モテてマス
私の名前は灯璃。
漱二と幼なじみで、同じ高校生だ。
私はいきなり、見知らぬ場所に飛ばされた。
当時は、拓矢君という漱二のいとこが一緒だった。
しかし、拓矢君はあの日突然、私の前から消えてしまった。
彼はどうしているだろうか……。
私はあの日から数週間後、イゼリアの町にアルト民族の人と到着した。
アルト民族はそこで物資の補給をすると、すぐ次の旅へ向かった。
私はひどい引き止めにあったが、それを固辞してイゼリアの町で別れた。
理由は、どことなくアルト民族が不気味だったからだ。
イゼリアの町ではどうしようか途方に暮れた。
女の身一つでろくなお金も持っていなかったし。
(食料品だけはアルト民族の人からもらった)
私は町の自治団だという人に相談し、職を探すことになった。
そこでトントン拍子に面接に受かり、とある料理店でウェイトレスとして働くことになった。
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「いらっしゃいませ~! ご注文は何になさいますか?」
「おお、じゃあ、肘木のアラビアータで。」
「かしこまり~! アラビアータ一つ、お願いします!」
今日もいい天気だ。
私はのんきにそんなことを考える。
この町に来てから4ヶ月も経ったが、大分馴染んできた気がする。
それもこれも、道行く人が皆親切だからだ。
私はこの世界では、どうもかなりの人気者らしい……。
お店も、私が来てから売上が三倍になったと言っていたし。
とりあえず、当面の目標は“拓矢君・漱二・唯香ちゃんを探す”ということだ。
そのためにも、頑張ってお金を稼がなきゃ。
……そんな風に働いていたある日、旅の噂でこんなことが聞こえてきた。
曰く、[迷宮を歩くだけで攻略する冒険者がいる]
だとか、
曰く、[凄まじい豪運でギャンブルに勝ちまくる女の子がいる]
だとか、
曰く、[とある町で死なない怪物が見つかって、実験動物になっている]
だとか、どれもこれも根も葉もない話だ。
「うーん……大分、貯蓄もたまってきたし、そろそろ次の町に向かおうかなぁ……」
私は料理店の店主のご好意で、店の二階に寝泊りしていた。
なんとも奥ゆかしい木の匂いを嗅ぎながら、そろそろ旅の算段を付け始める。
「……この店の店主さんには大分親切にしてもらったし、ちょっと離れがたいなぁ。」
この町で最初に相談に乗ってもらった自治団の人。
そしていまお世話になっている店主さん。
彼らには、本当に頭が上がらない。
「……でもやっぱり、“あの人”達がいるから、早く離れた方がいいかも。」
この町に来てから1ヶ月くらい経った頃だろうか。
お店に来てくれる常連さんから、突然ファンクラブを作りたいと言われた。
特になにもしなくてよいから、公認してくれと。
その場では、なんだか怖くなって断った。
しかし結局は押しに負けて許可してしまったのだ。
「……はぁ、なんでこんな許可しちゃったんだろ……。」
なにかしてくるわけではないが、時々熱っぽい目線を送られる。
やっぱりそういった視線は気になってしまう。
「……ううん、悩んでも仕方ない!
今日も張り切って仕事しよう!」
悩んでもくよくよしないで前向きなのは、私の昔からの長所だ。
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ガヤガヤガヤガヤ
……店に顔を出すと、何やら通りの方が騒がしい。
何かあったのだろうか?
「あの、マスター……何かあったんですか?」
「ああ、アカリちゃん、おはよう。
うん……どうもね、少し前にこの店の前の通りで人が行き倒れたみたいだよ。
しかも、服は血まみれだとさ。
今、自治団と治癒院の人を呼びに行っているところだよ。」
行き倒れ……
珍しいな、と思った。
この町はとても治安が良く、犯罪は滅多なことじゃ起こらない。
それなのに、血まみれなんて……
「あの、私ちょっとだけ見てきます。」
「ああ、いいよ。開店前だからね。
でもあんまり怪我人に近づいちゃだめだよ。
何かの病気かもしれないしね。」
店主さんに許可をとって、噂の通りの人物を見に行く。
その人物は、よく見覚えのある顔の黒髪の少年であった。
少年は意識を失って横に倒れている。
「!! 拓矢君!!」
……なんでこんなところに、こんな姿で!?
道端で血まみれの姿で倒れていたのは、拓矢君だった。
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拓矢君は、店主さんに許可をもらって、私が看病することになった。
もちろん、自治団の人にも事情は聞かれた。
そこは素直に、同郷の知り合いで通した。
また治癒院の人に見てもらったが、拓矢君に特に外傷は見つからなかった。
ならば、このおびただしい量の服についた血は一体何の血だろう?
疑問がたくさん浮かんでくるが、まずはタクヤ君の容態だ。
タクヤ君はぼーっとしていて、口を利くことができない。
いわゆる心身喪失状態だ。
治癒院の癒士が言うには、精神的なものが原因らしい。
私はひどく責任を感じた。
私が目を離したから、彼がこんな目にあったのだと。
それからは、私は仕事と並行して、彼の看病をするようになった。
店主さんも快く了解いただき、彼も店の二階の空いた部屋に住まわせてもらった。
そうして、2ヶ月が過ぎた頃、彼はまたしても私の前から居なくなった。
ただし、今度は置き手紙を残して。