え、誰に?」
「君のお祖母ちゃん。」
「はい!?ちょっと勝手に……。」
自分の知らないところで、私がここで暮らすことは確定していたらしい。
「よろしくね。」
「……。」
飛びっきりの笑顔で言われたけれど、気持ちが少し落ち込んでいるせいかドキッとしなかった。
まだ納得がいかない。でもこの事実を切り抜けることは私には不可能だった。
結局私はここで暮らすことになった。そして色々と話し合った。気付けばとう夕方を過ぎていた。
「僕夕飯作るよ。待ってて。」
そういうなり部屋から出て行く。小林君は結局に引っ掛からないらしい。
一人になった。本当はいけないことなんだろうけど、過ごし方部屋を物色しよう。
タンスの中、彼のつくえの引き出しの中など色んな所を見た。一通り部屋を見たけれど、怪しいところはなかった。普通の、男子高校生らし部屋だ。
「ふぅ。」
ドアの向かい、部屋の奥にある窓から外を見て小林君が戻ってくるのを待った。外はもう暗かった。
「オムライスで良かった?」
程なくして彼が戻ってきた。手にはお皿を持って。
「料理、上手だね。」
そのお皿にはケチャップのかかったふんわりとしたオムライスが盛られていた。
「そう?まあ一人暮らししてるし多少はね。」
パク。一口食べてみた。正直美味しかった。彼の手料理、まさか食べられるとは思わなかったよ。
「ごちそうさまでした。」
「うん。…美味しかった?」
「とっても!……あのぉ、トイレ行っていい?」
部屋にはトイレはない。つまり、この部屋から出なくちゃいけないのだ。
「あぁ、忘れてた。ごめんね、どうぞ。」
でもそんな時は結界を消して外に出してくれた。良かった……。監禁まではいかないみたい。
そんなに不自由のない暮らし。敵対していたことも忘れ、私はとても幸せなんじゃないかと思い始めていた。