001
ボフンッ
夜。寝るつもりでベッドに倒れこむ。
「結局遅刻だったじゃん……。ったく。」
集合時間に間に合わなかったことを今更悔やむ。小林君は間に合ったらしい。
遅刻したことを思い出したせいで、あの非日常な出来事まで思い出されて眠れなくなった。
「……寝て忘れようと思ってたのに。」
さっきから文句しか言っていない。気を取り直してさっさと寝ようと目を閉じた。その時、
「こんばんは、星空さん。」
という声がした。確かに聞こえた。こんな夜中に男の声。部屋にはもちろん誰もいない。
「小林だけど……。」
「え?……え!?」
思わず大声を出す。近所迷惑も甚だしい。
必死で頭の中を整理する。何故彼の声が聞こえるのか。
整理している間、何故か落ち着いてる自分がいた。彼の口調が、学校にいる時のような明るいものだったからかもしれない。
そして、ある答えが浮かんだ。それもまた、現実味のない答えだ。
……小林君は、テレパシーが使える!?
「いやいや、変な本の読みすぎかな。」
口に出して否定してみる。でも、それ以外の答えは思い付かない。
もしこれがテレパシーだとして、ある問題が発生した。自分はテレパシーが使えない。会話が出来ないのだ。
「驚いた……?」
なおも彼からテレパシーが送られてくる。「驚くよっ!」……という声が出るのを必死で防ぐ。近所に迷惑はかけられない。叫んでも聞こえるはずもないし。
でも、気持ちが落ち着かないので心の中で「驚くよっ!」と叫んでみた。心の中なら、迷惑にもなるまい。
「驚いたな……。」
「いやそれこっちのセリフだから。」
「だって星空さんもテレパシーを……!」
「へ?」
言われて気づいた。会話成立してる!?
「やはり早く……。」
彼の独り言と同時に、右から視線を感じる。パッとベッドから降りて窓を開けると、隣の家の屋根に座っている小林君の姿が見えた。
「え、こ、小林君!?」
彼は全身黒の服に身を包み、マントを着ていた。
「星空さん……さようなら。」
彼の目線が鋭くなった。と同時に、彼は手から丸く輝くものを放つ。
考えるよりも先に体が動いていた。
『避けなきゃっ!!』
私の体は窓から飛び出し外に出る。さっきの丸く輝くものは私の下すれすれを通って壁に当たった。
って駄目駄目駄目!!私このまま落ちて死んじゃうよ!
ちゃんと考えてから行動するべきだね。私の体はどんどん下へ落ちていく。家の2階からだから、高さは結構ある。
「さっきさようならって言ったよね……?」
もしかして私に消えて欲しいの?そんなことを考えてしまった。
地面を見ると、私の影が見える。それは段々と大きくなる。近づいている証拠だ。
「……?」
横から黒い影が現れて……私の影と重なった。それと同時に、何かに包まれる感覚。
「小林……君?」
信じられなかった。私のことを消そうとしたであろう彼が、私を助けてくれたのだ。ふわりと地面に着地する。
「そんな死に方じゃ困るんだ。」
この言葉で、やはり彼が私を殺そうとしていたことが分かった。
本音なのかは分からない。普段学校ではとっても明るい彼が、仏頂面をしている。
彼は再び屋根へ上がる。マントのお陰で飛べるようだった。
「まだ手を出さないことにした。けど、僕の邪魔をしたら容赦しないから。」
そう言うと飛び去った。
私を殺して何がしたいのか。そもそも何故私なのか。全く分からない。1つ分かることは。
「どうやって家に帰ろう。」
ここは外。もちろん鍵なんて持ってきてないし、2階には届かない。
「……小林許さん。」
冗談混じりにそう呟いた。